后退 返回首页
作者:おみの維音
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-12-28(角川书店)
价格:¥580 原版
文库:角川Beans文库

代购:lumagic.taobao.com
視えるふたりの恋愛相談室 視えるふたりの恋愛相談室 おみの維音 角川ビーンズ文庫 本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信したり、ホームページ上に転載したりすることを禁止します。また、 本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。  目次 第1話 それは幼なじみの恋のゆくえ 第2話 それは後輩の想いのゆくえ 第3話 それは互いの覚悟のゆくえ 第4話 それは──の願いのゆくえ  あとがき     1  世の中にはごくまれに、人ならざるモノが視える人がいる。  私──結野束も、その〝ごくまれに〟に当てはまるうちのひとりだ。  視えるものは幽霊。いわゆる、霊視や霊感といったもの。  幽霊といってもピンからキリまであって、うっすらと透けていて足がないものもいれば、輪郭がくっきりしていて生きている人たちと変わらないもの。さらには意思があってはっきりと喋るものまで。本当にさまざまな幽霊が存在する。  どうして違いがあるのか。それは私にもわからない。でも、未練が強いとか、そういったなにかしらの理由があるのだろうと自分なりに結論づけていた。  もちろん、私が通う高校にも幽霊は存在する。 『子猫ちゃん、今日のお弁当はなんだい?』 『ミィー』 『あ、今日はエビフライが入ってる』  中庭のベンチでお弁当箱を広げているところにやってきたのは、幽霊のなかでも積極的に絡んでくるひとりと一匹だった。  自分が食べるわけでもないのに、お弁当箱を覗きこみながら嬉しそうに話すのは人型幽霊のセイゴだ。イケメンと断言できる容姿を持っているのに中身がなんとも残念というチャラ男である。写真でしか見たことがない旧型の制服をゆるく着こなしたこの学園の元生徒で、受験の迫った最終学年の十二月に交通事故に巻き込まれて亡くなったらしい。だけど、あまりに軽い口調で言われたためにそれが事実かどうか少し疑っていたりする。  ベンチにあがって私のとなりでクワァっと口を開けてから丸くなったのは黒色の猫幽霊、ミィちゃんだ。セイゴ曰く、面倒くさがりの彼の親友が鳴き声をそのまま名前にしてしまったらしい。身体が子猫並みに小さいのは、幼いころに衰弱死してしまったせいだそうだ。セイゴが死因を知っているのなら、ミィちゃんは彼の時代になにかあった猫なのかもしれない。  ちなみに、セイゴが子猫ちゃんと呼ぶのはミィちゃんのことではなく私のことである。  どうしてそう呼ぶのかはわからないけど態度を見るかぎり、からかいの一種だろうと思っている。  高校に入学してから早一年ちょっと。幼なじみに彼氏ができたり、少しだけ環境の変化があっても、視える幽霊たちとの関係もそこまで変わることなく日々過ごしていた。  ──卒業までそう大きくこの日常が変わるわけがない。  心の奥底では、そんな風に思っていたのだけど。 「束ちゃん……」  セイゴの言葉を無視して黙々とお弁当を食べていたら突然、聞き慣れた声がした。  声にひかれるように振り向くと、視線の先には幼なじみであり親友の花川寧々がいた。  今日の昼は彼氏の緑間廉くんと一緒に食べると言っていたはずだ。  それなのにどうしてここに?  よく見れば、彼女の瞳はいまにも涙が溢れそうなくらいに潤んでいた。  いったいなにがあったというのだろうか。 「ちょ、寧々、どうしたの?」 「束ちゃんっ……!」  邪魔にならないよう軽く蓋をしてお弁当箱をベンチの上に置いて立ち上がると、寧々は真っ先に私に抱きついてきた。 「廉くんが……別れようって……」  彼女がなんて言ったのか、すぐには理解できなかった。  ──寧々と緑間くんが別れる?  肩口に顔を埋めた寧々が声にならない声をあげて泣き出した。ハッとして、私はなだめるためにゆっくりと彼女の背に腕を回した。  なんで──その言葉しか、頭には浮かばなかった。  別れる気配なんて全然しなかった。いつも仲睦まじくて、お互いに好きなんだなっていうのが見て取れるぐらいだった。  それなのにどうして急に……?  寧々になんて声をかけたらいいのかわからず、私はただただ彼女の背をさすることしかできなかった。  授業に出ると言ってきかなかった寧々をどうにか説得して保健室に送り届けた私は、午後の授業に出るために教室へと向かっていた。  寧々は大丈夫と何度も言っていたけれど、涙で腫れてしまったまぶたや精神状態を考えると、さすがにそのまま授業というわけにはいかないだろう。 『子猫ちゃん、眉間にしわが寄ってる』  ひっそりとついてきていたセイゴに指摘されたけれど、私は気にすることなく歩みを進める。  教室まであと少し。というところで、ふと誰かとすれ違ったような気がして私は勢いよく振り返った。視界に入ったうしろ姿に私は慌てて声をあげる。 「緑間くん!」  呼び声に反応して足を止めて振り返った緑間くんの表情に私はぎょっとする。 「ああ、結野か……」  緑間くんはひどくつらそうな表情をしていた。それは、どう見ても自分から別れを切り出したとは思えない感じだった。  かける言葉が見つからないでいると、緑間くんは虚ろに私を見て口を開く。 「結野、悪い。あとは頼む……」  そう言って声をかけるまえに行ってしまった緑間くんの背を、私は啞然と見つめた。 「なにあれ」 『うーん、ちょっと前からどこか思い悩んでる感じはあったけど』  首をかしげながらそう言ったセイゴに思わずキッと目線を送った。  ──なにか察してたのになんでいまのいままで言わなかったの!?  はっきりとそう言いたくても、人が多く往来するこんな場所じゃ声にすら出せない。  でも、セイゴは私が言いたいことを察したらしい。 『だって、ふたりでいるときはいつもどおりだったし、てっきり部活のことで悩んでるんだと思ってたんだよね』  たしかにふたりのときの様子が普通ならこうなることは予測できないかもしれない。  だけど、あまりにも唐突な出来事になにか裏があるのではと勘ぐってしまう。 『そうだ。彼に頼めばいいんじゃないかな?』  突然、思い出したように言ったセイゴに私は首をかしげた。  ──彼? いったい誰のことだろうか?  その答えはすぐにセイゴから返ってきた。 『恋愛相談のスペシャリストにね』  いつも浮かべている笑みを深めたセイゴに、私は眉間にしわを寄せた。  五限目の授業に入ってからも一方的に説明を続けたセイゴの言葉を要約すると、学園にいるふたりのスクールカウンセラーのうちのひとり、人見日生先生が恋愛相談のスペシャリストだというのだ。  しかも、先生に相談すると一〇〇パーセントうまくいくらしい。  ただ、うまくいくというのは必ず成就する、ということではなく、本人にとってよい結果が出る、という意味だそうだ。  先生のことは入学式のときに一度だけ見たけれど、遠目でもはっきりとわかるぐらいすごく顔が整った人だなという印象だった。  イケメンというよりは美人。中性的な顔立ちだと思う。それ以降は視界に入ったことはなかったし、訪ねたこともないので実際にどんな人なのか私は知らない。  ただ、セイゴが言うには、性格は難ありらしい。  どう難ありなのか。  気になったので授業が終わってすぐ、クラスメイトの女子に声をかけてみると。 「人見先生? 見た目と中身のギャップがすごい」 「言葉に少しトゲがあるけど、親身に聞いてくれるよ」  と言われた。なるほど。これは少し身構えて訪ねたほうがいいかもしれない。  ついでに、 「結野さんも恋愛相談? 頑張ってね」  と、にこやかに応援までされた。  あきらかに勘違いされてるけれど、まあいいかと私は笑って誤魔化した。  そんなわけで放課後。セイゴに誘導されるままに学園内にある大きい建物のひとつ、管理棟の二階に向かったわけだけど。  ──ないわー、まじでないわー……。  私は遠い目をしながらも、廊下の角から顔を出してその場所を覗きこむ。  ──なんでカウンセラー室のまえに、大量に幽霊がいるわけ……。  そもそも、隠れる必要はまったくないんだけれども。反射的に身体が動いてしまった。  入学してこれまで来たことがなかった場所なだけに盲点だった。油断していたのもある。なにせ、学園内に幽霊がいると言っても、そのほとんどがたまに彷徨っている程度なのだ。ここまで密集度が高い場所は私もいままでに見たことがない。  どうりでセイゴが途中までしかついてこなかったわけだ。なにが『用事があるから』だ。私だって、この状況を知ってたらここに来るのはきっと避けていた。  私は指を揉みながらどうするかを考える。  ……視るかぎり、悪い気配はしない。  問題があるとすれば、ここにいる幽霊がほぼ人と変わらない、セイゴたちのようにはっきりとした幽霊だということ。そういった幽霊はだいたいが意思を持っていて喋るのだ。面倒にもほどがある。  意思持ちで喋る幽霊というのは鬱陶しい上に非常にしつこい。セイゴがいい例だ。  幽霊たちは散ることなく、まるで野次馬のようにカウンセラー室の前を陣どっている。通り抜けられるとはいっても量が量なだけにどうしてもしり込みしてしまう。  いくら幽霊を見慣れてるとはいえ、正直これは勘弁してほしかった。  この、厄介としか言えない状況に頭を抱えたくなるのは仕方がないと思う。恨めしくその場所を見ながら、私は下唇を嚙んだ。  出来ることならこのまま帰りたい。激しく帰りたい。  でも、ここまで来たからには意地でも行く。動くなら、なるべく早いほうがいいのだ。  すべては可愛い幼なじみのために。 「そんなところでなにをしている」 「っ!」  予期していなかった背後からの呼びかけに驚いて思わず前のめりになる。  どうにか体勢を立て直して私は勢いよく振り返った。同時に「あ」と間抜けな声を出してしまったのは不可抗力だと思う。  なにせ、うしろにいたのが目的の人物だったのだから。 「ひ、人見先生……」  先生は片手に書類を持って訝しげに私を見ていた。さすがに廊下の角から覗きこむようにしていれば怪しいと思われても仕方がないかもしれない。  こうして先生を間近で見るのははじめてだけど、目測で一七〇センチちょっとの身長にさらさらで少し長めの黒髪と色白で中性的な面立ちは物語に出てくるどこかの王子様のようだ。身につけている白衣と黒革の手袋も先生によく似合っていた。 「二年の結野束だな。なにかあったのか?」 「ぇ、あ……」  顔を見ただけで学年どころか名前すら間違えることなく言われて私は戸惑った。先生とはこれまで直接顔を合わせたことはなかったはずだ。 「なんで名前……」 「全生徒の名前と顔は大まかだが把握している」  どうとでもないとばかりに言いきった先生だけど、この学園の生徒と言ったら八〇〇人ぐらいはいる。それを覚えられるというのは頭がいいどころの話ではない。 「それで、君はここでなにをしている」  啞然としていたら先生に促されてしまい、私は慌てて言葉を探す。 「あ、えっと。人見先生に用があったんですけど……」  まさか幽霊のせいでカウンセラー室に行けませんでしたとは言えない。  先生はじっと私の姿を見たかと思うと、軽く首をかしげた。 「君も恋愛相談か? 必要そうには見えないが」  言葉にトゲがあるどころか辛辣すぎた。  たしかに恋はしてないけど、必要そうに見えないとか。面と向かって言わなくても。  でも、気にしたところで先には進まない。ばっさりと言い切られたことにムッとしながらも、私はそれらの言葉を飲み込んだ。 「……相談したいのは私のことじゃなくて、幼なじみのことです」  いつもより少し低めの声色ではっきりと告げると、さっきとは違う真剣な眼差しで私を見てきた。  少しの間のあと、先生はなぜか納得したように頷いた。 「ふむ……確かにそのようだな」 「?」  ──いったいなにをもって確信したのだろう?  先生の呟きに疑問を感じる。だけど、それを口にするまえに先生が言葉を続けた。 「しかし、それがここで立ち止まっていた理由にはならないが……まあいい。ついてきなさい」  先生は私を追い越すとまっすぐカウンセラー室に向かってしまった。  私も先生を追おうとしたけれど、カウンセラー室のまえにいる幽霊たちが再び視界に入って思わず足がすくむ。  だけど、次の瞬間。私は目のまえで起こった光景に大きく目を見開いた。  先生が幽霊に近づいた途端、まるで蜘蛛の子を散らすように幽霊たちが一斉にどいた。基本的に幽霊が人を避けることはしない。その必要がないからだ。  ぽかんと口を開いてその光景を見ていたけれど、先生が鍵を開ける音でハッとする。  行くならいましかない。  ──女は度胸!  そう自分に言い聞かせて、私は先生のあとを追った。     2  ……あれ?  幽霊たちを通り抜けて入った部屋はいたってまともで、どこか不可思議なところだった。  さっきの光景がまるで噓のように、部屋にはまったく幽霊がいない。  幽霊たちが先生を避けたことといい、なぜだろうと疑問ばかりが増える。 「扉を閉めて空いてるところに座りなさい」 「あ、はいっ」  先生の言葉に、私は慌てて扉を閉める。そのとき、足元にある盛り塩とおふだみたいなものが視界に入った。  ──なるほど。どうりで部屋のなかに幽霊がいないはずだ。おふだみたいなのはきっと護符だろう。  出入り口に置いてある盛り塩も、扉のふちの下のほうに貼り付けられた護符も、幽霊を寄せ付けないためのものだ。護符は私もまえに持っていたので形状は知っている。  私が買ったやつはまったく役に立たなかったけれど、この護符は効果があるらしい。  というか、これ、私も欲しい。  ただ、盛り塩は湿り気を帯びて山が少し崩れているし、護符も端々が微かに切れていた。消耗している感じがありありと出ている。一抹の不安がよぎった。  ここは魔除けがあからさまに消耗するほど、幽霊が集まるような場所なのだろうか?  だけど、これでさっきの信じられないような光景も納得できた。幽霊たちが避けたのは、先生自身が魔除けになるようなものを常に持ち歩いていたからかもしれない。  でも、わざわざ対策するということは先生も幽霊がいると思っているのだろうか?  それとも私と同じように幽霊が視えるのだろうか?  気になるけど、他にも気になることはある。幽霊のことは一度、頭のすみに追いやる。  私はソファに座ってから室内を見回した。  無機質な造りの教室とは違い、どこか高級感が溢れるアンティーク調のこの部屋は学校の一室とは思えないほど見事な部屋だった。あまりにも違いすぎて入った瞬間は少しだけ気後れしたけれど、こうしてソファで一息つけば学校特有の無機質な部屋よりは温かみがあって安心感があるのは間違いない。  しばらく待っていると、先生はお茶らしきものが入った紙コップを持って戻ってきた。 「ありがとうございます」  私はお礼を言ってから、手渡された紙コップをじっと見た。  なんというか、紙コップというのがこの部屋にすごく合っていない気が。 「まず、こちらから聞いてもいいか? 気になったことがある」 「え、っと、なんでしょう?」  いきなりのことに戸惑いながらも、私は先生の言葉に頷く。 「不躾に聞くのもなんだが、君は幽霊が視えるんじゃないのか?」 「っ!」  あまりにも突然の指摘に、私は大きく息を吞んだ。  はじめて顔を合わせた相手にこうもあっさりバレるとは思ってもいなかった。 「なかなか噓がつけないタイプだな」  先生の言葉にすべて表情に出てしまっていたことに気づく。 「ど、どうして……わかったんですか?」 「あんなところで挙動不審になっているのを見てもしやとは思ったが、決定打はあれだな」  そう言って指したのは、さっきまで私が見ていた護符と盛り塩だった。 「ここを訪ねる者は大抵あれがなにかを聞いてくる。しかし君は聞くことなく興味深そうに見てはどこか納得しているようだった。しかも護符や盛り塩はそろそろ交換時期になる。効力が弱くなって外に幽霊がいたと言われてもおかしくはない」  どうやら私はあからさますぎたうえにタイミングまで悪かったようだ。がっくりと肩を落としてから、気を取り直して私も聞いてみたかったことを口にした。 「先生も視えたりするんですか?」 「いや、私には幽霊は視えない。好かれやすい体質ではあるらしいが」  それであの量なのか。私は納得すると同時に厄介な体質だなと同情するしかなかった。 「いっそのこと、視えたほうがいいと思うこともあるがな」  たしかに幽霊に好かれやすいという体質ならば、視えない不安より視える不安のほうがまだ対策はしやすい気がする。  幽霊が視えることがバレてしまったのは予想外だけれど、ここに来たのはそのことではない。このままでは幽霊の話がメインになってしまう。  私はこわごわと口を開いた。 「せ、先生。あの、本題に入っても……」 「ああ。そうだな」  先生は一度コップに口をつけてから言葉を続ける。 「君がここに来ているということは、その幼なじみにでも頼まれたのか?」 「……いえ、自分の意志で来ました」  私はそう言って目を少し伏せた。はじめは寧々を連れて来ることも考えた。でも、昼の様子を考えると彼女に付き合わせるのは酷なんじゃないかと勝手に判断して、結局なにも言わずに来てしまった。  先生は私の答えを聞くと、あごに手をやりスッと目を細めた。 「はじめに言っておくが、必ずしも君が求めている答えが返ってくるとは思わないでほしい」 「はい」  それはもちろんわかっている。私はただ、寧々が元気になってくれればそれでいい。 「では、続けてくれ」 「幼なじみが突然、理由もわからないまま彼氏に別れを切り出されました。そのあとすぐ、その彼氏にも会ったんですが、どうにも自分からフったと思えない様子で……」 「だが、彼らの間ですでに話が終わっているんだろう? 君が関わる必要はないはずだ」  少しきつい口調ではっきりとそう告げられて、私はうっと怯んだ。 「そ、それはそうですけど……」  どうしてもあのふたりが別れるというのが私には考えられなかった。 「数日前までこっちが恥ずかしくなるほど仲睦まじかったのに……それに」  私はそこまでで一度、言葉をつぐんだ。これ以上、先生に言うべきか少しだけ悩む。  ここから話す内容は人から聞いたことではない。幽霊であるセイゴから聞いたことだ。信じてもらえるかどうか。でも、すでに幽霊が視えることはバレてしまっているわけで。  いまさらだ──と、私は意を決して口を開く。 「漂っている幽霊が言うには、彼のほうは少し前からなにかを悩んでいる感じだったそうです」  先生は私の言葉を聞くと目をつむった。私はじっとその顔を見ながら次の言葉を待つ。 「──前提として、君が首を突っ込むことが余計なお世話になる可能性があるとしても関わるつもりか?」  そう言われて心が揺れる。寧々のためにどうにかしたい。その想いだけでここまで来たけれど、先生の言うとおり私の行動は余計なことかもしれない。  不安を感じはじめた私の心を、先生は容赦なく突いた。 「君の行動がただの偽善で傲慢だとしてもか?」 「そんなつもりは……っ」  言いかけたけれど、そのあとは言葉にならなかった。そんなつもりはないとはっきり言える。でも、他人が私の行動を見てどう思うかまではわからない。ないと言いたくても言い切れない自分がひどく悔しかった。 「色恋沙汰は非常に厄介だ。親切心から軽い気持ちで首を突っ込んでいいものではない。最悪、親友をなくす」  まさにそれは忠告だった。  先生が懸念していることがわかるだけに私はそれ以上なにも言うことができない。  あれだけ意気込んで来たのに。自分の覚悟がなかったことが情けない。握る手に力が入って爪が食い込む。 「──今日はそれを飲んだら帰りなさい」  だけど、先生は私を見捨てなかった。 「覚悟が決まったならもう一度来るといい。ただし、私に協力を仰ぎたいなら動くための根拠をはっきりと示すことだ。いまのままでは弱い。だが君には行動力がある。自分なりに少し調べてみなさい」 「……わかりました」  ローテーブルに置かれていた紙コップを手に取って一気に中身を飲み干すと、私は先生にお礼を言ってカウンセラー室をあとにした。  ゆっくりとした足取りで廊下を歩く。カウンセラー室から少し距離を置いたところまでくると私は立ち止まった。そして大きく息を吐き出す。  緊張か、それとも興奮からなのか。心臓がバクバクと音を立てているような気がした。 『子猫ちゃん、どうだった?』  声が聞こえると同時に姿を見せたセイゴになにも返さずにいると再びセイゴが口を開く。 『やっぱり追い出されちゃった?』  その言葉にイラッとして私もつい言い返す。 「セイゴうっさい」 『心配してるのに。子猫ちゃんは手厳しいねぇ』  と言うわりには、くつくつと心底楽しいと言わんばかりに笑みを浮かべているのだからたちが悪い。 「心配してる感じにはまったく聞こえないんだけど? それと、子猫ちゃんって呼ぶのはいい加減にやめてって言ってるじゃない」 『それは聞けない話だって何度も言っているじゃないか。子猫ちゃんったら酷いなぁ』  ああ言えばこう言う。これだから喋る幽霊は厄介で面倒なのだ。早く成仏してほしい。 『彼女のことは諦めるのかい?』 「諦めるわけないじゃない。ただこれ以上、私がなにを言っても先生は聞いてくれない」  私はセイゴの言葉を否定するために大きく首を横に振った。  大好きな寧々のためにどうにかしてあげたい。  そう思っていたはずなのに。私は先生に指摘されたぐらいで怯んでしまった。  それに、いまのままでは駄目なのだ。  だからもう一度、状況をちゃんと見つめ直して、先生にリベンジするしかない。  しかし、どうにもセイゴはこうなることをわかっていたような気がしてならない。さっきも〝やっぱり〟と言っていた。だけど、それを聞くとなんだか面倒になりそうな気がする。ひとまずは置いておいたほうがよさそうだ。 『ふふっ、思ったより元気そうで安心したよ』  言葉とは裏腹に、やっぱりセイゴはさっきと変わらず楽しそうに笑みを浮かべるだけだ。なのに安心したとか、まったくもって失礼だと思う。  というか、なぜカウンセラー室のまえにいる幽霊についてはなにも言わなかったのか。 「心配とか安心しただとか言うぐらいなら、なんであそこに幽霊がいることを話さなかったのよ」 『そんなの決まってるじゃないか。子猫ちゃんがどんな反応をするか見たかったのさ』  案の定、ろくでもない理由だった。 「最悪。変態。さっさと成仏すればいい」  少し低い声で強く言うと、セイゴは声に出して笑った。 『──というのは半分だけ噓で、僕も現状を知らなかったんだよねぇ』 「知らなかった?」 『普段あの場所は、近づきたくてもほとんど近づけないから』  その言葉に私は素直に納得した。セイゴが近づけないのはきっとあの護符と盛り塩が原因だろう。  ──まったく。冗談なんて言わないではじめからそう言えばいいのに。幽霊じゃなかったらすかさず張り倒していた。でも、物理攻撃が効かないのだからどうしようもない。 「除霊師にでも頼めばセイゴも少しはおとなしくなるかな?」 『そんなひどいこと言わないでよ、子猫ちゃん。僕なりに愛をもって話してるんだから』 「え、いらないんだけど」 『ふふっ、子猫ちゃんは素直じゃないね。じ