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作者:時田とおる,深山キリ
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-12-28(角川书店)
价格:¥600 原版
文库:角川Beans文库
丛书:王女フェリの幸せな試練(2)
代购:lumagic.taobao.com
王女フェリの幸せな試練 祝福のベールアップ 王女フェリの幸せな試練 祝福のベールアップ 時田とおる 角川ビーンズ文庫 本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信したり、ホームページ上に転載したりすることを禁止します。また、 本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。  目次 序章 愛され王女の悩みごと 第一章 答えへの招待状 第二章 王家の血筋 第三章 あなたを知りたい 第四章 ドレスコンテスト 第五章 フェリシアの声 終章 優しいキスに願いをこめて あとがき シロツメクサの祝福  ある夜、王子さまは、隣国の王女さまにキスをして、こう言いました。 「言葉が信じられないというのなら、俺がキスした意味を考えろ」  王女さまは昔、誕生のお祝いに、「その瞳を見た者すべてから愛される」という祝福の魔法をかけられています。  しかし、どういうわけだか王子さまにその魔法は効きません。ですから王子さまが王女さまにキスをした意味が、王女さまには理解出来ませんでした。  国に帰っても、王女さまは考え続けます。ご飯を食べていても、ペットの子虎と遊んでいても、大好きな裁縫をしていても、朝起きてから夜眠るまで……いえ、時には夢の中でさえも、ずっと頭の中から王子さまの言葉が離れないのです。  考えて、悩んで、頭を抱えても…… 「わかんない……っ!」  フェリシア王女は、ベルホルト王子の言葉に、ずっと頭を悩ませておりました。  エーデルシュタイン城の廊下に、リリィはてちてちと小さな足音を響かせる。蜂蜜色に黒の縞模様の身体は軽快に走り、揺れるしっぽには、今日は緑のリボンが結ばれている。  リリィはこのエーデルシュタイン王国の王女、フェリシア=エーデルシュタインの飼い子虎だ。とは言っても本物の虎というわけではなく、フェリシアの従兄であり従者、アロイスに、フェリシアを守るために作られた使い魔だった。大好きなフェリシアを守るためなら成獣の姿で戦うこともできるが、普段は小さな子虎の姿でいる。  リリィは自身が優秀な従者だと自負している。今もフェリシアへの手紙を届ける最中なのだ。  フェリシアの部屋の前に到着すると、リリィはドアノブに飛びつき、小さな身体で器用にドアを開け、大好きなフェリシアの部屋にするりと入り込んだ。 「ぴゃ!」  自分を呼ぶ聞き慣れた鳴き声に、フェリシアはドレスのデザインを描く手を止めた。  フェリシアが空色の瞳で足元を見ると、緩くウェーブのかかった柔らかく長い髪が一房、肩からすべり落ちる。大きな丸い目を瞬かせると、髪と同じ淡い金色の睫が揺れる。色白の肌とまだ少女らしさの残る顔は普段はベールに隠れているが、美しく整っている。しかし眉は自信のなさからか、常に眉尻が下がっていた。  足元にはリリィがちょこんと座り、前足で床をてしてしと叩いていた。 「どうしたの、リリィ……それ、私に?」  リリィが叩いているのは正確には床ではなく、その上にある手紙だった。リリィは「持ってきてあげた」とその目で伝えてくる。フェリシアは手紙を拾い、リリィを抱き上げた。 「ありがとう、リリィ。持ってきてくれたのね。いいこいいこ」  リリィの喉を撫でると、ごろごろと喉を鳴らし、フェリシアに甘えるように頰に頭をすり寄せる。リリィの仕草に微笑みながら、フェリシアは差出人に期待しつつ手紙に目を落とした。 「ベル王子から……っ!」  思わず声が上ずってしまった自分に、フェリシアは赤くなる。  差出人は隣国、ディアマント王国の王子、ベルホルト=ディアマントからだった。  フェリシアはこの春、ベルホルトに「ディアマントの国民に生きる楽しみを与えたい。そのためにディアマントの祭典をよりよくする協力をして欲しい」と、ディアマントに招かれた。多少強引に誘われ訪問することになったのだが、その中でフェリシアはベルホルトと交流を持ち、彼の理想とする国を作る姿や、強引だが優しい彼を好ましく思っていた。 (それに……)  かあっと熱くなった頰を押さえると、リリィも真似をするように肉球をフェリシアの頰に押し当ててきた。ぷにっとした冷たい感触が気持ちよく、リリィにくすりと笑いかける。 「ベル王子ね、よくお手紙をくださるの。私なんかに、勿体ないぐらいよね……」 (どうして、私なんかに……)  フェリシアがそう考えた直後、頭の中でベルホルトの声が響く。  ──俺がキスした意味を考えろ。  以前ディアマントでの祭典の後、フェリシアはベルホルトにキスをされ、そう言われた。  その声を思い出し、フェリシアはまだ封をしたままの手紙で、口元を隠す。あの日、ベルホルトが触れてきた唇の柔らかさを思い出して、フェリシアはまた顔を真っ赤にした。 (考えたけど……わからないんです、ベル王子)  フェリシアは窓際のソファに腰掛け、リリィを膝に乗せたまま封を開ける。手紙をもらうのは初めてではないのに、いつも読み終わるまで心臓がドキドキして、顔の熱さがなかなか直らなくなる。しかしそれが嫌ではなくて、来た手紙を読み返すこともあった。  彼の字は筆圧が強く、少し角張っている。しかしとても読みやすい綺麗な文字が、簡潔な言葉でフェリシアに伝えたいことを紡いでいる。彼らしい字に、フェリシアは手紙を読む度に顔を綻ばせてしまう。  ベルホルトと、彼の側近達やディアマントで交流した人々の近況。  ベルホルトの父、ディアマント現国王は病に伏せっている。エーデルシュタインで開発された薬で、効き目がありそうなものを医師に相談してフェリシアが送ったところ、効果があり、回復してきていることとその礼。  そしてこれからベルホルトがしようとしていることが書かれていた。  手紙を読み終わると、フェリシアは目を瞠っていた。そこでノックの音が響く。 「フェリ、入るぞ。リリィはこっち来たか?」  部屋に入ってきたのは、従者のアロイス=シュメックだった。従兄でもある彼は、フェリシアと同じ淡い金色の髪と空色の瞳を持っている。彼は国一番の美男子と噂される美形であり、彼もそれを最大限利用し、あらゆる方面で才能を見せる、フェリシアも内心自慢の兄だった。 「手紙、読んだんだな」 「うん、お礼がしたいから来て欲しいって書いてあった。……それ、アロイスにも手紙?」  アロイスの持つ手紙に気付き、フェリシアは首を傾げる。アロイスとベルホルトは、顔を合わせるとなぜだか妙に険悪な空気になるのだが、彼らもやりとりをしていたのだろうか。 「こっちはイグナーツから、フォローの手紙だ。ま、あいつらもお前に会いたいらしいが」  ベルホルトの側近は男女二人いて、イグナーツはその一人だ。もう一人、ルディという女性がいる。二人とも、フェリシアにはよくしてくれた。会いたいと言ってくれるのは嬉しい。  アロイスが手紙を見下ろし、綺麗な顔を歪ませて舌打ちしていた。 「やり口があくどいんだよ、あの王子は。お前を絶対に来させるつもりで計画立ててるぞ」 「ベル王子は少し強引だけど、あくどいことなんてしない人よ? どうしてそう思うの?」 「迎えの人間でお前を釣るつもりだ、絶対。まぁ、それはいい。──で、どうする気だ?」  人見知りのフェリシアにとって迎えの人間が誰なのかは大きな問題なのだが、アロイスの真剣な表情に話を戻せず、その問いかけに答えるしかなくなった。答えは決まっている。 「行こうと、思って──」 「そうか……わかった、俺から丁重に断っておいてやる」 「行く! 行くって言ったの! 行かないなんて言ってないー!」  くるりと反転し、部屋を出ようとするアロイスの上着をフェリシアは慌ててひっつかむ。アロイスはまたも舌打ちした。不機嫌そうな彼を見上げ、フェリシアは恐る恐る尋ねる。 「アロイスは、そんなにベル王子が嫌いなの……?」 「ああ、気に入らないね。心の底から」  有無を言わさぬ圧を持ってきっぱりと言い切った後、アロイスもフェリシアを見下ろす。 「俺が行かないって言ったらどうする?」 「……私に、楽しんで欲しいって、言ってくださってるの。アロイスが来てくれないと、きっと楽しくないと思う。だから、一緒に来て欲しい……」  フェリシアの言葉に、不機嫌そうだったアロイスは一度瞠目してから、諦めたように目を伏せた。そしてフェリシアに向き直ってぺしっと音を立てて額を叩いた。 「アホ。危なっかしい世間知らずのアホ王女を一人で他国に行かせるわけないだろ」  足元でリリィがアロイスに向かって「びゃ!」と不機嫌な声で鳴いた。 「もちろん、リリィも一緒に行こうね」  フェリシアが抱き上げると、リリィは途端に上機嫌になって喉を鳴らした。  ベルホルトにディアマントへ向かう旨を記した手紙を送り、迎えの者がやってくる日になった。準備は出来ているが、フェリシアの不安は尽きなかった。 (結局迎えが誰なのか、アロイス、教えてくれないし! 初対面の人だったらどうしよう!)  フェリシアは以前よりは少しずつ人と会うようになった。しかしこれまでひきこもっていたフェリシアの人見知りがそう簡単に直るはずもなく、すでにガチガチに緊張していた。  そしてもう一つ──ベルホルトに会うことを楽しみにする反面、懸念もあった。 (ベル王子に会ったら、あの時のキスの意味を問われるのかしら……? どうしよう、これだけずっと考えてて、わからないのに……もし訊かれたら、私はどう答えたら……)  答えられない、わからないと答えたら、がっかりされるだろうか。それは悲しい。 「フェリシアさま。ご旅行の準備の確認を……」 「あっ、はい! 今行きます!」  ぼんやりと考え事をしていたフェリシアは肩を震わせ、振り返る。二人の女性の使用人は、フェリシアが近づいて行くと、こちらを見たまま固まっていた。 「どうか、しましたか?」  使用人達は、フェリシアの問いかけにハッとして、頰を赤らめた。 「いえ、やはりフェリシアさまは、ベール越しでも神々しく、お美しい方だと思いまして」 (え? でも私、今、ちゃんとベール着けて……)  フェリシアはベールを被っていることを確認してから、恐る恐る顔を上げる。正面からフェリシアを見た彼女達は、目眩を催したようにくらりと身体を傾けた。 「ああ! 申し訳ありません、ですがベールから透けて見えるお顔を見るだけで、私……!」 「これからしばらく城におられないなんて、何だか私、涙が出てきました……」  フェリシアは生まれた時、国中の魔法使いから祝福の魔法を受けた。それはフェリシアの瞳を見た者はみな、フェリシアを愛するという魔法だ。フェリシアが愛されるのは、祝福の魔法のおかげ──そう気付いて以来、フェリシアは人の好意を素直に信じられなくなり、ひきこもるようになってしまったのだ。  祝福の力の影響を受けないのは、フェリシアの両親と、アロイス、そしてこれから向かうディアマントの王子、ベルホルトだけだった。両親とアロイスは血縁だから効かないのだろうとアロイスは言うが、ベルホルトだけは理由が未だにわからない。  フェリシアは忘れ物をしたと言ってその場から立ち去り、アロイスの部屋に駆け込んで、事情を説明した。アロイスはフェリシアのベールを捲ってみるが、何ともないようだ。 「今までこのベールで何ともなかったよな? てことは……力が強くなってるのか?」 「そんな、どうして……⁉ どうしよう。もう、迎えの方も来られるのに……っ!」 「落ち着け。光の加減で瞳が見えてしまっただけかもしれないだろ。厚手のベールを持っていけ。こういうのは、心が不安定だと力も不安定になるもんだ。気をしっかり持て。いいな?」  少々自信はないが、フェリシアは頷き、急いでベールを取りに行こうとした。その時。 「フェリシアさま、アロイスさま。ディアマントから使者が参りました」  扉の向こうから使用人の声がした。窓から城門を見れば、それらしい一団が到着している。 「フェリ、どうする?」  フェリシアの不安を見越して、アロイスはそう尋ねた。力が強くなっているとなると、不便も多い。しかし── 「……いつも以上に気をつける。だから、アロイスも力を貸して」  何か言われるかと思ったが、アロイスは笑ってフェリシアの頭を撫でて答えてくれた。  ディアマントからの迎えの使者が誰なのかという問題は、フェリシアにとっては大きな心配の種だった。しかし、目を引くその華やかな姿を見て、フェリシアの不安は吹き飛んだ。 「フェリ、久しぶり!」  迎えの使者はベルホルトの側近の一人、ルディ=ローゼンクランツだった。アロイスと同じかそれ以上の長身瘦軀に、きりりとした目元と綺麗な顔の造形。真っ直ぐな赤髪を一つにまとめたその姿は凜々しい。女性達が騒いでいるが、彼女は歴とした女性だ。ルディはフェリシアより三つ上の二十歳。年も近い彼女は、身分を超えた友達になってくれた。 「よかったです、迎えの方がルディさんで! 知らない方だったらどうしようかと……!」 「私もフェリに早く会いたくて、迎えに来たんだよ」 「ルディさん……!」  フェリシアの手をとって微笑むルディに、フェリシアの視界が滲む。そんな二人を見て、アロイスが顔を覆ってため息を吐いた。 「やっぱり、あの王子、お前でフェリを釣ろうとしてるんだろ。この人タラシめ」 「人聞き悪いなぁ。大丈夫だよ、私好きな人いるから、口説いたりはしないって。あはは」 「そういう意味じゃ──」  ルディがさらりと言った言葉に、フェリシアとアロイスは目を瞠り、同時に口を開いた。 「「好きな人⁉」」 「おお、息ぴったり。ていうか、あれ? 私、言ったことなかったっけ?」  首を傾げるルディをアロイスがじっと見て、少し間を置いてから尋ねた。 「……男か? 女か?」 「あはは、やっぱそこ気になるよね。相手は男だよ。……すっごく、可愛い奴だけどね」  そう言ったルディの笑みは、いつもの快活な笑顔ではなく、優しく柔らかく、フェリシアも見とれてしまった。ルディをこんな笑顔にする人がどんな人なのか、気になった。そして。 (それって、どういう感覚なのかしら……)  人を好きだと──愛するという感情は、どういうものなのだろう。両親やアロイス、友人であるルディや、よくしてくれたイグナーツを好きだと思う感情とは違うのだろうか。  ベルホルトに対して、尊敬や憧れの気持ちはある。ひきこもっていたフェリシアに、自分の可能性を知るチャンスを与えてくれた。恩人──であることは確かだが、どこか違う気がする。  ──俺がキスした意味を考えろ。 (やっぱり、わかりません……ベル王子)  会えば、わかるだろうか。わからないと言って、がっかりされないだろうか。それでも会いに行きたいと思うこの気持ちは、何なのだろう。  フェリシアを溺愛する父を母とともに何とか宥め、フェリシア達を乗せたディアマント行きの馬車は出発し、三日間の行程を無事に経て、ディアマント王国へ入国した。  王都に入ると、ディアマント城の城壁が見えてくる。戦が続いたこの国の城は、未だ要塞らしさを色濃く残す堅牢な城だ。先祖と建築家が趣味を詰め込み、美しいが機能性は全くないエーデルシュタイン城とは真逆の城だった。  揺れていた馬車がゆっくりと速度を落とし、止まった。  馬車のドアを開けると、まだよく見えないが、出迎えの人間が複数いるようで、ざわざわと話し声が聞こえる。フェリシアはその声に緊張した。ルディが馬車の扉を開けて先に降りると、その声はさらに大きくなった。フェリシアは深呼吸して、馬車を降りる覚悟を決める。  先に降りたルディが振り返り、手を差し出す。 「段差、気をつけて。手、貸さなくて平気?」 「はい、大丈夫です。裾を上げないと、引っかかってしまうので……」  ドレスの裾を両手で摘み上げ、慎重に馬車の階段を下りる。一段目を下り、二段目を下りようとした時。ドレスの丈にばかり気を取られ、爪先がほんのわずかな段差に引っかかり、フェリシアの身体は傾いて、馬車から飛び出した。 「えっ……⁉」  フェリシアは思わず目を閉じる。その直前、前方に誰かが立ったのがわかった。その人物が倒れたフェリシアの身体を正面から、抱きしめる形で受け止めてくれた。  見ず知らずの人に抱きついてしまったかも知れないと思うと、目を開けるのが怖い。 (ど、どうしよう⁉──でも、何だか私、この人を知ってる気が……)  抱きついてしまった申し訳なさと恥ずかしさ、そして妙な安心感を覚えていると、ルディの呆れた声が聞こえてきた。 「お前さ……反応速すぎ。引くわ」 「お前が遅いんだ」  耳の傍で聞こえた声に、フェリシアはパッと目を開けた。  フェリシアは自分を抱き留める身体の肩に手を置いて、その人物の顔を見ようとした。広く、しっかりした肩。濃い茶髪の側頭部が見える。傍で聞こえた声が誰のものなのか、わかっていたが理解が追いつかない。なぜ。どうして。あなたが。  フェリシアが身動きしたのを感じてか、彼はフェリシアの身体を下ろした。深い緑の両目が、フェリシアを見つめてくる。 「ベル、王子……っ」  フェリシアを抱き留めたのはディアマント王国の王子、ベルホルト=ディアマントだった。  ベルホルトを至近距離で認識したその時。フェリシアの脳裏には彼からの口付けが鮮明に思い出される。深緑の瞳が自分の姿だけを映し、柔らかな唇が触れた瞬間、感じたことのない幸福感が胸に広がった。そして。  ──俺がキスした意味を考えろ。  キスした後に言われた、その言葉。 (ど、どうしてこんな時に思い出すの……!)  エーデルシュタインに帰ってからも、その言葉が頭から離れず、ずっと考えていた。しかしどれだけ考えても、わからない。フェリシアがもう一度ディアマントに来た理由の一つは、ベルホルトに会って、あの言葉の答えが知りたいからだった。 「おい、大丈夫か?」  ベルホルトが心配の言葉をかけてきて、フェリシアは今の状態に気付く。まだ腕はベルホルトに触れたままだ。顔に熱が集中し、フェリシアはパニックになりながら謝罪の言葉を叫ぶ。 「ご、ごめんなさい、すみません、申し訳ありませんんんんんっ!」 「落ち着け。……相変わらずだな、フェリ」  ベルホルトは明かりが灯るようにフェリシアに微笑み、優しく名を呼んでくれた。 (どうして……? 何だか、すごく、嬉しい……っ)  顔に熱が集まるのは、恥ずかしいだけではなかった。フェリシアが思っていた以上に、ベルホルトとの再会は嬉しかった。さらに、傍にいたルディよりも早く駆けつけてしっかりと抱えてくれたことが、さらにフェリシアの鼓動を高鳴らせていた。  フェリシアは一度息を吸って落ち着いてから、ベルホルトをベール越しに見つめた。鼓動は収まらないまま、フェリシアは嬉しさで上ずる声を出した。 「ありがとうございました、ベル王子。……久しぶりにお会い出来て、嬉しいです」  ベルホルトはフェリシアの言葉を聞いた途端、真顔になった。彼は何かを言いたげに口を開いたが、我に返ったように瞠目し、静かに言った。 「……ああ。俺もだ」  その声は柔らかかったが、そう言った時、すでにベルホルトはフェリシアから顔を逸らしていた。その眉間には、わずかに皺が寄っている。 (何だか、そっけない、ような? 私、何かしてしまった……?)  胸に、針で刺したようなわずかな痛みを覚える。  しかしフェリシアの胸の痛みは、ベルホルトが再び微笑を向けてきてくれたことで霧散する。 「よく来てくれた。歓迎する」 (よかった。怒っていらっしゃるわけではないみたい)  フェリシアがホッと胸を撫で下ろし、口を開こうとすると、不意にフェリシアの肩にアロイスの手が置かれた。すでに馬車から降りていた彼は、ベルホルトを見ていた。 「……うちの大事な王女を助けてくださって、どうもありがとうございます」  アロイスは薄い笑顔と刺々しい声で、ベルホルトに感謝を告げる。アロイスの肩に乗っていたリリィはフェリシアの腕に飛び移り、ベルホルトに「びゃー!」と威嚇の声を上げた。  ベルホルトは苦い笑みを浮かべ、アロイスとリリィを見た。 「……お前達も相変わらず、元気そうで何よりだ」 「おかげさまで」  ベルホルトとアロイスの間に、剣吞な空気が流れたが、二人はすぐに顔を逸らした。その間から、榛色の瞳に眼鏡を掛けた茶髪の男性の笑顔が現れた。目尻の垂れた目は冷静さをたたえているが、彼はフェリシアに向けて優しい声を掛けてきた。 「フェリシア王女、お待ちしておりました」 「イグナーツさん! お元気でしたか?」  フェリシアがそう言うと、ぴしりと背を伸ばしたイグナーツは完璧な礼をした。 「もちろんです。あなたは、殿下の理想とする新しい祭典の形を作った立て役者。言わば救世主。神の使い……そう、天使と言っても過言ではありません」  何だか熱の入り始めたイグナーツの言葉に、フェリシアはぽかんと口を開ける。 「え……? ど、どうされたのですかイグナーツさん⁉ 以前はもっと冷静な……っ」 「? 私は冷静ですが……?」  フェリシアが混乱する前で、イグナーツは確かに冷静な目をしている。それが余計にフェリシアを混乱させた。フェリシアはハッとしてアロイスを振り返って囁く。 「ねえアロイス、イグナーツさんのこれって、祝福の力の……」 「いや、馬車で一緒だったルディが平気だったんだ。まだお前との距離もあるイグナーツに影響してはいないだろ。……素面でこれってのもどうかと思うが」  アロイスがそう言った後、ベルホルトがイグナーツの肩を摑んだ。 「イグナーツ。フェリの前でそれはやめろと言っただろう。──フェリ。面倒臭いが、まぁ、これがこいつの愛情表現だと思って流してくれ」 「め、面倒臭いとは何ですか殿下! 私は常に真剣です!」  ベルホルトは一度片手で顔を覆ったが、フェリシアに苦笑を向ける。とりあえず、イグナーツはフェリシアを待ちわびていてくれたことはわかった。驚いたが、嬉しい。 「それに、フェリシア王女をお待ちしていたのは私だけではありませんよ」  イグナーツはそう言って、ベルホルト達の背後を手で指し示す。 「皆、フェリシア王女をお待ちしておりました」 「皆……?」  イグナーツが指し示した方向を見ると、城の使用人や衛兵、騎士、恐らく城下の人々までがずらりと並んでいた。フェリシアの名前が入った旗を掲げている者までいる。  フェリシアは思わずリリィを抱き締め、アロイスの後ろに隠れてしまった。 「何ですか、これは。うちのひきこもり王女には少々ハードルが高いんですが」  アロイスがそう言うと、ベルホルトは一度人々を振り返ってから答えた。 「あの祭典以来、この国ではどこもお前の話題で持ちきりだ。フェリの考えや衣装が、この国ではとても新鮮に映ってな。噂が噂を呼んで、一つの流行になっている」 (私が……流行……?)  ベルホルトの言葉に何も言えず、フェリシアはぽかんと口を開けてしまった。 「あの者達はお前が来ることを楽しみに待っていたんだ。……その気持ちは、俺にもよくわかるからな。そう無下には出来なかった」 (それは……ベル王子も、私のことを待っていてくれたということ……?)  その事実があるだけで、何だか勇気が湧いた。大勢の人の前も、通れる気がする。 「わ、わかりました。私、あそこを通っていきます……っ!」 「……言ったからには、途中で気失うなよ?」  アロイスの現実味のある言葉に、フェリシアは少し、いやかなり不安になる。さっき馬車でつまずいた時も、緊張したせいで転んだのだ。また転んだら情けないなんてものじゃない。  フェリシアの視線はベルホルトに向く。彼がフェリシアを見たところでフェリ