白河氷翠のひめごと
挿画:泉水いこ
デザイン:木緒なち(KOMEWORKS)
高橋忠彦(KOMEWORKS)
序章 凍える教室
転校生は雪女だった。
担任教師に呼ばれてドアを開き、教壇に立った少女の姿は、実に雪女らしい説得力に満ちている。窓際の輝明から見ても納得の雪女感である。
(やっぱ美人なんだなぁ、雪女って)
雪女と言えば、昔から美人と相場が決まっている。
季節外れのマフラーで口元が隠れていようと、目鼻立ちの端正さは見てとれた。
きめ細かな肌は冷水のごとく澄み渡り、艶めく髪は鴉の濡れ羽色。
他者を拒むように凍てついた表情は、まるで高山に咲く孤高の花。
息が詰まるような、氷細工の美貌がそこにある。
「彼女が転校生の……ほい、自己紹介して」
「白河氷翠です。どうぞよろしくお願いします」
会釈をすれば黄緑色のマフラーに隙間が開き、上品な口元が露わになる。
ひゃお――
と、そこから冷気が教室いっぱいに漏れだした。
文句なしに本物の雪女だが、それ自体はさして驚くことでもない。輝明もあらかじめ転校生の話は耳にしているし、朝からゴシップ好きの見田が吹聴していたのだ。
「ものすっげクールビューティが職員室に入ってった」
「寒気がするほどの美人ってやつだ」
「職員室が氷漬けになったから、教師一同かき氷を作ってた」
「ありゃあ間違いなく雪女だ」
「あとかき氷めっちゃウマかった」
などなど、尾ヒレを適当に付け足して。
だれしも心の準備はできていたはずだ。
なのに彼女のもたらす冷気が、体を震わせてやまない。
「皆さんお気づきのとおり、彼女はタルボットです」
初老の担任にこの寒さは相当堪えるらしく、しきりに腰をさすっている。
「彼女たちはあくまでタルボット現象エフエクトという特異体質を持って生まれただけの、我々とおなじ人間です。雪女などという呼びかたは、タルボット研究がなかった時代の無知蒙昧な偏見にもとづく蔑称にすぎず……」
「いいえ、先生」
氷像のようであった彼女の表情が、そのときはじめて崩れた。
頬が蠢いている。
目が細くなり、マフラーに隠れがちな口の端が――かすかに持ちあがる。
「人であろうがなかろうが、私は私の血筋を誇りに思っ