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作者:滝沢美空,森野萌
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-12-02(角川书店)
价格:¥580 原版
文库:角川Beans文库

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ライオンちゃんとチワワくん。 ライオンちゃんとチワワくん。 滝沢美空 角川ビーンズ文庫 本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信したり、ホームページ上に転載したりすることを禁止します。また、 本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。  目次 ライオンちゃん編 1 さいかい。 2 きょうりょく。 3 れんしゅう。 4 こくはく。 5 おわかれ。 6 はつこい。 きもちいろいろ編 7 恋するレオ 8 恋する美鈴 9 綾人の憂鬱 10 莉緒は負けず嫌い チワワくん編 11 でーと。  あとがき  幼稚園のときの苦い思い出。  それをきっかけに、私は〝男勝り〟に。  それをきっかけに、アイツは〝女の子が苦手〟に。  そんな二人が、高校で再会する。 〝女らしく〟なって恋がしたい、私と。 〝女の子が苦手〟なのを克服したい、アイツ。 「お互いの目標を達成するために協力しよう」  アイツからの提案に乗った私がバカだった……!? 「──キスの練習、してみる?」  ──私たちは、お互いの目標を達成できるのだろうか。 『あやとくん、ぼうし返してよ』 『いやだね~、返してほしかったらここまで来いよ』 『わたし、木登りなんてできないよ』 『お前ってほんとどんくせーなあ』  幼稚園にきてから毎日毎日、同じ男の子にいじめられる。  どうして私だけ、こんな目に遭わないといけないの?  先生は何もしてくれない。お母さんには言えない。  誰にも言えなくて、誰も助けてくれなくて。  どうしよう、辛いよ。もう、我慢するのも……限界になってきた。 『──返してよ。……返せ。返せって言ってんだろうがー!』 (起きて、莉緒……!)  誰かに肩を揺らされて、自然に身体がびくっと動いた。後ろを振り向くと、中学からの親友・美鈴が焦った顔をして「寝ちゃダメ」と言っている。 (ご、ごめん。ありがとう……)  椅子に座り直して、校長先生のありがたい話に耳を傾けた。  ──そう、今は高校の入学式の真っ最中だ。  憧れのブレザーに身を包み、めでたく入学したのはいいけれど、入学式が退屈すぎて五分で飽きていたのだ。  私は、子供のころから退屈になるとすぐ寝てしまう子だった。中学校の授業でもそう。いったい何度先生に注意されたことだろう。  時々いびきをかいたりもして、周りからは〈眠れる獅子〉なんて言われていたっけ。  それにしても、久しぶりに嫌な夢を見たような気がする。  ──ようやく入学式が終わり、私たちは男女二列になって体育館から教室へと移動する。 「もう、莉緒だめじゃない。初日からそんなんじゃ、何も変わらないよ」  移動する途中にも美鈴に注意されてしまった。  美鈴は長身でスタイルもよく〈クールビューティー〉という言葉がよく似合う女の子だ。中学の時は黒髪のストレートだったけど、高校入学に合わせてパーマをかけたみたい。  さっぱりとした性格で自分の意見をはっきりと言う美鈴は、大切な親友だ。  そんな彼女が、母親のように私に注意をするのには理由がある。 「そうだね、ごめん。高校で変わるって決めたのに」 「そうだよ。春休みからイメチェンを手伝ってるんだから、しっかりしてよね」  そんなことを話しながら、私たちは一番窓側の後ろの席に座った。  座席は出席番号順で、私と美鈴は番号が並びであるため、席も前後に座っている。  教室の中はとても静かで、雑談をしている人は誰ひとりいない。  私と美鈴も空気を読んで、黙って担任の先生の指示を待っていた。  ふと窓の向こうに目をやると、満開の桜が視界いっぱいに広がっている。  ゆらゆらと花びらが風に乗って舞い、私たちの入学を祝ってくれているようにみえた。  ──ほどなくして、担任の先生が教卓の前に立ち、私たちに向かって挨拶をした。  まだ二十代くらいで、メガネをかけた若い男性教諭だ。 「皆さん、入学おめでとうございます。僕はこのクラスの担任の溝川歩生といいます。主に社会科の授業を担当しています。趣味はテニスをすることですかね。……まぁ、僕の自己紹介はこのくらいにして、さっそく皆さんにも自己紹介してもらいましょう」  溝川先生はとっても爽やかな笑顔で挨拶をしていた。まさにテニスが似合いそうだ。 「では、安部くんからよろしくお願いします」  自己紹介は、男子から出席番号順に始まった。  私の順番まではだいぶ先だけど、今から緊張してしまう。  ……第一印象が一番大事だと思うし、ちゃんと〝女の子らしい〟私を演じなければいけないからだ。  私は〝女の子らしく〟なるために、春休みの間、美鈴にメイクの仕方や女の子らしい仕草を教えてもらっていた。  今までの私はそういうことに興味が無く、女子とそんな話をするよりも、男子に交ざって運動場を走り回ったり、ゲーセンで遊んだりしているほうが楽しかった。  朝の準備時間よりも睡眠をとり、可愛い服装よりも動きやすい恰好を好むくらいに女子力が低かった。  そんなんだったから男子に女子扱いされなかったし、私も男子を異性として意識することはなかった。  ──こんな私が〝自分を変えたい〟と思い始めたのは、美鈴にある本を借りてからだった。  それは〈ハルカハツコイ〉という少女マンガで、春花というおとなしい女の子が、同じクラスの人気者・圭に恋をして、両想いになるためにひたむきに頑張るという物語だ。  美鈴によれば〝典型的な少女マンガ〟らしいんだけど、このジャンルを初めて読んだ私にはかなり響いた。  読んでいるだけで胸がキュンキュンしたし、何より恋する春花ちゃんが可愛くて、私もこんな風になりたいって思ったんだ。  でも、男子達には「お前が少女マンガ読んでいるだけでウケる」と笑われ、恋をしたいと呟いただけで「お前みたいな女子力のカケラもないやつ、誰が好きになんだよ」と馬鹿にされた。  馬鹿にされてムカついたし、殴り飛ばしてやったけれど、アイツらの言うことが正しいということも分かっていた。  ……ずっとこのままだったら、恋愛とは無縁の生活を送ったまま年を取ることになる。  今はこんなんだけど、私だって女の子らしい時もあった。  今からでも遅くない。努力すれば、私も春花ちゃんみたいな女の子になれるはず。  そう思った私は、中学の卒業式でみんなに宣言したんだ。 「高校で恋愛デビューする!」  そう、教室中に響き渡るほどの大声で。 「はい、安部くんありがとうございました。聞いていたみんなは、名簿のところに自己紹介の内容をメモしておくといいですよ」  クラスメイトは、先生のアドバイスを聞いて一斉にペンを持ち始めた。  私も慌てて筆箱からペンを取り出す。……やっば、回想にふけっていて安部くんの自己紹介を全く聞いてなかったよ。  とりあえず〝メガネ〟って書いておこう。  安部くんの次からは、メモを取るために集中して話を聞くことにした。  もしかして、先生は真剣に自己紹介を聞いてほしくてそう言ったのかな。  伊藤くんは野球が好き、尾川くんはバンドをやっている、加藤くんは映画が好き、とメモを取っていく。  順調に自己紹介が進んでいき、十一人目が教卓の前に立った時、クラス中の女子たちの背筋がまっすぐに伸びた気がした。  長身で手足が長く、髪は流れるように整えられ、前髪から覗く切れ長の瞳はとてもキラキラしている。誰がどう見てもカッコいい、モデルのような男の子がクラスメイトにいるなんて気づかなかった。  いったいなんて名前なのだろう。  ──ドキドキしながら名簿に目をやった瞬間、私の体は氷のようにカチカチに固まった。 「駿河綾人です。よろしくお願いします」 〈するが あやと〉  忘れかけていた、その名前。私を唯一いじめたことのある男の子と同じ名前だ。  そういえば、入学式の時に見た夢にも出てきたな、あやとくん。  今でも思い出すと暗い気持ちになる。  私の知っているあやとくんは小学校から遠くに引っ越したけど、目の前にいる彼はただの同姓同名なのかな。  さっきとは違うドキドキを胸に秘めて、彼の自己紹介に耳を傾ける。  ……なぜか、彼は名前を言ったっきり沈黙していた。 「えーと、駿河くん、もう自己紹介は終わりなのかな? あと何か話すことはない?」  溝川先生が助け舟を出すと、駿河綾人は、聞こえるか聞こえないかくらいの小声でこう続けた。 「……子供の頃、この付近に住んでいましたがしばらく離れて──」 「──ええっ!」  駿河の声にかぶさるように誰かが叫んだ。  そして、先生も含めてクラス中がその声の主に注目する。 「えーっと、安原さん、どうしたのかな?」 「えっ、私ですか!?」  先生に名前を呼ばれて、さっきの声の主が自分だったことに気が付く。  ……自分でも無意識に声が出ていたらしい。駿河も目を見開いてこちらを見ている。  やっばい。悪目立ちしちゃったかも。 「あ、あの、ごめんなさい! なんでもないです」 「そうなの? 他の人の自己紹介中は静かにしていてね。駿河くんはもう終わりかな?」 「……はい」  駿河は何事もなかったかのように涼しい顔をして、席へと戻っていった。  うわぁ、本当に最悪だ。初日から先生にも怒られたし、アイツは私をいじめていた駿河綾人に間違いないだろうし……。  穴があったら入りたい、とはこういう状況のことを言うのだろうか。  ひたすら名簿とにらめっこをして、顔の赤みが引くのを待っていた。 「橋本怜央です。気軽にレオって呼んでください! 僕は楽しいことが大好きなんで、クラスのみんなで遊びに行けたらなって思っています」  橋本くんの声はとっても明るくて、全く緊張していない様子だった。 〝楽しいことが好き〟とメモにとる。  橋本くんはとても楽しそうに話すから、聞いているだけで心が明るくなっていく。  ワックスで無造作に整えられた栗色の髪に見え隠れするシルバーのピアス。笑った顔は子犬みたいに可愛くて、おそらくクラスのムードメーカーになる人だと思った。  ……あっという間に男子の自己紹介が終わり、女子の番になる。  カラオケが好きな子、吹奏楽部に入りたい子、ダンスが得意な子などがいた。  いろんな趣味を持っている人がいて面白いな。 「では、次は安原さん、お願いします」 「……はい」  そして、とうとう私の番となる。  教卓の前に立つと、クラスメイト全員の顔がよく見えて緊張してしまう。  人前で話すのは得意なのに、さっきの失敗のせいでうまく話せそうにない。  とにかく、駿河綾人の顔だけは絶対に見ないようにしよう。 「安原莉緒です。お……お菓子作りなどが趣味です。皆さん仲良くしてください、よろしくお願いします」  簡単な自己紹介を終え、足早に席へと戻った。  お菓子作りが好きだなんて真っ赤なウソなんだけど、女の子らしい趣味だと思って言ってしまった。春花ちゃんも得意だったしね。  まぁ、これから覚えて本当のことにすればいいだろう。  ──自己紹介の最後は美鈴だった。彼女はキレイな歩き方で前に出ていく。 「吉木美鈴です。中学ではバスケをやっていましたが、高校ではテニス部に入りたいと思います! これから一年、よろしくお願いします」  美鈴は全く緊張していないようだった。むしろ自己紹介なんて余裕って感じ。  それにしても、美鈴がテニス部に入るなんて知らなかったな。  中学の時はバスケ部のエースだったから、高校でも続けるかと思ってた。 「吉木さん、僕はテニス部の顧問もやっているので、大いに歓迎しますよ。他にテニス部に興味がある人はぜひ教えてくださいね。……皆さん、自己紹介ありがとうございました。あとは簡単に明日からのスケジュールを説明して、今日は終わりますね」  先生からの簡単な説明を聞いて、高校入学一日目は終わった。  終わった瞬間、どっと疲れがこみ上げてきた気がする。 「莉緒、一緒に帰ろうか」 「うん」  私と美鈴は一緒に教室を出て、学校から駅までの道のりを歩いた。 「莉緒、なんで自己紹介の時に〝ええっ〟なんて叫んだりしたの?」  校門を出て比較的人通りが少なくなったところで、美鈴から自己紹介の時のことについてツッコまれた。まぁ、確かに気になるよね。 「あのさ、私が幼稚園の時にいじめられたことがあるって話したよねぇ?」 「ああ、聞いたことある。それがきっかけで性格が変わったんだっけ?」 「そう。いじめられて我慢の限界でキレちゃって……今みたいな性格になったんだ。それまでは自分の意見も言えないおとなしい子でさ」  美鈴は、私の思い出話と今回のことが結びつかなくて不思議そうにしている。 「その話が何か関係あるの?」 「そのいじめていた相手っていうのが、多分……駿河綾人なんだよ」 「ええっ、何その偶然! でも確かに、昔はこのあたりに住んでたって言ってたもんね」 「まぁ、多分なんだけどね……。過去の話とはいえ、ちょっと嫌だなって」  私にとって幼稚園は苦い思い出。  いじめられて辛かったし、それが原因でこんなガサツな女になってしまったし。  もし駿河にいじめられていなかったら、私はどんな女の子になっていただろうか。  幼稚園のことを思い出して落ち込んでいると、美鈴はなぐさめるように私の頭を撫でた。 「大丈夫だよ。もう十年くらい前の話だし、駿河くんも覚えていないかも。気にすることないよ。もしまたいじめられたら、私が守ってあげるからさ!」 「……美鈴」  美鈴の気持ちが嬉しくて、思わずほろりときてしまいそうだ。 「心の友よー!」 「……そういうのはやめなさい」  美鈴に抱きつこうとしたら、今度はきつめに頭を叩かれてしまった。  ──話をしているうちに駅に到着し、電車に乗った。  車内にはうちの生徒が何人かいて、美鈴は周囲を気にしながら小声で話しかけてきた。 「そういえばもう一つ聞きたかったんだけど、お菓子作りが趣味なんて噓だよね? 私が声出しそうになっちゃったよ」 「うん。つい春花ちゃんのマネしちゃった」 「春花ちゃんって、もしかして〈ハルカハツコイ〉の? 莉緒、本当にあのマンガに影響受けているのね。あの本がきっかけで、莉緒が恋をしたい、高校デビューしたいって言い出すなんて思わなかったよ」  美鈴に初めて話をした時、驚いてはいたけど決して笑ったりしなかった。  親身に話を聞いてくれて、イメチェンの協力までしてくれて……何回ありがとうって言っても足りない。  今度、お礼にドーナツでもおごろうかな。 「美鈴のおかげで無事に高校デビューできたかなぁ?」 「まぁ、いろいろあったけど……成功したと思うよ。明日からはもっと頑張らないとね。他の子たちとも話す機会も増えるだろうし、気を引き締めないと素が出ちゃうよ」 「うん! 明日からはもっと気合い入れて頑張る。ガッツガッツ!」 「……だから、そういうのはやめなさいって」  電車の中でガッツポーズをしたら、また美鈴に怒られてしまった。 「ただいまー」 「お帰りなさい。高校初日はどうだった? ちゃんとデビューできたの?」  家に帰るとお母さんが玄関まで出迎えてくれた。 「まぁ成功したかな。明日からが本番って感じ」  そう答えながら階段を上がり、二階にある自分の部屋へ行く。  お母さんとは何でも話す仲だけど、この話題に関してはちょっと恥ずかしいな。  ──部屋に入った私は、あるものを探すために押し入れを開けた。 「確かこの中に入れてあったはず……あった!」  私が探していたのは、少し古びた卒園アルバムだ。  これを見ると嫌なことを思い出すから、ダンボールの奥底に封印しておいたんだけど。  よりにもよっていじめっ子の顔を確認するために、また手に取ることになるとはね。  自分の組のページを開くと、すぐに〈するがあやと〉の写真が目に飛び込んできた。  ……やっぱり、同じクラスの駿河綾人は、私をいじめていたあやとくんで間違いない。  十年くらい経ってだいぶ成長したけど、昔の面影が残っているもん。  まさか、高校でまた同じクラスになるなんて夢にも思わなかった。  それにしても、駿河の幼稚園時代の写真を見ると心がゾクッとするな。  とても可愛らしい顔をしているはずなのに、素直にそう思えない。  もう何年も経っているのに、アイツにいじめられた経験は傷になって残っているようだ。  別に高校生の駿河を見て憎たらしいとは思わないけれど、出来るだけ近づきたくないとは思う。  ……うん、決めた。駿河とは絶対にかかわらないことにしよう。  触らぬ神になんとやらっていうしね。  高校でのもう一つの目標を決めた私は、制服から部屋着に着替え、お母さんの待つリビングへと戻った。 〝駿河綾人とはかかわらない〟  この目標があっさり破られたのは、入学してから数日後のことだった。 「今日のホームルームでは、各種委員を決めたいと思います。一人ひとつずつ役割がありますので、何に立候補するか考えておいてくださいね」  溝川先生は黒板にいろいろな委員を順番に書いていく。学級委員を始め、体育祭委員、文化祭委員、図書委員などたくさんの役割があった。  中学の私なら学級委員をやっていたところだけど、おしとやかな私(仮)は、図書委員にしようと思っている。  春花ちゃんがそうだったし、知的な女の子っぽく見えそうだしね。  本はマンガしか読まないけど。  どの委員にするか心の中で決めたところで、美鈴に背中をツンツンとつつかれた。 「ねぇ、莉緒は何委員にするの?」 「私は図書委員にするわ。美鈴は何にするのかしら?」  ……この数日間で、女らしい話し方にも慣れてきた気がする。 「ふふっ」 「ちょ、ちょっと何を笑っているのかしら? 失礼しちゃうわ」 「……ごめんごめん。私はね、文化祭委員にしようかなって思って。面白そうじゃない?」 「確かにそうね」  美鈴は私の話し方が面白いらしく、会話しながら常に笑っている。  ……もしかして、私の話し方っておかしいのだろうか。 「はーい、それでは、学級委員から決めたいと思います。まずは男子で立候補者はいますか?」 「はい!」  先生の呼び掛けに間髪を容れずに答えたのは〝楽しいことが大好き〟な橋本くんだった。  まっすぐに手を挙げているその姿はまるで小学生のよう。 「……ほかに立候補者がいないのであれば、橋本くんにお願いしましょう。続いては女子の中で立候補はありませんか?」  男子の学級委員はすんなりと決まった一方で、女子は誰ひとりとして手を挙げようとしない。面白いくらいにみんながうつむいている。  ……私も、先生と目が合わないように下を向いておこう。  五分くらい経っても、誰も立候補者はおらず、溝川先生が、 「では、推薦でも構いませんよ」  と口にした途端、橋本くんが勢いよく手を挙げた。  またもや橋本くんの登場。というか、さっきから彼しか話していない。  このクラスには彼しかいないのだろうか? 「では橋本くん、どなたを推薦するのですか?」 「僕は、安原さんを推薦したいと思います」 「……ええっ、私ですか!?」  気が付いた時には、すでにクラス中の視線が私に集中していた。  また無意識に心の叫びが口に出てたみたい。こんな風に目立ちたくないのに、またやってしまったよ。 「ちなみに、なぜ安原さんを推薦するのですか?」 「初日の自己紹介の時に、僕の次に目立っていたからです!」  先生の質問に橋本くんが答えると、クラスのみんなは次々に笑い始めた。自然と笑い声が生まれるのは、みんなそれぞれこの顔ぶれになじんできたという事か。  ……ってそんなこと考えている場合ではなくて。 「わ、私は人をまとめるのって苦手なんですけど……」  本当は大の得意だけど、苦手なほうが可愛いと思ってとっさに噓をつく。 「大丈夫大丈夫。俺がいるからさ。ねっ! 一緒に学級委員やろうよ」  橋本くんは自席から私にめがけ親指を立て、まぶしい笑顔を見せてくる。  こんな風に誘われたら……断れるわけがない。 「分かりました、やります」  こうして、私はなぜか高校でも学級委員をやるはめになった。 「では、橋本くんと安原さんに進行を任せたいと思います。二人は前に出てきてください」 「はーい」  橋本くんは今にもスキップしそうな勢いで前に出る。  私は知的女子計画がボツになった影響で、重い足取りで前に出る。 「では、次は文化祭委員を決めたいと思いまーす」  彼はてきぱきと進行し、私は決定事項をひたすら黒板に書いていった。 〝俺に任せて〟って自分で言うだけのことはある。  美鈴は希望通りの文化祭委員になり、図書委員はまさかの駿河がなっていた。  良かった、図書委員にならなくて。学級委員にはなりたくなかったけど、駿河と同じ委員になるよりはマシだよね。  ──各種委員が決まったところで、ホームルームの時間が終わった。  ホームルームの後はお昼休みで、私は美鈴と一緒にお弁当を広げる。 「莉緒はさ、そういう星の下に生まれてきたんじゃない?」 「そういう星って?」 「嫌でも目立ってしまう星の下に」 「もう、変な冗談言わないでもらえるかしら」  美鈴はくすくすと笑っていたけれど、ふと私の背後に視線を移した途端、表情が硬くなった。そして透けるように白い肌は、少しだけ桃色に染まっている。 「楽しそうだなー」  気が付くと私たちの近くには溝川先生が立っていた。  溝川先生はいつもスーツ姿でネクタイをしていて、どこかのサラリーマンみたいだ。 「安原さん、学級委員になって大丈夫だった?」 「えっ? あ、大丈夫です。頑張ります」 「そっか、良かった。吉木さんも文化祭委員、頑張ってね」  先生は美鈴に向けてにっこりと笑った。美鈴は「はい」と小さく頷くだけ。  溝川先生はそれだけを話して、教室から出て行った。  先生がいなくなった後、美鈴は次々にお弁当のおかずを口に入れる。  ……様子がおかしい、と思ったのは気のせいだろうか。 「ふー、満腹満腹!」  お弁当を食べ終わりお腹をさする私に、美鈴はすかさず「やめなさい」と注意した。  ……これも女らしくない仕草だったのか。 「ごちそうさまでした。お腹いっぱいだねっ」  思いっきり可愛らしく言い直したとき、どこかから名前を呼ばれたような気がした。 「安原さーん」  声のした方向を見ると、橋本くんと目が合った。彼は、満面の笑みを浮かべてこちらへと近づいてくる。 「えっと……橋本くん、どうしたの?」  彼は近くの椅子を借り、私たちの横に座った。この人は全く人見知りをしないようだ。 「レオって呼んでよ、気軽にさ」 「えーと、レオ……くん。私たちに何か話があるのかな?」 「うん! 俺たち学級委員になったし、さっそく親睦を深めない? 今日ヒマだったら適当に人数集めてお茶でもどうかな。吉木さんも行こうよ」  レオはきらきらと目を輝かせて私と美鈴を交互に見る。  本来なら、楽しい事が大好きだから「もち! 行く行く」と二つ返事で答えるところだ。  でも、男子ウケする女の子はきっと、こういう時は恥じらったりするんだろうな。 「ちなみに、男子は誰を呼ぶつもりなの?」  反応に困っている私に気づいたのか、美鈴が代わりに返事をしてくれた。 「まだ声をかけている途中だけど、俺を含めて三、四人集めるつもり。二人の期待は裏切らない人選だと思うからさ、ね?」 「……私は別に予定はないけど、莉緒はどうする?」 「わ、私も予定はないから大丈夫だよっ」  いつもより少