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作者:秋吉理帆,藤原ゆか
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-12-02(角川书店)
价格:¥580 原版
文库:角川Beans文库

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昨日のアイツ、今日の君。 昨日のアイツ、今日の君。 秋吉理帆 角川ビーンズ文庫 本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信したり、ホームページ上に転載したりすることを禁止します。また、 本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。  もくじ 序章 第一章 告白 第二章 別人? 第三章 もう一人の、彼 第四章 芸術コース 第五章 トロイメライ 第六章 ピアノ科 第七章 デート 第八章 奔走 第九章 綾城祭 第十章 ユウくん 終章 あとがき 番外編  今日私は、生まれて初めて告白された。  夕陽に照らされた、放課後の屋上で。  秋の涼風が優しく頰を撫で、ヒグラシと芸術コースから聞こえる吹奏楽部の練習音が鳴き渡るなか。  向かい合って立つクラスメートの折坂くんが、私を見下ろして穏やかに微笑んだ。 「長谷部 鈴さん。あなたが好きです。……僕と、付き合ってくれませんか」  今までほとんど接点のなかった折坂くんの顔を初めて真正面から見て、ああ、折坂くんって結構整った顔してるんだな…ってことに気付く。  意思の強そうなスッと切れ上がった目尻。  秋風になびく、柔らかそうな黒髪。  そして、形のいい唇から紡がれた、告白の言葉。  ──それはまるで。  少女漫画の1コマを切り取ったかのような。  恋愛ごとに疎い私でさえ眩暈がしそうなほど、キラキラした瞬間だった。  時間は、三時間ほど前にさかのぼる。  帰りの挨拶が終わった瞬間、クラスの中は一斉にガヤガヤと騒がしくなった。  カバンを手に立ち上がりかけたところに、親友の亜美が手を振りながら駆け寄ってくる。 「リンー、今日カラオケ行かない?」  私の名前は、鈴と書いてそのまま〝すず〟なんだけど。  亜美はそれを音読みにして、私のことをリンと呼ぶ。  響きも可愛いし、そのまま鈴の音も表してるみたいで、私はそう呼ばれることが嫌いじゃなかった。 「あー、ごめん。今日委員会」 「え。あー……学祭の?」 「うん」 「めんどくさい委員に当たっちゃったねー」 「しょうがないよ。くじ引きだし」  肩をすくめて私は苦笑を返す。  しょうがない……確かにそれは本音なんだけど。  公平を期する為に、先生は部活をしてる人も塾に通ってる人もひっくるめて、クラス全員で学祭委員を決めるくじ引きをした。  結果、女子は私。  そして男子がこともあろうに、2年にして野球部エースピッチャーの三浦くんに当たってしまったのだ。  秋大会を控えた三浦くんは、案の定委員会なんて出られる訳もなく。  結果、委員の仕事はほとんど私一人でこなしているのが現状だ。  公平を期する為のくじ引きが余計に不公平になっている事実には、正直不満を感じないわけではなかったけど。  不満を声に出して言えるほどの勇気もないし。  まあどうせ、学祭が終わるまでのことだし……ね。  私立綾城学園高等科。  それが、私の通う高校なんだけど。  コースは普通科コースと芸術コースがあり、私、長谷部鈴は現在普通科の2年に属している。  普通なのはコースだけじゃなくて、私自身もそうで。見た目も普通、成績も普通、スクールカーストでもヒエラルキーのど真ん中。  それに反してうちの学校の芸術コースは県内でも有名で、音大や芸大への進学率がとても高く、中等科から通う生徒も少なくない。  校舎はコの字型になっていて、職員校舎を挟んで西と東にカッチリ分かれているから、お互いの校舎を行き来するなんてことは、まずない。  それこそ学祭の時季ぐらいしか交流はないし、何となくだけど、芸術コースの生徒達は普通科の生徒のことを見下しているような雰囲気もあって。  同じ綾城学園とは言っても、まるで他校同士のようなよそよそしさがある。  私を綾城の芸術コースに通わせたがっていたお母さんなんか冗談半分で、どうせならあんたも近所の人に芸術コースに通ってますって言っといたら? なんて言うけど、芸術コースはブルーのネクタイ、普通科コースは赤のネクタイって、決定的な違いがあるから、そんな噓はすぐばれちゃうんだけどね……。 (陽が短くなってきたなあ……)  委員会が終わり。  窓から射し込んでくる西日に私は目を細めた。  夏休みが明けて、休み気分も抜けきらないままだらだらと過ごしている間に9月も後半。  連休が過ぎたあたりから涼しくなって、一気に秋めいてきた気がする。  夕陽に照らされたオレンジ色の廊下を、少し感傷的な気分で歩いていた、その時だった。 「──長谷部……さん」  どこからか遠慮がちに名前を呼ばれて、私はピタリと足を止めた。  声のした方向に目を凝らす。  すると階段の陰から、一人の背の高い男子がスッと現れた。 「折坂……くん?」  今までまともに目も合ったこともないクラスメートに呼び止められて、私は面食らってその場に立ち尽くした。  同じクラスの、折坂くん。  名前だけ知ってる……ホントにただ、そんな感じの男の子だった。 「え。……今、呼んだ?」 「うん」  おそるおそる聞き返す私に、折坂くんは微笑みながら頷いた。  その笑顔を見て、私はドキッとする。  なんていうか……折坂くんて、こんなに柔らかく笑う人だったっけ……? 「話があるんだ」 「え。……私に?」 「うん。ちょっと、屋上まで来てくれる?」 「…………」  階段の上を指し示す折坂くんを、私は戸惑ってぼんやりと見つめ返した。  シチュエーション的に、もしかして告白……?  いや、まさかね。  だって、話した記憶もほとんどないし。  ────なんて。  その時は思っていたんだけど。 (折坂くん……かぁ……)  自宅に帰ってからお風呂に直行した私は、湯船に浸かりながらぼんやりと今日のことを思い返していた。  折坂 孝平。  2年に進級してから同じクラスになった、男子。  目立つタイプではないけど、暗いって訳でもなくて……なんていうか、ホントに普通の男の子っていう印象しかなかった。  いっつも男子同士でつるんでて、女子と話してるところなんてほとんど見たことなかったし。  ぶっちゃけ、席も離れていて、言葉を交わしたことがあったかなかったかすら思い出せないほど、彼とは接点がなくて。  ……だから今日の告白は、ホントにホントに心底びっくりした。  折坂くんは一体、こんな私のどこを好きになってくれたんだろう……。  ブスとまでは思わないけど、ほとんど話したこともないのに好きになってもらえるほど可愛いとも思わないし。 (びっくりしすぎて、何にも聞けなかったな……)  まさかホントに告白されるなんて思ってもみなかったから、あの瞬間私の頭の中は真っ白になってしまって。  結局返事も保留にしてもらって、逃げるように帰ってきちゃったんだけど……。 「…………」  ちゃぷん、と鼻まで顔を湯船に沈める。  返事って言ったって……OKなら付き合うってことだよね。  折坂くんと付き合う。  ────はっきり言って、想像もできない。  どんな人なのか全然知らないし、話が合うのかどうかも分からない。  他に好きな人がいるって訳でもないけど……。  好きじゃないのに付き合うってのも、抵抗あるし。  折坂くんにも失礼だよね。 (お友達から始めたい、っていう返事は、ズルいのかな……)  本音を言うと、もう少し時間をかけて折坂くんのことを知りたい気持ちがあった。  そして、どうして私のことを好きになってくれたのか、何かきっかけがあったのか、なんて、せっかくなら聞いてみたい。  色々彼と……話をしてみたい。  いつもより長めにお湯に浸かって考え事をしていたせいか、クラッと眩暈に襲われて。  軽く首を振ってから、私はザバッとお湯を蹴るようにして立ち上がった。  翌日。  折坂くんの告白のことばかり考えて殆ど眠れなかった私は、しぱしぱする目をこすりながら学校までの道を歩いていた。  そこまで考えなくてもよかったのかもしれないけど、何故か折坂くんは早めに返事がほしいと言っていたから……。  漫画とかだと、普通告白した後って「返事はいつでもいいから、ゆっくり考えて」っていうのが常套句だと思ってたけど。  そうじゃないパターンもどうやらあるらしい。  でも……折坂くんが返事を急ぐ理由って何なんだろう? 「時間がないんだ」って言ってたけど……あれは一体どういう意味なんだろう。 (……あ)  教室に一歩足を踏み入れた私は、目に飛び込んできた折坂くんの姿を見てドキリと胸を弾ませた。  折坂くんは自分の席に座っていて、隣の席の男子と楽しそうに笑いながら話をしている。  彼の顔を見た瞬間、半分寝ていたような脳が一気に覚醒したのだけど。  私に気付いていないのか、あえて気付かないふりをしているのか、折坂くんはこちらを見向きもしなかった。 「リン、おはよ」  背後から肩を叩かれ、私はハッと我に返る。  振り返ると、亜美が不思議そうな顔で小首をかしげた。 「どしたん。こんなとこで突っ立って」 「あっ……、お、おはよ」  私は慌てて止めていた足を動かし、自分の席へと向かう。  ……な、なんか。  告白した折坂くんより、告白された私のほうがバリバリ意識しちゃってない……?  向こうはいつもと様子、変わんないっぽいし。  窓際の一番後ろの自分の席に腰を下ろした私は、ちょっと怪訝な思いでもう一度チラッと折坂くんに視線を投げた。  ────だけどやっぱり折坂くんは私のことなんか気にも留めていない様子で、数人の男子と談笑を続けていた。 (……わざと?)  告白どころか、恋愛経験すらほとんどない私は、彼の態度に若干の混乱を覚える。  こういう知識って全然なくて、また漫画の話になるけど。  普通なら告白した次の日、教室に入った瞬間に目が合って、お互いにドキッ、みたいな。  そんで同時に照れて、サッと目を逸らす……みたいな?  そんな感じだと思ってたのに。  ……まぁ、周りに知られたくないっていうのもあるし、わざと知らんぷりするのは、案外リアルな反応なのかも……?  授業が始まり、私は頰杖をつきながら前方に座っている折坂くんの背中をぼんやりと見つめた。  折坂くんの席は、廊下側の前から二番目。  ほぼ対角線上に位置する彼の姿は、意外と私の席からよく見える。  今まで意識したことなかったからこんな風にマジマジと見つめたことなかったけど……。  折坂くんて、結構線が細いんだな。  今ってちょうど衣替えの移行期間なんだけど、折坂くんはまだ半袖で、袖口から伸びる腕がすごく細い。  部活、やってないのかな?  運動部って感じじゃないよね。 (……って、これじゃなんか、私のほうが折坂くんのこと好きみたいじゃない!)  知らず知らず頰に熱を感じ、私はパタパタと手の平で顔を扇いだ。  ──経験がないって、怖い。  今まで全く意識してなかったのに、告白された途端に気になっちゃうなんて……。  私ってこんなに、単純だったっけ? (返事……どうしよう)  折坂くんから窓の外に目を移し、頰杖をついたままそっと溜息をつく。  視界に映るのは、校庭を挟んで向かいに立つ芸術コースの校舎。  細く開けた窓から、秋風と共に色んな楽器の音が微かに滑り込んできた。  噓をついちゃいけない。  それだけは昨日のうちに決意していて。  ……でもじゃあ私の気持ちは? って自問自答してみると、出てくる答えはやっぱり『友達から始めたい』なんだよね。  さすがにいきなり付き合うって決断はできないし、かと言って折坂くんのこと何も知らないまま断ってしまうのもなんだか悪い気がして……。  もっと彼のことを深く知れば、好きになるかもしれない訳だし。  ──ただその場合、好きになれない可能性もあるわけで……。  もし好きになれなかった時は、期待させてしまった分余計に傷付けちゃうことになるよね……。 (あーもー……告白されるってこんなに大変だったんだ)  結局昨日からこんな感じで、一つの答えに辿り着いては一つの問題が発生して……を繰り返して、その度に頭を抱えてる気がする。  漫画見て、こんな告白されてみたいなーなんて単純に思ってたけど。  告白されたらされたでこんなに頭悩ませるなんて、知らなかったよ……。  放課後。  亜美は今日は部活の日。  じゃあねー、と言って元気に教室を出ていく彼女を手を振って見送った後、私はハアッと大きな溜息をついた。  今日一日は殆ど授業は上の空だった。  学祭が終わったらすぐに中間試験が始まるっていうのに……このままじゃとんでもない点数を取ってしまいそう。 「…………」  チラッと折坂くんに視線を走らせる。  実は今日、二回ほど折坂くんと目が合ったのだけど。  ……いずれも彼はニコリともせずにフイと目を逸らしてしまった。  すごく素っ気なく感じてびっくりしたんだけど、照れてるのかな、とも思ったり。  ただ改めて気付いたのは。  折坂くんは、いつも男友達と一緒だということ。  休み時間も、お昼を食べる時も、ずーっと誰か他の男子と一緒にいて、声をかけるタイミングがなかなか見つからないのだ。  放課後、思い切って声をかけようとしたんだけど……案の定、帰りも他の男子達と連れ立ってぞろぞろと教室を出て行ってしまった。  ──私には、一瞥もくれずに。 (早めに返事くれって言ったって……。これじゃあ、声もかけられないじゃん)  みるみる人けがなくなっていく教室の中、ぼんやりと立ち尽くしていた私は。  再びぺたん、と、力なく椅子に腰を下ろした。  何だか今日一日、折坂くんの一挙手一投足に気持ち振り回されまくりだったな……。  昨日のことが噓だったんじゃないかって思うぐらい……折坂くんいつもと変わらない様子だったし。  もしかして私、夢でも見てたのかな……? 「長谷部さん。まだ残るの?」  思考を破られて、私はハッと顔を上げる。  教壇の前に立っていた担任の柴田先生が、窺うように私のことを見ていた。  気が付くといつの間にか、教室に残っている生徒は私一人になっていた。 「あ……はい。学祭のしおりに載せるクラスコメントの〆切が明日なんで、残ってやっちゃおうかと」 「……そう」  柴田先生は少し申し訳なさそうに眉尻を下げる。 「ごめんなさいね、くじ引きのこと。公平にするつもりが、余計に長谷部さんに負担かけることになっちゃって……」 「ああ、大丈夫ですよ。言うほど忙しい訳じゃないですし」  謝られるとかえって気を遣ってしまい、私はへらへらと笑顔で手を横に振った。  実際うちのクラスの当日の出し物は模擬店だから、お化け屋敷やメイド喫茶なんかやるクラスと比べると、準備も比較的楽なほうだし。  毎日部活で汗水流してる人よりは、やっぱり帰宅部の私がやるべきことなのかなーとも思うし。 「じゃあ、最後鍵閉めお願いね」 「はい」  教室を出ていく柴田先生を見送ってから、私は机の中から提出用のプリントを取り出した。  ホントは休み時間に仕上げるつもりだったんだけど……。  今日はどうも折坂くんが視界に入ってきて、あんまり集中できなかったんだよね。 「さて、と。やるか」  ふうっと息を吐き出してから、私はシャーペンを手にした。  一人で机に向かっていると、他のクラスのザワザワした声や、窓の外の運動部の掛け声なんかがよく聞こえてくる。  隣のクラスの出し物はお化け屋敷だから、数日前から残って皆で準備をしているようだ。 (……あ)  微かにトランペットの音が聞こえてきて、私はカラカラと窓を開けた。  夕風に乗って、向かいの校舎から吹奏楽部の練習の音が耳に飛び込んでくる。  今は学祭に向けて、猛練習をしているらしい。  うちの学校の芸術コースの出し物は結構本格的だから、楽しみなんだよね。  今の時期だけのこの雑多に混じり合った色んな音……結構好きだったりする。  文章を書いたりするのは苦手だったけど、心地いい風と音のおかげかするするとペンが進み。  一日折坂くんに気を取られていた分、何故だかすごく集中することができて。  熱心にプリントと向かい合っていた、その時だった。  ガラッ…と勢いよく後ろのドアが開く音が聞こえて、集中していた私はビクッと大きく体を揺らせた。  弾かれたようにドアのほうを振り返る。 「…………」  そこに立っていたのは折坂くんで。  驚いた私は、思わず椅子を蹴ってガタッと立ち上がってしまった。 「お……折坂くん……」  射し込む夕陽に照らされた折坂くんが、私を見て目を細める。  逆光で一瞬誰だかわからなかったみたいだけど、しばらくして私だと気付いたのか折坂くんは緩く目を見張った。  大人しかった私の心臓が、折坂くんの顔を見た瞬間一気にバクバクと暴れ始める。 (うわ……、どうしよう。今ここで返事した方がいいのかな……。早く返事欲しいって言ってたし……、でも、まだ答え出てないしな……)  そんな風に、一人でうろたえていた私だったけど。  折坂くんはフイと私から目を逸らし、スタスタと自分の席へと歩いて行ってしまった。 (え。あ、あれ?)  てっきり私の所へ来ると思っていたので、予想外の彼の行動に一瞬ポカンとなる。  黙って折坂くんを見つめていると、彼は自分の机の中を物色し始め、ノートらしきものを取り出した。  そうしてそれをカバンにごそごそしまうと、なんとそのまま私のほうを見向きもせずに一直線にまたドアの方へと歩き出した。 (えーーっ!? 忘れ物取りに来ただけっ!? 何にも言ってくれないの!?)  さすがに私も、今日一日の折坂くんの行動に激しく混乱する。  これってもう……照れてるとかいう次元じゃないよね?  はっきり言って、無視だよね?  いや、無視って言うか、無関心……? 「あ、あの、折坂くん!!」  とっさに大声で呼び止めると。  教室を出て行きかけていた折坂くんはピタッと足を止めた。  ドアに手をかけたまま、ゆっくりとこちらに顔だけを向ける。  少し長めの前髪の隙間から覗く意思の強そうな瞳に、私の顔が映り込んでいた。  その顔は少しびっくりしたみたいな表情だったけど……。  いやいや、こっちの方がびっくりしてますから。  百歩譲って、クラスの皆がいる前ならその素っ気ない態度も分からなくないよ?  照れてるんだろうな、ばれたくないんだろうなって、理解もするけど……。  告白した昨日の今日で、返事は早めにって急かしておきながら、会釈もせずに無言で立ち去るって。  ……その態度はさすがになくない? 「────何?」  廊下の方向に向いていた体をこちらに向けながら、折坂くんはどこか警戒するような声色でそう聞いてきた。  夕陽に赤く焼ける彼の顔が真っ直ぐにこちらを向いて、私の胸はドキッと大きく弾む。  うわ、ヤバい……。  とっさに呼び止めてしまった……。 「えっと……。その……」  どう切り出そうかと、思わず彼から目を逸らして指をもじもじさせる。  どうしよう……。  今の私の正直な気持ち、そのまま折坂くんに伝えてみようか。  付き合うとかはまだ全然考えられないけど、友達から始めてみたい…って。 「あ、あの……ね」 「うん」 「昨日の告白の……返事なんだけど」  意を決して、キッと顔を上げる。  目が合った瞬間、折坂くんはハッキリと大きく目を見張った。 「あれから色々考えたんだけど……。私、折坂くんのことほとんど知らないから、やっぱりまだ付き合うとか考えらんなくて……。───だから。……だからね」 「────ちょっと待って」  途切れがちに紡いでいた言葉を食い気味に遮られて、私はとっさに口を噤んだ。  折坂くんの顔が心なしか険しくなっているような気がして、私はドキリとする。  よほど驚いたのか、彼の瞳は激しく揺れていた。 「何の話してんの?」 「……え?」  問われて、私はぼんやりと折坂くんの顔を見つめ返した。 「な、何って……。昨日折坂くん、告白してくれたよね? 付き合ってください……って」 「いや、知らないけど……」 「────え」 「俺、告白なんてしてねーよ」  若干声には動揺が滲んでいたけど、折坂くんはハッキリとそう言った。  何を言っているのかわからなくて、私はただただ折坂くんの口元を見つめる。  ……え、だって。  昨日、折坂くん。  私のこと好きだ……って。  言ってくれたよね?  なのに、なんで?  なんで今日は、知らないなんて言うの……?  言葉を失って立ちすくむ私を見て、折坂くんは眉をひそめながらふうっと息を吐き出した。  持て余したように後頭部をガリガリと搔きむしる。 「昨日って、いつの話?」  埒が明かないと思ったのか、呆然としている私に折坂くんは少し口調を和らげてそう聞いてきた。  私はハッと我に返り、気持ちを落ち着かせようと胸元を押さえる。  そうして呼吸を整えながら、ゆっくりと口を開いた。 「ほ……放課後……。屋上で」 「放課後?……って、何時頃?」 「何時って……。委員会終わってから、だから、6時前後だったと思うけど……」 「───じゃあそれ、俺じゃねーわ。授業終わって俺、すぐ家に帰ったから」  驚き、私は目を見張る。  頭が真っ白になって、テンパり始めて、何故かドキドキと動悸が激しくなり始めた。  訳のわからない感情が押し寄せてきて、カーッと全身が熱くなる。  そんな私に向かって、折坂くんは更に言葉を続けた。 「家に帰ってから俺、一歩も外に出てねーし。誰かと間違ってんじゃねーの?」 「……そっ……」  さすがにカチンときて、私は睨むように折坂くんを見上げた。 「そんな訳ない……! いくらなんでも、そんな人違いしないよ!」  ムキになり、ついつい口調が荒くなる。  だって……いくら私がヌケてるからって、半年間同じクラスだった人を間違えるわけない。  折坂くんに双子がいるなんて聞いたことないし、昨日のあれは間違いなく折坂くんだったよ。  名前だってちゃんと呼んだし、それを否定だってしなかった。  そりゃ……ちょっと印象が違う感じは否めなかったけど……。  カッカしている私とは対照的に、折坂くんは冷めた表情でスッと目を細めた。 「じゃあ……夢でも見たんじゃねーの」 「…………」  そう言った折坂くんは、昨日の穏やかな折坂くんとはまるで別人みたいだった。  びっくりしたというよりは、彼の発する空気に吞まれてしまって、私は何も言えなくなる。  黙り込んでしまった私を見て、一瞬何かを考え込むような仕草を見せた折坂くんだったけど。  結局何も言わず、クルリと踵を返してそのまま教室を出て行ってしまった。 「…………」  力が抜けて、私はふらりと椅子に腰を下ろす。  何が何だか、何が起こったのか、まったく理解ができなくて。  オレンジ色だった教室の中が、陽が沈んで紫色に変わるまで、私は呆然とその場に座り込んでいた──。  一拍の間をおいて我に返った私の胸に込み上げてきた感情は。  猛烈な、恥ずかしさだった。  折坂くんの言うように、私は本当に夢を見てたんだろうか。  恋愛経験がなさ過ぎて、恋に恋して、妄想が爆発しちゃったんだろうか?  いくらなんでもそんなことあるはずない、あれは夢なんかじゃなかった……って、声を大にして言いたいところだけど───。  さっきの折坂くんの態度と言葉が、完全に私の心を萎縮させてしまってい