祓魔科教官の補習授業 落第少女に咒術指南
挿画:NOCO
デザイン:ナカムラナナフシ(ムシカゴグラフィクス)
序章
「人気がないのは確認したな? なら、ここで食い止める。準備急げ!」
黒嶋は大声を上げ、そして部下の一人に視線を向けた。
「対策本部からの連絡は?」
「今ありました。――『避難警報発令の必要は認めず。ここで確実に排除しろ』と」
「――またか!」
歯を剥いて唸る上官に、部下たちは身をすくませる。
「ったく、現場を知らん上層のアホどもが!」
市民に余計な不安を与えるのは確かに控えるべきだろう。『問題なく排除できました』という事後報告だけで済めば、それに越したことはない。
しかし全ては現場での処理が上手くいけばの話である。逃がせばアレは無防備な市街地に突入し、人間を喰い散らかす。実行部隊にかかる重圧は半端ではない。今回のように余裕のないイレギュラーケースでは特に、だ。
「姿が見えたら斉射。足が止まったら、咒術クラフトで止めだ。――構え!」
天原市特別災害事案対策隊第三班、黒嶋以下六名が迎撃態勢を取る中、地響きを伴った足音が徐々に大きくなる。
やがて――角を曲がって標的が姿を現す。
「……うえ」
部下のうめきが聞こえた。
魔禍魂デモン――それはまさに『醜悪な肉塊』という表現が似つかわしい生命体だった。
一つ一つのパーツは人間のものに似ている。しかし、その配置も数もでたらめ極まりない。死者のようにあおぐろい体を三本の足と一本の手で支え、前部と上部に付いた目がせわしなく動いている。背中には二本の太い触手。
でかいな、と黒嶋は胸のうちで呟いた。
体長四メートル、体高二メートルというところだろうか。黒嶋の豊富な経験の中でもそうそう経験のない大物だ。ここ天原市の警備担当官として赴任してからでは、おそらく最大クラスだろう。
班長の自分を含めた四名が常人フラツト、二人が咒禁師ウイズである。通常の魔禍魂デモンならこれで十分に対処できる構成だが――
「撃て!」
号令とともに機関銃が火を噴く。一瞬怯んだように足を止めた肉塊だったが、すぐにその巨大な眼球がこちらを睨めつける。
黒嶋は勘の命ずるままに声を上げた。
「斉射継続! 平行して咒術クラフト行使! 全力でだ!」
命令に応じ、咒禁師ウイズたちの咒杖ワンドが鈍い光を放つ。
まず、不可視の空