引きこもりたちに俺の青春が翻弄されている 2
挿画:のん
デザイン:百足屋ユウコ&ナカムラナナフシ
(ムシカゴグラフィクス)
目次
序章
第一章 瑞鳥紫羽のインモラルな宴
第二章 みんな大好き! 牛タンくん
第三章 紫羽トライアル
第四章 真紅の魔女
第五章 少女の祈りと英雄の帰還
終章
あとがき
序章
試験終了を告げるチャイムの音が、ぴんと張り詰めていた緊張の糸を断ち切ると、堤防が決壊したかの如く、教室中からため息と喧騒がどっと沸き立った。
俺もまたほぅと一息ついて、回収されていく答案用紙を見送りながら教室内を見渡す。
「ぐわー! 全然できなかった!」
「ホント難しすぎ……竹原マジ殺す」
「終わった……百パー追試だ……」
「ねぇねぇ、問七の訳ってさ」
いやらしい文法問題や、難解な和訳英訳で有名な竹原先生の試験ゆえ、聞こえ来るみんなの声も試験内容に対する諦めと非難の声が多く占められており、十字を何度も切る者、机に突っ伏す者、両腕を高々と掲げ天を仰ぐ者と反応も様々で見ごたえがある。
だが、教室に流れる空気は決して悪くはない。みんなの表情も試験の出来はどうあれ、どこか晴れやかである。
そう、この時間の英語の試験をもって九宝坂高校の一学期期末試験は全て終了、そしてそれは程なくして夏休みを迎えるということでもあった。
「よう、蒼衣。出来はどうだ?」
隣の席の宮園が声をかけてきた。その顔には余裕か、それとも諦めか判断の分かれる穏やかな笑みが浮かんでいる。
「うん、まあまあかな。宮園はどうだった?」
「俺か? 全然できてないぜ!」
ドヤ顔で親指をぐっと立てた。どうやら後者の笑みだったらしい。
「お前……」
「いいんだよ、竹原の英語なんて端から捨ててるしな。平均点の低さを見越して、最初から赤点回避を狙ってたからさ。まあ、その点では上手くいった確信はある」
どうやらただ無条件で白旗を振ったわけではないようだ。
「そっか、それはよかったな」
「おうよ、なにせ赤点は補習と追試だし、さらに追試の出来が悪いと夏休みにまた補習だからな。そこは絶対に回避しとかないとな」
九宝坂高校の試験は平均点の半分未満が赤点で、不覚にもそうなった場合には宮園が言ったようなペナルティが科せられる。