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作者:火崎勇,池上紗京
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-12-05(讲谈社)
价格:¥648 原版
文库:讲谈社X文库White Heart

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王の愛妾 ご利用になるブラウザまたはビューワにより、表示が異なることがあります。 王の愛妾 火崎 勇 目 次 王の愛妾 私だけの恋 あとがき イラストレーション/池上紗京 王の愛妾 王の愛妾  私は、幸福だった。  そしてその幸福が、いつまでも続くと信じていた。  あの時まで……。  私が生まれたミントン伯爵家は、数多ある伯爵家の中でも上の方だと思う。  領地は王都から離れた、さして広くはないものだったが、領地の真ん中に主要な街道が通っているおかげで、人や物の流通が盛んで、領民の生活も潤っていた。  また、ミントン伯爵夫妻、つまり私の両親は、お母様が侯爵家の出で、お父様は国王陛下のご友人であったため、立場的にも取り立てられていた。  王城の中にお部屋を賜ったり、王家主催のパーティに出席したり。陛下が遠出をする時には、その一行に名を連ねたり。  お父様がもし野心家であったなら、きっとすぐにでも侯爵位を叙爵していただろう。  けれど、お父様はそういう方ではなかった。  お父様の情熱は、王城内で位を上げることではなく、古くから受け継いできたミントン伯爵領をより豊かにし、領民の暮らしを守ることに向いていた。  無欲だからこそ、陛下のお覚えもめでたかったのだろう。  またお母様の実家の侯爵家は広大な領地ではあったけれど北の果て。  お母様自身、三女であったため、あまりよい扱いではなかったらしい。 「正直を言うとね。最初にお父様とのお話があった時、伯爵の、しかも領地の小さなお家に嫁がされるなんて、あまり幸福は望めないわと思っていたの」  そんなことを笑って言えるほど、実際は想像と違っていた。  婚約の前に交換した絵姿では美男子に描いてあったけれど、そんなものは画家の絵筆一つ。  だから期待などしていなかったのだ、と。けれど現れたお父様は絵のとおりで、更にご性格もよく、嫁いできた伯爵領は豊かで、人も優しい土地だった。 「結局、私は一番いい結婚相手を選んだのだと思うわ」  昔話はいつもその一言で終わった。  お父様の方は、疑うことなく絵姿の美しい姫に心を奪われていたので、お会いしてそれ以上の美しさと、教養と、優しいお心をお持ちのお母様と結婚できたことは幸福だったとおっしゃっていた。  夫婦仲はとてもいい、ということね。結婚してすぐにもうけた第一子は男子。それがライオネル兄様だ。  跡継ぎが生まれたから、次は女の子が欲しいと願っていた両親の下に生まれてきた二番目の子供が私だ。  お兄様が生まれてから七年目。待ち望んでいた女の子とあって、両親は私をとても愛してくれた。またお兄様も、私を可愛がってくれた。  家族に愛され、優しい召し使いに囲まれ、裕福な生活を送り、私は自分が幸せな娘だと思っていた。  我が家に大きな変化が訪れたのは、お父様が病気になった時だ。  病気自体は、大したものではなかった。  けれど、お父様が病に臥せっている時に、遠乗りに出掛けた陛下が落馬による怪我で命を落とされてしまったのだ。  お父様は、自分がついていければ、と酷くお悔やみになっていた。  お父様と陛下の友情は王妃様もご存じだったので、伯爵でありながら葬儀の式典にお席を賜ったけれど、お父様は、親友の死去ですっかりお力を落としてしまわれた。  病で体力が落ちていたせいもあったのだろう、あまり城に出仕することもなくなり、領地に籠もるようになってしまった。  それがまた、お二人の間にあったのが利害などではなく、真の友情であったことの証明だと思われたのだけれど。  これでミントン伯爵家と王家の関係は絶たれるかと思っていたのだが、お父様が陛下の下をお訪ねになる時、お兄様を伴っていたことで、お兄様と王子様の間にも、友情は育っていた。  爵位は譲られなかったが、お仕事はお兄様に委ねられ、王子……、いえ、新しい国王陛下に望まれ、王都での勤めをすることになった。  生まれてからずっと側にいてくださった優しいお兄様と離れ離れになるのはとても悲しかったけれど、お兄様にとっては喜ばしいこと。笑って送り出すしかない。  それに、今度はお父様がずっと側にいらっしゃるのだし。  お兄様は新王コルデ陛下の友人として、立派にお勤めになった。  時々領地に戻られると、まだ正式にはあまり王都に足を運んだことのない私に、色々と王都のお話もしてくださった。 「私は今まで自分が出会った中では、お前が一番美しい女性だと思っていたよ、エリセ。金色の髪に深い緑の瞳、白い肌に色差す咲き綻んだばかりの蕾のような唇。だが王都にはもっと美しい女性がいた」 「まあ、当たり前だわ。お兄様は女性を見る機会が少なかっただけよ」  二人きり、庭先のベンチで語らった日のことを、私は忘れない。  暫くこちらへ戻れなくなるからと、顔を見せに戻ってきたお兄様は、両親には内緒だと言って特別な秘密を打ち明けてくれたのだ。 「私は、功績を立てたいんだ」 「功績?」  ミツバチの羽音がする午後の庭。  風はまだ時折冷たかったけれど、日差しは暖かかった。 「父上達には内緒だが、侯爵位を拝したいと思ってる」 「まあ、そんな大それた……!」  お兄様は、決して権力志向な方ではなかった。  なのにどうして突然そんなことを言い出したのか。  その理由はすぐにわかった。 「私もそう思う。だが、私が求める女性の手を取るためには、それくらいの地位が必要なのだ。伯爵では、気持ちを打ち明けることすらできない」  そういうことだった。 「私より美しいと思った方ね?」  お兄様は照れたように笑った。 「ああ。今まで出会ったどんな女性よりも美しいと思った。容姿だけでなく、内面も」 「その方は侯爵令嬢? それとも公爵令嬢?」 「それはまだ秘密だよ。もしもその時がきたら教えてあげよう。それで、エリセに相談なのだが、女性が喜ぶプレゼントとはどういうものだ?」 「それは……、お花やお菓子かしら? 大人の女性ならば、宝石が一番だと思うけれど」 「宝石などは沢山持っているんだ」  ああ、身分の高い女性ですものね。 「そうね……。私なら、特別なものが欲しいわ」 「特別なもの?」 「ええ、誰でも手に入るものではなくて、私だけの特別なもの。決して高くなくていいの、私のためだけに用意されたものなら」 「具体的には?」 「本当に何でもいいのよ。ハンカチでも指輪でも。私の名前を縫い取ってあったり、他にないデザインのものであれば。自分は特別に想ってもらえている、という気持ちが伝われば何でもいいのよ」  お兄様が私に相談をするなんて初めてのことだったので、少し浮かれて、饒舌になってしまう。 「指輪は結婚の約束をする時のものだから……、ブローチはどうかしら? その方がお好きな花をモチーフにして、特別にあつらえるといいわ」 「ブローチか……。そうだな、それならば」 「その方のお好きな色は?」 「赤……かな?」 「お好きな花は?」 「薔薇とユリだな」 「では赤い薔薇の花のブローチになさったらいいわ。それで、裏に名前を彫っておくの」 「エリセなら喜ぶかい?」 「ええ。でも、恋人でないなら、あまり高価なものは困るわね」 「ふむ……。わかった、リュナンの細工師に頼んでみよう。お前の名前で頼んでもいいか?」 「私の?」 「誰に贈るか、まだ秘密にしておきたいから」 「そういうことなら、いいわ。私からお母様の誕生日用だとでも言えば。それならば『愛を込めて』でもおかしくないでしょう?」 「そうしよう」  お兄様には、それまで恋の噂などなかった。  女性とお付き合いしたことがないとは思わないけれど、想いを寄せている方がいらっしゃるという話は一度も出てこなかった。  新王にお付き合いして、仕事優先だったから。でも、もしもこの恋が上手くいったなら、私にもお義姉様ができるのだわ。そう考えると心が弾んだ。 「私も、その方にお会いしたいわ」 「お前もそろそろ王城のパーティに顔を見せてもいい頃だろう。社交界にデビューはしたのだろう?」 「ディーゼル公爵のパーティで。でも王城は全然違うのでしょう? 私も陛下のお姿を拝見したいわ。コルデ陛下はとても美男子だそうだし」 「ああ、男前だ。凜々しくて颯爽としてらっしゃる」  私は先王様とはここで謁見したことがあったが、コルデ王とその妹君であるアレーナ様は、戴冠の式典を遠くから眺めただけだった。  お二方とも、王太后様譲りの黒髪の美しい方らしい。以前お兄様も褒めていらした。  王太后様は南の方の国の出身で、その美しい黒髪が先王陛下のお心を射止めたともっぱらの噂だった。 「先王様が亡くなられて、王太后様は離宮に移られるのじゃないかって噂があるけれど、本当かしら?」 「かもしれないな。ご自分のティアラを作り替えて、アレーナ様のティアラになさるそうだ」 「ティアラを? それじゃ王太后様はもう公式の席にはお出にならないの?」  王族の女性は公式の席ではティアラをつけることが必須だ。それを作り替えてしまうということはもう公式の席には出ないということになる。  けれどお兄様は、私の心配を笑った。 「違うよ。もっとシンプルなものを新しく作られるんだ。これからはコルデ陛下やアレーナ様の時代。ご自分はあまり表舞台には立たないようになさるらしい。あまり出しゃばると、コルデ陛下が王妃を迎える時の妨げになるだろうと」 「まあ、陛下のお母様である方が妨げになるなんて、あり得ないわ」