はぐれ聖者の神剣勝負
挿画:MtU
デザイン:木緒なち(KOMEWORKS)
高橋忠彦(KOMEWORKS)
序章 遭遇の剣戟
騎士は走る。ひた走る。白馬にまたがり、山道をゆく。
早春の陽射しはまだ薄く、向かい風は肌に冷たい。
剥きだしの土を蹄鉄が打つたび、力強い揺らぎで金色の髪がはためき踊る。
「もっとよ、プリマヴェーラ! もっとがんばる!」
馬カヴアロに乗ってこその騎士カヴアリエレ。
馬の足は騎士の足。騎士の栄誉は馬の栄誉。使命とあらば坂道も粉骨で駆けあがる。だから労りは必要ない。ただ信頼をこめて手綱を取る。
「ちょ、ちょッとフィオ! 急ぎすぎじゃないッスか!」
悲しいかな、背中にしがみついたミカエラ・ソアヴィは騎士でなく従者。胸と手足の鎧からして装飾は控え目。顔も体も華やかさに欠け、赤茶けた髪は風にたなびくほどの長さもない。馬上にもまるで慣れておらず、吐き気に嗚咽を漏らしている。
くらべてみると対照的だ。騎士の髪は豊かな金糸。鎧姿は華麗の一言、優美な微笑みは絶えることなく、前方を見据える眼差しは凜として揺るぎない。
「はいミッチー、確認! 私の使命はなんでしょうか!」
「ヴィ、ヴィルジーノ家の所領であるデルツォの村にて発見された古代遺跡の調査、および同時に発生した正体不明の怪物の駆除……おえっぷ」
「つまり一刻の猶予もなし! いくら急いでも急ぎすぎじゃない!」
「本隊ぶっちぎって先行するのはどうッスかねぇ……だいたいふたり乗りでこの坂を全力疾走なんて、プリムが壊れるッスよ。ていうかアタシもヤバい、そろそろ……!」
彼女の乗馬下手は重々承知している。わかっていても焦燥は募る。
この先には怪物の脅威に怯える人々がいるのだ。
とはいえ、ミカエラばかりか愛馬プリマヴェーラも息があがっている。やはり鎧着用のふたり乗りは負担が大きすぎるのかもしれない。
「ためしに想像してみりゃわかるッスよ……背中に人を乗せたら大変って。ほら、ギルド連の今年の標語だって――若人よ、馬であれ――ッスから」
想像してみた。すこし間を置き、ピンとくる。
「ミッチー、お手柄ね!」
「はい?」
思い立つと休む間もなく、フィオは行動に移った。
デルツォの村は灰褐色に染まっていた。
四方を取