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作者:樹生かなめ,奈良千春
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-12-05(讲谈社)
价格:¥594 原版
文库:讲谈社X文库White Heart
丛书:龍&Dr.(30)
代购:lumagic.taobao.com
龍の伽羅、Dr.の蓮華 龍&Dr.(30) ご利用になるブラウザまたはビューワにより、表示が異なることがあります。 龍の伽羅、Dr.の蓮華 樹生かなめ 目 次 龍の伽羅、Dr.の蓮華 あとがき 電子書籍特典スペシャルショートストーリー 「出家、阻止せよ」 イラストレーション/奈良千春 龍の伽羅、Dドクr.ターの蓮華 1  寒い。  冬だ。  お花見をしていないのに冬になったのか?  そんなはずはない。ゴージャスな監禁部屋に閉じ込められているうちに桜は散ってしまったが、今は目にも眩しい新緑の季節だ。  ……のはずだが、氷川諒一が勤務する明和病院は凍りついている。雪なんてものではないし、吹雪なんてものでもない。雪崩に遭遇した。  いや、冬将軍の降臨だ。  氷川だけでなく看護師の鈴木として明和病院に潜入している麻薬取締官の松原兼世も、氷の兵隊と化している。  冬将軍ことロシアン・マフィアのイジオットの次期ボス最有力候補が、なんの前触れもなく、長閑な明和病院に現れたのだから。  彼の名はウラジーミル。 「姐さん?」  金髪の美青年に声をかけられても、氷川は反応できなかった。何しろ、ウラジーミルは単なる金髪の美青年ではない。その気になれば、難なく東京の闇勢力を制圧することができるだろう。イジオットに比べたら日本の暴力団は可愛いものだ。 「姐さん? 姐さんは桐嶋の姐さんで、藤堂の姐さんだな? 眞鍋の橘高清和の姐さんは藤堂の姐さんなんだな?」  ウラジーミルの口から愛しい男の名が飛びだし、ようやく氷川は我に返った。指定暴力団・眞鍋組の二代目組長が、命より大切な橘高清和だ。氷川は彼より十歳年上の男でありながら、眞鍋組の二代目姐として遇されている。 「……ウラジーミル?」  幼馴染みだった清和と再会して以来、あまりにも予想外の修羅が多すぎて、図らずも闇社会と関わってしまった。 「ああ」 「……ど、どうしてここに?」  社会においての知名度は低いが、ウラジーミルの傑出した優秀さと残虐さはロシアのみならず欧州全域に轟いている。清和が金看板を背負う眞鍋組も、イジオットのウラジーミルには神経を尖らせていた。清和が執拗に敵視している藤堂和真と関係があるからなおさらだ。 「藤堂の姐さんがDr.氷川だと聞いた」  ウラジーミルの宝石のような目は、真っ直ぐに氷川を貫く。隣にいる二枚目看護師には目もくれない。  ただ、兼世はさりげなく氷川を廊下の端、それも観葉植物が柵のように並べられたスペースに移動させる。必然的にウラジーミルの足も動いた。 「……はい?」  長い睫毛に縁取られた氷川の黒曜石のような目がゆらゆらと揺れた。 「姐さんは藤堂に坊主になれ、と命令するのか」  坊主。  坊主と言ったのか。葬式や寺で会う僧侶のことか。ロシア語で『ボウズ』という言葉があるのか。ロシア人が誤解している日本文化のひとつに『坊主』とやらが何かあるのか。  氷川は何を言われたのか、まったく理解できなかった。  あのお経をあげるお坊さんじゃないよな、なんまいだ~っ、のお坊さんじゃないよな、と氷川は白百合と称えられる美貌を裏切る顔を晒した。院内外の女性を虜にする兼世にしてもそうだ。坊主とはなんと破壊力のある言葉だろう。 「姐さんは藤堂を坊主の本拠地に行かせた」  ウラジーミルは目を閉じて聞いていれば、日本人だとしか思えないような流暢な日本語を喋る。ただ、時に不可解な表現がある。  坊主の本拠地、という言葉に氷川は引っかかった。 「……は? 坊主? 坊主の本拠地?」 「……坊主の本拠地……高野山だ」 「高野山?」  高野山といえば弘法大師が開いた真言密教の総本山であり、日本が誇る世界遺産のひとつだ。  騙し討ちのような形だったが、しばらくの間、勤務していた田舎の病院は和歌山の山奥にあった。老人患者たちの会話には何度も和歌山県にある高野山の話題が上ったものだ。 「姐さんは藤堂から綺麗な髪の毛を奪うのか?」  氷川の脳裏に紳士然とした藤堂が浮かんだ。いったい髪の毛を奪うとは、どういうことなのだろう。薄毛ということか、脱毛ということか。  どんなに努力しても、藤堂の頭部から艶のある髪の毛を消去できない。ウラジーミルから銀色に近い金髪を消せないように。 「……え?」 「姐さんは坊主になるのか?」  坊主、僕が坊主、僕がなむなむな~む、ち~ん、の坊主、と氷川の思考回路がおかしな方向に回りだした。 「……坊主? 僕がお坊さん?」  内科医である氷川も僧侶も、人の生死に携わっているが、似て非なるものだ。今まで出家を意識したことは一度もない。 「姐さんなら坊主じゃなくてシスター? 尼さんになるのか?」  ウラジーミルの氷の美貌はいっさい変わらないが、氷川の日本人形のような顔は無残にも崩れっぱなしだ。冗談を言いそうにない男の話が飛びすぎる。どうしたって、氷川はついていけない。 「僕が尼さん?」  女のお坊さんを尼さんって言うから僕が尼さんになる……わけないじゃないか、僕は男だから出家したらお坊さん、そういえば患者さんで得度した実業家がいたな、得度した社長もいた、と氷川の思考回路はぐるぐる回った。今現在、身につけている白衣が墨染めの僧衣に見えてくる。  錯覚だ、錯覚だとわかっている。目がおかしくなっているのだ。  が、耳はおかしくなっていない。ウラジーミルの声はちゃんと氷川の耳に届いている。ただ、内容が把握できないだけだ。  黒衣の僧侶とともに高野山名物の高野豆腐や胡麻豆腐も飛ぶ。和歌山の僻地勤務時代、慣れ親しんだ食材だ。 「姐さんが尼さんになるから、藤堂に坊主になるように命令したのか?」  それが仁義とやらか、とウラジーミルは凍りつくような目で続けた。周りにツンドラブリザードが発生したような気がしないでもない。 「……寒い」  くしゅん、くしゅん、とウラジーミルが発する冷気に氷川はくしゃみを連発した。  兼世は思案顔でこめかみを押さえている。おそらく、凄腕の麻薬取締官も冬将軍の言葉に思考回路を凍結させかけているのだろう。 「寒い? 暑い」  ウラジーミルは氷川のくしゃみに驚いたらしく、宝石のような目を瞠った。冬の日本でもシャツ一枚で平気な男だから無理もない。 「……ごめん、話を元に戻そう。僕が尼さんになる? 僕が出家?」  ちゃんと説明してほしい、と氷川はウラジーミルを真正面から見上げた。百九十センチ近い清和よりさらに上背がある。その存在感も迫力も尋常ではない。 「藤堂は俺のものだ。返してもらう」  ウラジーミルの言葉を聞いた途端、聡い兼世は小声で独り言のように零した。魔性の男だ、と。  魔性の男。