再生のための創形魔術
挿画:plus9
デザイン:木緒なち(KOMEWORKS)
高橋忠彦(KOMEWORKS)
序章 失墜の夢
少女の肌が血の気を帯びたことこそ、奇跡だった。
その頬に赤みがさし、うつろだった瞳が光を宿す。閉ざされた唇がうっすらと開き、呼吸を始める。一糸まとわぬその皮膚に健やかな張りが生じる。彼女の内側からわき上がる瑞々しい活力が全身に行き渡っていくのが、目に見えて分かった。
そんな彼女の様子を見つめ、ハジメは、感激に打ち震えている。
彼女の一挙手一投足、否、ほんのわずかな身じろぎやまばたきさえも、ハジメの心を揺さぶるのだ。
目の前にいる少女は、人間ではない。
人の形こそしているが、それは光土クレリアによって造り出され、魔力によって命を与えられた、人ならぬもの――ホムンクルス。
ハジメが長い時間をかけて生み出した、それは創形魔術クラフテイカの精髄。
奇跡のような存在が、今、目の前にいる。
ホムンクルスの少女が、ハジメに微笑みかける。命令による単純な動作とは一線を画した、心からの微笑み。造物主への感謝と畏敬を込めたような、その笑みは、ハジメに向けられていた。
「……やった」
自然と、声が漏れた。
長い長い時間をかけ、土くれをこね上げ、人の形に彫刻していく。そうして造り上げた呪形クレイに、繊細かつ精密に魔力を注入する。
歴史の中で積み重ねられた叡智と、ハジメ自身の弛まぬ精神力とによって成し遂げられた営為の結晶が、彼の目の前にあるのだった。
立ち尽くしていた彼の両手が、ホムンクルスの少女に向かって伸ばされる。その手で彼女に触れたかった。数百年の間、誰にも成し遂げられなかった創造の奇跡を、その手で体感したかった。
ハジメの意図に応えるように、少女が手を伸ばしてくる。
少女の微笑に、満面の笑みで応じて、ハジメはその手を握った。
瞬間、彼の手のひらに突き刺さったのは、土の冷たさ。
「――っ!?」
びくり、とハジメが手を退くよりも先に、少女の手が崩れ始めた。ぼろぼろと、温度を失った土の塊が彼の手のひらを滑り落ちていく。
崩壊はあっという間に腕から肩、そして全身に伝わっていった。ついさっきまで、健やかな赤みを帯びていた肉体が、茶色い土へと変貌し、脆く崩れ去