暁の夢使いたち
挿画:鷹野ゆき
デザイン:児玉賢吾(BEE‐PEE)
目次
1章 悲観主義者とホラー音痴
2章 DreamMaker
3章 夢見る心をなくしたら
4章 君がいてくれたから
5章 しののめの…
6章 夢使いたち
あとがき
一章 悲観主義者とホラー音痴
成川浅葱は極めつけの悲観主義者だった。
※ ※ ※
一年でもっとも昼の長い日だった。
それでも夜はやってくる。忍び足とともに黄昏を連れて。
あたりの景色は茜色に染まり、あらゆる物の輪郭もあやしくなって、通りを行き交う人々が影法師と化す逢魔の時間。
浅葱は物売りの声も喧しい商店街を折れて裏通りを歩いていた。
コツン、と小石を蹴った。転がった小石が狭い小路の石壁で跳ねかえって排水溝へと落ちる。ぽちゃんという水音に浅葱は、物思いから覚めた。
顔を上げ、はっとしてあたりを見回す。
「っと……ええと」
気づけば、裏通りには人通りが絶えて浅葱の周囲には誰も歩いていない。あらゆる物音が消えていた。
浅葱は急に不安になった。いつものようにその不安を種にして悲観的な妄想が膨れあがる。
まさか俺の知らないうちにもう世界が滅んでいたりして、とか。
本当の俺はもう死んでいて、ここにいる俺は幽霊なんじゃないか、とか。
ごくり、と唾を呑む。そんなはずはない。そう思うのに、こんなふうにひとりでいるときに物思いから覚めた瞬間は、浅葱はいつも不安でたまらなくなるのだ。そういうときに浅葱の取る行動はいつも同じ。
すれ違う電柱に手のひらを押し当てる。ひんやりとした石の柱の感触を得て、そうして浅葱はようやくこの世界が夢ではないことを実感できる。
ほっとするとともに頬が熱くなった。耳を澄ませればちゃんと、表通りを走る車の音も蝉の声も聞くことができる。遠くに響くのは機械音声による廃品回収の口上だ。
世界は滅びていないし、自分はまだ生きている。
「だよなぁ……」
小路の途中にある我が家が見えてきた。
築三十年、平屋の木造家屋が浅葱の家だ。高校二年の浅葱はこの家に母とふたりで住んでいる。学者の父は東北にある大学付属の研究施設に単身赴任中だった。
錆の浮く門に手を掛けるとキィと鳴った。
その音に浅