モテってこんなに大変だったのか!?
挿画:イチリ
デザイン:BEE‐PEE
目次
序章
第一章 月が綺麗ですね
第二章 デキル! 自転車二人乗りスタイル
第三章 これはデートですか?
第四章 委員長の息抜き
第五章 古典的な告白方法
終章
あとがき
序章
陰が、伸びていた。
誰かのかけ声が、聞こえる。
吹奏楽器の音が、空に響いている。
周囲が、夕焼けに赤く染まり出していた。
ほんの少しだけ、肌寒い空気。
午後の五時半。逢魔が時の、不思議な空間。
この黄昏た世界の中で、眼鏡を掛けた少年はひとりでせわしく歩いていた。
用は済んだ。さっさと帰りたい。我が家。嗚呼愛しのマイルーム。
笠下悠真はいつもなら終業チャイムの余韻も冷め切らぬうちに驚くべき早さで帰宅した後、自室の据え置きPCの前で寛いでいる筈であった。しかしこの日は行き遅れの副担任から非常にメンドクサイ膨大な量の雑務を押しつけられてしまった。サド教師めと、悠真は内心毒づいたが、熟練のライン工も舌を巻くほどの速度と正確さで淡々テキパキと雑務をこなし、さっさと校舎を出て、そのまま足早に帰宅しようとしていたのだ。もうすぐ校門にたどり着く。
と、その時だ。チリンチリン、と後ろから自転車のベルが鳴った。
振り返ろうとした瞬間、自転車が追い抜いていった。颯爽とした風が悠真の身体に当たる。
「ごめんね!」
荷台に腰掛けていた少女がこちらに振り返ってそう言った。手の平をこちらにかざし、悪びれたそぶりをする。笑顔がまぶしい。
率直に言って、可愛かった。不覚にも悠真は一瞬ときめいてしまった。だが――。
「男子」がいた。少女の前で自転車をこいでいるのは「男子」だった。野球部員だろうか、頭は坊主だった。
自分に笑顔を向けた可憐な少女は、悠真から視線を外すと坊主男子の腰に腕を回し、彼をぎゅっと抱きしめた。そしてそのまま背中に顔を埋める。
――この状況はいったいなんなのだろう。
悠真は考えた。
一.男女が二人乗り
二.女が男の腰に腕を回す
三.女が幸せそう
つまり二人は恋仲……。
悠真は自らの弾き出した論理的結論に愕然とした。納得できない。
なぜあの坊主頭が?
――男子の顔