不本意ながらも魔法使い
挿画:vane
デザイン:木緒なち(KOMEWORKS)
高橋忠彦(KOMEWORKS)
序章 魔法使いと二剣士
ふと気がつくと、落下していた。
天道戒は、目をぱちぱちと瞬いた。
戒がいるのは、何もない空中だった。
びゅうびゅうと音を立てて、風が絶え間なく吹き上げてくる。
「ははーん……夢だな」
確信を持って呟いた言葉を、風がちぎり取っていった。
青空を白い雲が流れていく。風の音がうるさくて、他には何も聞こえない。
見下ろせば、森に覆われた大地がどこまでも広がっている。
「…………夢だよな?」
もう一度呟いてみたが、さっきより確信はなくなっていた。
真っ逆さまに落下しながら、戒は腕を組んで考える。
……うん、夢のはずだよな。
俺は普通の高校生だし。
飛行機に乗る予定もないし。
こんな高い空から落ちる予定もない。
夢だ夢だ。夢でござる。
でも……あれ? そもそも、俺、いつ寝たっけ?
さっきまで、学校から帰る途中だったような気がしたけど。
たしか、コンビニに寄って、唐揚げを買って出て……。
食べながら歩いてたら、ふっと意識が遠くなって……。
気がついたら……落下していた。
だんだん不安になってきた戒は、自分の身体に目をやった。
制服のズボンに、シャツに、スニーカー。学校帰りのままの服装だ。
手には何も持っていない。カバンはどこに行ったんだろう。唐揚げは?
周りを見回した戒の目に、はるか遠くを落ちていく自分の通学カバンが飛び込んできた。
「あっ、ああっ」
思わず情けない声を上げてしまった。
ファスナーをちゃんと閉めていなかったカバンが大きく開いて、ノートや教科書や筆記用具を空中にばらまいていたからだ。
「あ……あああ……」
戒がなすすべもなく見守る前で、カバンは回転しながら遠ざかっていった。
そして戒のすぐそば、手を伸ばせば届きそうな場所に、食べかけの唐揚げが浮かんでいた。
カリカリの衣の下から顔を覗かせる、柔らかく揚がった鶏肉の色。
脂の混ざった肉汁が、宙に浮いている。
これほど風が強くなければ、おいしそうな匂いが漂ってきただろう。
見ているだけで唾が沸いてくる。
夢にしては、リアルすぎた。
くるくる周りながら上方へ遠ざかって