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作者:こおりあめ,ひだかなみ
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-12-28(角川书店)
价格:¥600 原版
文库:角川Beans文库

代购:lumagic.taobao.com
レディローズは平民になりたい レディローズは平民になりたい こおりあめ 角川ビーンズ文庫 本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信したり、ホームページ上に転載したりすることを禁止します。また、 本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。  目次 序章 第1章 とある王宮の廊下での一幕 第2章 とある教会での一幕 第3章 とある馬車の中での一幕 夢と現実のおはなし 第4章 とある教会での一幕 その二 第5章 とある町外れでの一幕 第6章 とある馬車の中での一幕 その二 とある馬車の中での一幕 その三 あとがき 「フェリシア・スワローズ。今日この時をもって貴様との婚約を破棄する」  長かった。  目の前で思い切り私を睨みつけているセス・キャボット殿下。  正真正銘この国の王子様であり、絵本に出て来て少女達の初恋をかっさらいそうなキラッキラの最上級イケメンである彼と五歳で婚約し、次期王妃としての教育を受け十六歳にまでなったこれまでの時間が、走馬灯のように私の頭の中を駆け巡る。  私は様々な感情を吞み込み、押し殺し、いつも通りに優しく微笑んだ。 「それが殿下のお望みでしたら」  一切の言い訳も縋りもせずに受け入れた私を、殿下は強く睨み続ける。一方、その隣に立つ新たな殿下の婚約者となるのだろうリリアナ様は可愛らしく戸惑った顔をしている。  そのどちらの反応にも目立ったリアクションを取る事はせず、私は二人に背を向けた。婚約者に婚約を解消された可哀想な女なんて思われないように、背筋を伸ばし凜として歩く。  まだいけない。  まだ、表情を、崩してはいけない。  すっかり二人から私の姿が見えなくなっただろう学園から離れた所まで歩いた私は、辺りに人影が無い事を確認するとさっと茂みの中に入り…くずおれた。  もういいよね。我慢しなくていいよね。ずっと頑張って来たんだから……いいよね。 「ふ、ふふふふふ! やっと! やっと婚約破棄してくれたわ!」  ああもう、さっきから、込み上げて来る笑いを抑えるのが大変で大変で仕方なかった! 「これでシナリオ終了、めでたくバッドエンドね! まったく、私は王妃なんてまっぴらごめんなのよ! 俺様な性格だって大嫌いだし、将来の伴侶が強制的にそれなんて絶対嫌! そもそも貴族暮らしからして性に合わない! シナリオ通りならこのまま私の両親は私を切り捨てて私一人が平民降格になるはず…婚約破棄は向こうからだから家に迷惑はほとんど掛からない! つまり両親や義理の弟から恨まれまくる事もない! これから私のハッピー平民自給自足ライフが始まるの!」  私は間違っても誰かに聞き咎められないようにと、超小声早口なのに大笑いするという器用な事をしながらフィーバーした。  これまで私は殿下の婚約者として次期王妃としてスワローズ家長女として公爵令嬢としてと、お淑やかに恥とならないようにしなければならなかった。だけどそれももう後少しで無くなる。もうすぐ! 私は解放されるの!  私はテンションは高いままながらはしたなく大笑いするのをすっとやめる。そして虚空に向けて両手を合わせた。 「ありがとう、リリちゃん。私を嵌めてくれて」  女神を讃えるような気持ちで、私は先程殿下の隣に立っていた可愛らしい女の子、こっそりと脳内でリリちゃんと呼んでいる伯爵令嬢リリアナ・イノシーちゃんへと感謝のテレパシーを送る。もちろん私にテレパシー能力は無い。こういうのは気持ちだ。  リリアナ・イノシー。彼女は本来であればこの世界──この〝ゲーム〟の〝悪役令嬢〟であり、〝主人公〟である私に負け、むしろ今の私のように殿下に追い詰められる立場となる運命だった。 「あの殿下、性格が俺様な時点で私には友人になるのも無理なタイプだったけど、リリちゃんは本気で好きみたいだし…うん、きっと素敵な王妃様そして国母になってくれるって信じてる。頑張って」  私は無責任に他人事としてリリちゃんの幸せを願った。なんて自分本位。なんて最高な立場だろう。今の私は身軽、この一言に尽きる。羽が生えたようだ。むしろ今までが常に手枷足枷で生きていた。  感謝するだけ感謝した私は、さっさと頭を切り替えて今後の生活を恐らく爛々としているだろう希望に満ちた目で夢想し胸を高鳴らせる。 「私はゲーム通りに行けば平民降格でその辺の町に家だけ与えられて放り出されるはずよね。ゲームでのリリアナはそれが死ぬ程屈辱だったみたいだけど、私にはご褒美だわ。住居ももらえるし、一年は遊んで暮らせるぐらいお金ももらえるし、むしろこれって至れり尽くせりよね。前世と同じでパン屋さんで働きたいなぁ。スタッフ募集してないかなぁ」  我ながら独り言がとんでもない事になっているけど、これは今まで表には出さず我慢し我慢し我慢し続けて来た反動が出ているだけだから、今は許してほしい。と、誰にするわけでもない言い訳を一つ。 「ああ、正式に婚約破棄が決定するのと家と学園から放り出されるのはいつかしら! ゲームでは後日談としてさらっと流されちゃっていたからわからないのよね! この先を知っているからわくわくは出来るけど、放置プレイが長過ぎると決定前に飛び出しかねないわ!」  私はわくわくわくわくと草の上をごろんごろん転がり騒ぎ、最後に思う存分感情を発散させる。一頻り満足が行くと、乱れた髪や服装をささっと直し一見茂みから出て来たようには見えないだろう優雅さで茂みから出た。  それから完璧な所作で学園に向けて歩き出す。  フェリシア・スワローズはまだ家を放り出されていないし、正式には殿下の婚約者のままだし、レディローズと二つ名を轟かせる完璧な公爵令嬢だ。  私が本来の私として生きて行けるのは、もう少し先。ちゃんとわかっていましてよ。このドレスについた草や土の汚れと木の枝に突っかかったほつれは、うっかり転んでしまっただけなのです。完璧令嬢のレディローズとはいえ、この程度の失敗はありますわ。ふふふ。  私、フェリシア・スワローズが人とは違うと自負している所を二つ言おう。  一つ、演技力。培った経緯は二つ目との関連性が大き過ぎるから省くとして、十六歳という年齢で私程の演技力を日常から発揮し周囲を欺ける人間はそう多くないと思う。  二つ、私には前世の記憶がある。これだけ言うと頭がイかれているようだけど、さらに我ながらイかれていると思うのが、前世で私は今自分の暮らしている世界と自分や周囲の幾人かが登場する乙女ゲームをプレイしていて、その上今の私の立ち位置がそのゲームの主人公そのものという所だ。  乙女ゲームとは、プレイヤーが女の主人公を操り男の攻略対象キャラクター達から好かれるようにシナリオを進める、恋愛する事を目的とした恋愛シミュレーションゲームを指す。私が居るこの世界、その元となった前世で私がプレイしていて大好きだった乙女ゲームの名前は『救国のレディローズ』という。生まれ変わった当初、私はこの世界がその『救国のレディローズ』、通称レディロの世界でさらには自分がその主人公として生まれ変わっただなんてまったく思っていなかった。  その大きな理由は、レディロが主人公の名前を自分で決めるタイプのゲームで、デフォルト名…予めゲームに入力され決められている名前が無かったからだ。  おかしいと思う要素だけならいくつもあった。外国人、しかも超金持ちの家に生まれたのはいいとして、スワローズなんて珍しい家名だとは思ったし、国名に聞き覚えがある気がしたし、周りの人は皆洋風顔と色彩なのに言語や書き言葉が日本語だった。文化レベルにしても、前世の世界を少し過去に戻したようなもので、そのくせ前世とは微妙に違うまるで意図的にずらしたような違いがある。他にもこの世界にはフランスという国は存在していないのにフランスパンが存在するだとか。私の前世の世界と関連した世界なんだろう、平行世界のようなものだろうか? とは思っていた。  それはそうと、前世の記憶というか常識的価値観を幼いころから持っていた私は、生まれ変わった直後の記憶こそはっきりとは覚えていないけど、両親が権力大好きなクズであると気が付いた。さらには両親の視線言動その他諸々で自分が愛されていないし道具としてしか見られていないのもわかってしまった。そんな両親から、望んでもいない贅沢の対価にと貴族の義務を押し付けられる生活が、私は嫌で堪らなかった。…この時点でもう既に、私は家から逃げたいといつも思っていた。  そんな私がこの世界の事に漸く気付いたのは五歳の時。勝手に親に決められた婚約者の俺様殿下ことセス・キャボット様に会った時だ。五歳だったけど、彼は明らかに見た目も中身もレディロのメインヒーローだったのだ。一目見た瞬間気付かざるを得なかった。この世界が『救国のレディローズ』だと。  ところで私は、俺様な性格というものに前世の兄のせいで激しい拒絶感がある。天才で完璧で要領良く周り全てを味方にするお兄ちゃんには、それはもう私の人格形成に大いに影響を与えてもらった。前世であり過去でありどうしようもない事であるとはいえ、今世でも忘れられようもない盛大なトラウマだ。お陰で前世の幼少期の頃から演技力を磨けて、今世でも磨いた分と合わせて中々の特技になったとは思うけど。  そんな訳で、私は前世でレディロをプレイした時も俺様殿下セス様のルートは各エンド一周だけしかしていない。こんな事口に出そうものならちゃんと全エンドやっているんじゃねぇかよと思われそうだけど、他のキャラのルートだと全員各エンド二桁は軽くやっているので察して欲しい。ただのレディロファンとして一応目を通しただけなのだと。  さて、俺様殿下と婚約しこの世界をレディロと認識し、俺様殿下なんてごめんだわと必死に避けようとした私だけど、名前だけの婚約ですとは残念ながら行かず、仲良くなるんだぞと言わんばかりに殿下と二人きりにされ放置される事が多々。親から愛されていないとはいえ、自ら殿下に無礼を働いて両親から叱咤折檻されるなんて絶対に嫌だったし、中途半端に婚約破棄だけされ、家で肩身の狭い思いをしながらも縛り付けられ自分より二回りも歳上の悪評高いロリコン男と無理やり政略結婚させられるのも嫌だった。  だが、そんな私の思考なんてつゆ知らず俺様殿下あの野郎はこれまで俺様我が儘三昧を思う存分発揮してくれやがり、大人の余裕を合い言葉に穏やかに微笑む私を何度キレさせかけた事かわからない。もし同程度の身分差だったら一日三回はぶん殴っていかねなかった。この世界の王族の権限が強過ぎるお陰で俺様殿下は命拾いした。  一応注釈させてもらうけど、私は別にキレやすいわけじゃない。無駄に顔だけは素晴らしくいい殿下のイケメン補正が俺様属性への忌避感によって丸ごと消され、一切効かないだけだ。  そんな私の天敵である婚約者、そしてそれと結婚させる為にと厳しくなる教育、望んでもいないのに王妃になる責任と重圧。耐えられる訳がない。婚約者を心の支えに出来そうな気がまるでしないし、むしろストレス倍増で倒れそうだし、親からの精神ケアも期待出来ないし、そんな不安と嫌悪だらけで勉強にも身が入る訳がないし、王妃になりたくないし、婚約者嫌だし…。……このように無限ループの嫌嫌嫌に取り憑かれた私は、何としてでも逃げようと決意した。  それが六歳の時。今から十年前だ。  そうなると次の問題は、どう平和的に、出来る限り自分の負担を少なく婚約を解消し、家から逃げ出し生きて行くか、だ。  しかしなんと、その方法も手段も最初から私は知っていた。夜中真剣に泣きながら考えていた六歳児は、それに気付いた。  レディロの悪役令嬢、リリアナ・イノシーが、ゲーム内で主人公と俺様殿下セス様とのハッピーエンドで辿る事となる、家を追い出され平民に身分を落とされるその終わり方はまさに今の私の理想そのものだと。  しかも! 願っても無いことに、リリアナは俺様殿下セス様が好きだからと婚約者である主人公が気に入らず嫌がらせをしまくる。それに主人公はそんな事やっていませんわと否定し続け、健気に直向きに立ち向かい、見事俺様殿下セス様の信頼を勝ち取り逆にリリアナの今までの嫌がらせや虚言が発覚し、リリアナが罪を暴かれる。ハッピーエンドの俺様殿下セス様ルートはそういうストーリーだ。なんだけど…これはつまり、私が否定せず全肯定しちゃえば、リリアナの立場にそっくりそのまま私が成り変われる可能性があるという事だ。  気付いた途端大興奮した私は、それからの俺様殿下の我が儘三昧も王妃教育も冷めた生活も重圧も耐えた。耐えて耐えて、学園に入学し愛しの悪役令嬢、いや私を助けてくれる天使令嬢リリちゃんを一目見た瞬間恋に…は落ちなかったけど嬉し過ぎて泣きそうになった。元々社交界なんかでリリちゃんと面識はあったけど、ゲームの舞台で会った事で希望が胸を満たし涙腺が刺激されてしまったのだ。俺様殿下との日々により余計に鍛えられた演技力が仕事をし、表情筋がほぼ自動で優雅な微笑みを作ってくれていなければ大変なところだった。  それからの日々、私はリリちゃんが嫌がらせをして来る度にこれが私の幸せへの軌跡かと思えて本当に嬉しかった。リリちゃんは、自分が俺様殿下にどんな噓を吐いて私の評価を下げてくれたのか、胸を張って逐一報告してくれた。その度に私はありがとうと伝えたくて仕方なかった。  しいて心残りを挙げるなら、私が俺様殿下の婚約者だったばっかりにリリちゃんに嫌われ、これからも邪魔な女だったと思われ続けるんだろうなって事だけだ。  さて、そこそこ搔い摘まんだ私の人生の回想はここらで終わりにしよう。  なんといっても今この場所は裁判所。私が居るのは被告席なのだから。 「では、フェリシア・スワローズ嬢。この婚約解消に異論は無いかね」  静まり返った裁判所、正式な場で私の待ちに待った言葉で陛下が問う。問うというにはその語尾の音には疑問符が聞き取れず強制力があったけど。でもいい。元から私は一切異論を申し立てる気など無いのだから。  私は真っ直ぐに陛下の顔を見返した。その顔は私よりよっぽど情けなく、普段の優しいけれど威厳が滲み出ている陛下には似つかわしくなく、眉が下がっている。私の今後を心配してくれているのだろうか。  思えば陛下にもお世話になった。立場上あまり会う機会が多かったとは言えないけど、私は心優しいこの方が好きだった。前世含め私が今まで出会って来た中で一番優しい大人を挙げるとするなら、私は陛下を選ぶだろう。前世も今世も碌な大人と関われなかったせいでもあるけど。ああ、きっともう二度と会える事はないだろう。寂しいな。  それでももちろん、私の答えはただ一つ。 「はい、御座いませんわ」  今この時をもって私は! 晴れて! 自分にとって最低最悪な未来からの回避に成功したのです!  裁判が終わって家に帰るや否や、私は呆気ない程簡単にスワローズ家から追放してもらえた。  与えられた…というか手切れとして渡された、予想通りでレディロの中でリリアナが辿ったシナリオ通りに、一年は遊んで暮らせる資金と住居の鍵を持ち、私は馬車での最後の送迎を断って簡素なワンピースで家を飛び出した。そんな私の表情は──無論、満面の笑みである。  テンションはうなぎ登りで上限を知らず高まって行く。今にもスキップしてしまいそう! これから仕事探しにご近所付き合い、その土地の慣習にも馴染まなきゃ! 大忙し! なんて幸せな大忙しなの!?  まぁ! いつの間にか本当にスキップしちゃっていたわ! あらやだ、言葉がまだたまに令嬢っぽくなっちゃっている! もう必要ないのに! そう! 必要ないのに!  スキップじゃ足りない! ダンスの先生に教えられている時は大嫌いだったのにワルツを踊りたい! 一人で馬鹿みたいにワルツを踊るだなんて素敵! ああでも、ワルツってやっぱり令嬢っぽいし…ここはコサックダンス!? やった事無いけどコサックダンスにトライしちゃう!?  家を出て十五分足らずにして私がテンションの上がり過ぎにより錯乱し始めた頃、黒歴史を生み出す前で丁度良かったのかもしれないけれど、目の前に私のテンションを落ち着かせる…要するにテンションをだだ下げ通常のテンションへと引き戻す人物が立ち塞がった。 「フェリシア様…!」 「…あら、エヴァン様」  私の目の前に立ちはだかるはレディロの攻略対象キャラの一人…学園で主人公に一目惚れし、婚約者が居ようと諦め切れないと主人公に迫って来る肉食系。けれどわんこ属性で主人公の言う事には逆らえない茶髪緑目の当然イケメンな同級生エヴァン・ダグラス君。  俺様殿下と比べて情報が具体的なのは当然の話。私の好感度の差だ。  でも自由を手に入れる為なら大好きなゲームキャラとはいえ眼中無しで最初から恋愛する気皆無だった私にとって、この場面でイレギュラーにもキャラと遭遇するなんて事態には不安しか感じない。豪華絢爛だけど冷たい鳥籠から羽ばたいて行こうとする私に、貴様何の用だ。 「私は…フェリシア様が無実だと確信しております! 共に貴女の汚名を返上しましょう!」  あ、いえ、盛り上がっているところ悪いんですけど、マジでそういうのいいんで。  これがゲームの一場面なら一枚絵スチルが手に入りそうな真剣な表情で朝日をバックに訴えかけて来るエヴァン君。朝焼けに透ける柔らかそうな茶髪が綺麗で、真っ直ぐな強い意志を感じるキリッとした緑色の瞳は美しく、なのに顔立ちはまだ年齢故に可愛らしさを残しつつも男らしくて格好良い。しかし私の内心のせいでかなり間抜けな図に成り下がっている。かわいそう。 「エヴァン様、それは貴方の買いかぶりですわ。私は確かに殿下に近付くリリアナ様に嫉妬に駆られ我を失い、取り返しのつかない事を致しました…。これは、その罰。それを受け入れる事こそが、私に残された殿下への唯一の罪滅ぼしなのです」  はい、この程度の口から出まかせは、俺様殿下がやらかした事に巻き込まれ両親から叱咤折檻されないように日々培ってきた私には余裕です。悔いるような苦笑もオプションにつけちゃう。 「フェリシア様、そんなにも…殿下の事が…っ」 「ええ…一生に一度の恋でしたわ」  淡く涙を浮かべ、憂うように空を見上げた。あー朝焼け眩しいわー。  私が大嫌いな俺様殿下をあくまで好きだった設定にしている事には理由がある。本来、私の今の立ち位置はリリちゃんが立つはずの場所だった。そこに主人公役の私が立つ事で望まないシナリオ変化が生まれ、望まない結末になる危険性を想定したのだ。  エヴァン君はレディロ主人公に一目惚れ設定だ。という事は、ここで私がボロを出し間違ってエヴァン君ルートに入ってしまうと、もしかしてもしかしたらエヴァン君の好意という名の刃によりリリちゃんの優しい噓が暴かれて私の汚名が返上されてしまい、私はスワローズ家へと再度迎え入れられてしまうかもしれない。  ダメ。そんなのダメ絶対。殿下から逃げられ王妃となる道から外れられても、公爵家と貴族としての重圧がリターンなんて無理。我が儘でも無理。  だから、ここで間違っても救済の如き孔明の罠、エヴァン君ルートに入らないよう私は注意を払わなければならない。  それにあたり、俺様殿下の事まだ好きよって言い訳が都合良いかなってそれだけの理由で殿下を好きなふりをさせてもらっている。セス様、貴様の事は微塵も好きじゃないけど名前だけ借りるね。 「…もう行かなくては。旅立ちはやはり朝に限りますわ。エヴァン様、最後に私に会いに来てくださりありがとうございました。貴方は優しい、私の友でした」  涙目の笑顔で、遠回しにお前恋愛対象じゃねぇからと木っ端微塵にエヴァン君の恋心をぶち砕いた私は、凜とした顔でつかつかとエヴァン君の隣を通り過ぎる。  ちなみに私とエヴァン君は実際のところあんまり話した事も無いので、本心で友達なのかと聞かれたなら曖昧に微笑みながらも同級生ですと答える。  ああでもエヴァン君、私エヴァン君のハッピーエンドルートで初めて主人公のお願いを振り切ってキスしてもう誰にも渡さないって抱き締めた君に悶え転がったよ。でもノーマルエンドルートで俺様殿下と婚約破棄にはなったけどエヴァン君に恋愛感情は芽生えず、お友達で居ましょと笑顔で言ったヒロインに逆らえず苦笑いで仰せのままにって言うエヴァン君も好き。バッドエンドルートで大怪我を負ったヒロインに、俺が守れなかったせいでって勝手に責任感じて泣きながら独り善がりに消えるエヴァン君も好きだったし。つまりは君の全部が好きだった。だって大好きなゲームのキャラクターだし。つまり君だけが好きなわけでは全然ないんだけど。 「っフェリシア様…!」  私の見た目演技は完璧だったはずなのに、まさか私の心の中のエヴァン君好きよという邪念でも聞こえてしまったのか、エヴァン君が慟哭するように私を呼び止めた。  私はそれに驚き、びくりと足を止めてしまう。しまった。ち、違うんだよ、エヴァン君。君の事は確かにキャラクターとして好きだったけど、それはあくまで博愛な意味で、ミーハーなファン的感情で、ぶっちゃけ本気で恋愛するとしたら家の事とか貴族の事とか置いておいたとしても、君の愛重いしその…ちょっと、さ……。 「今は俺を好きじゃなくてもいいから! だから! 俺の手を取ってください! 俺は…っ俺は貴女が好きなんだ! 俺を選んでください…! そうしたら貴女を連れて逃げる! 二人でなら平民でだって幸せになれる! いえ、幸せにしますから…!」  後ろから聞こえる情熱的告白。  でも平民というものの評価が低過ぎてそもそも私の前提と違うので戸惑います。二人じゃなくても平民になれる事が既に私の幸せで、私もう今世の人生で今一番幸せピースいぇいいぇいな心情なんです。 「…ごめんなさい。私の事は、忘れて」  よって私は悲痛な声で、けれど内心では歯牙にもかけずあっさりと断り、今度こそエヴァン君のもとから走り去った。  なんという時間の無駄な強制最終イベント。さすがに悪役じゃなく主人公役という事か。  いや、時間の無駄なんてさすがに言っちゃいけないよね。ごめんねエヴァン君。君、ほぼ一目惚れでここまで重くなれるぐらい恋愛免疫無いみたいだから、きっとまた大恋愛出来るよ。私も平民ライフをエンジョイしながら応援しているからね。がーんばっ!  私が平民になってから、何だかんだあっという間に一ヶ月が過ぎた。望んだ暮らしを手に入れた後、私は意外とこんなものかなんて失望する事微塵もなく、毎日この幸せを神に感謝しながら平民ライフを送っている。  前世の日本で暮らしていた私は平民でそれを当然と思っていたんだけど…こうして貴族から平民に戻る経験をすると、なんと得難い幸せだったのかと実感する。  日々生きる為の最低限の食べ物に困り帰る家もなく寒さに震える貧民や、戦争により傷つき傷つけられ傷つけて生きる人々に比べれば、どちらも同じとんでもない幸福とは言えるだろう。けど、不幸比べに何の意味があるのか。人から見て幸せに見えるかなんて私からすれば至極どうでもいい。私は私が少しでも幸福になれる未来を選んだだけだ。  …それは噓の上に成り立っているけど、でも恐らく俺様殿下と婚約したはずのリリちゃんは幸せなはずだ。俺様殿下だってレディロ主人公なら未だしも、演技していないと実は根本的に性格が合わない私よりリリちゃんの方がいいだろう。両親は私に失望しただろうけど、元々冷めた関係だしあんなクズの両親の幸せの為に私は犠牲になりたくない。一応今世の親だし変に恨まれたくもないから不幸にまではしたくなかったけど。エヴァン君には可哀想な事をした。でも私がエヴァン君ルートを選ばなければ結局彼は失恋となるんだし、仕方ないと諦めて欲しい。  誰も特別不幸にならない結末、これも一つのハッピーエンドだと私は思う。 「フィーちゃんは本当に