はみだし英傑の冒険譚
イラスト/だんちょ
デザイン/伸童舎
目次
序 地下迷宮の×DRAGON
第一話 遅れてきた×SAMURAI
第二話 月下の×ENCOUNTER
第三話 はじめての×DUNGEON
第四話 奥様は×FOREIGNER
第五話 はみだし×HERO
あとがき
◆序 地下迷宮の×DRAGON
「……ん……っ」
全身を覆う鈍い痛みに、少女はゆっくりと眼を開く。
うっすらと見える視界が、夕焼けのように朱く染まっている。
地の底深く広がるこの迷宮で、どうして夕映えが――。
肺に酸素を送り込んだ途端、器官が焼けつくように熱くなって思わず咽せる。
周囲の空気そのものが、灼熱になっているのだ。
やがて、周囲を染めているのが燃えさかる炎の照り返しだと気づく。
(……ああ、そうだ……我は……)
おもむろに顔を上げると、視線の先にひとりの少年の背中が見えた。
満身創痍となり、手にした刃は無残にも砕け散っていたが、それでも自分の脚でしっかと地面を踏みしめ、顔を上げていた。
「リョウ、マ……」
少年の名前を呼んでみる。
偶然に偶然が重なった成り行きとはいえ、彼女が生涯の伴侶と決めた男だ。
「…………っ」
少年が見据える先に視線を上げて、少女は息を呑む。
そこにいたのは、巨大な彫像のようにそびえ立つ巨大な龍ドラゴンだった。
あれはこの地下迷宮を守護する八体の聖なる龍の一翼「灰の王」だ。
体表を覆う鱗に炎が反射し鈍く光るその威容は、まさに神の遣わしたる、人智を超えた存在にふさわしかった。
もし不幸にも迷宮で守護龍と遭遇してしまったら、即座に地にひれ伏し寛大なる慈悲を乞うしかない。
それでも無事で済むのは、万に一つの確率だ――彼女はそう教わった。
だが、少年は跪き頭を垂れることもなく、一歩も引かない気概で巨大な龍の前に立っていた。
「……!? ま、待、て……っ」
愚挙を諫めようとするが、身体は鉛のように重く、指一本たりとも動かせなかった。
やがてまっすぐ己に向けられた視線に反応したのか、地響きのような唸り声とともに龍が巨大な顎を開ける。
鋭利な牙の林と紅絨毯のような舌の奥で、まるで火山の噴火口のように灼けただれた赤光が輝き始