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作者:伏見咲希,音中さわき
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-12-05(讲谈社)
价格:¥540 原版
文库:讲谈社X文库White Heart

代购:lumagic.taobao.com
事故物件幽怪班 森羅殿へようこそ ご利用になるブラウザまたはビューワにより、表示が異なることがあります。 事故物件幽怪班 森羅殿へようこそ 伏見咲希 目 次 1軒目 事故物件 2軒目 情炎の影 3軒目 夢のあとさき あとがき イラストレーション/音中 さわき 1軒目 事故物件  この部屋に足を踏み入れるのは、なぜか躊躇われた。  一見して、どこも変なところはない。けれど、何かがおかしかった。  室内は寒いくらいに冷えている。外は本当に暑かったのに、冷房もいらないくらいだ。  どうにも妙にそわそわとして逃げ出したい気持ちになるのを抑えて、ビールを呷るように飲む。缶ビールを何本空けても、なかなか酔いは回ってこない。むしろ、神経は冴え冴えと研ぎ澄まされていくような気さえして、小さな音にまで過敏に反応してしまう。  それでも、酒をいつもより過ごしたせいか、ようやくうとうとと眠りに誘われた。  束の間、意識がとぎれる。だが、何かの気配を感じて眠りの淵から意識は浮上してしまった。室内の明かりもテレビもついたままだ。友人も横でごろりと転がって軽くいびきをかいている。  何だろう? と思った。拡散していた気配が凝り、徐々に一つの形を作ろうとしている。  見てはいけない。本能が強く告げる。けれど、意に反して目蓋はどうしても閉じてくれない。  ──見開かれたままの目に、それは映った。 『森羅殿』──正式名を『各務コーポレーション不動産部苦情対策課処理係特殊班』、またの名を『幽怪班』の事務所は、都内の比較的緑の多い街の一角にある。  白を基調とした洋館は、石畳の車寄せやステンドグラスが嵌まった扉など趣ある佇まいに、一見して洒落たカフェかレストランに見える。実際に間違えて入ってくる者も少なくなく、そこが事務所と知ると彼女たちは一様に残念そうに去るのが常だった。  扉を開けてすぐの玄関ホール中央にある大きな花台には、来訪者を出迎えるようにいつも花が飾られていて、今もその前で黙々と作業に勤しむ長身の男性が一人。森羅殿に飾られる花の手配と世話を一手に任されている業者──花屋『清花苑』の漣蓮之介だ。  艶やかな黒髪から覗く琥珀色の瞳が印象的な端整な顔立ちと男性にしては少し長めの髪を一つに括ったその姿に、槇良実は笑みを浮かべて声を掛けた。 「お疲れさまです、レンレ」  ン、と続く筈の言葉は、しかし瞬時にギロリと睨みつけた琥珀色の瞳の迫力に圧倒されて、槇は慌てて言い替える。 「……いえ、レンさん。一服されてはいかがですか?」 『漣蓮之介』と名前を教えてもらったときは、普通に『漣さん』と呼んでいたと槇は記憶している。が、再会したそのとき、絶望的な恐怖から解放された反動か妙な思考回路になっていたようで、お礼を言いつつ思わず『レンレン』と親しみを込めて呼びかけてしまった。即座に却下されたそのとき以来、『レンさん』という呼び方で落ち着いているけれど、いつか絶対に呼んでやると、それこそ妙な決意を胸に秘めている槇だったが、今回も玉砕のようだ。  槇を睨むことで結局手を止めてしまった漣は、小さく肩を竦めつつ苦笑する。 「今さっき、作業を始めたばかりなんだが?」 「そんな固いことを言わずに、一緒にお茶にしましょう」  今、漣が手掛けているものが、あと少しで完成と踏んでの誘いだ。  ここの他にもいくつかあり、まだまだ作業に時間がかかることもわかっているが、少し強引にでも誘わないと彼は頷いてくれない。  ウェイターよろしく飲み物とレモンチーズタルトを載せたトレイを片手に器用に持つ槇を、援護射撃するように声を掛けてきたのは彼の上司である高村恭子だった。 「ちょうど一服したい気分だったのよね。だから、レンさんも一緒にいかが?」  にっこりと美しい笑みは、しかし拒否を許さないしたたかさが満載。 「……………………わかったよ」  反論しても無駄、と知っての一言はたっぷり間を置いて。嘆息まじりとはいえ了承されたそれに、恭子がぱちりと鮮やかなウィンクを槇へと投げてよこした。それを受けて、槇は「おさすがです! チーフ」と心の中で絶賛しながら、早速談話室のテーブルにセッティングする。 「このレモンチーズタルト、もしかしなくても槇くんのお手製?」 「はい。前回とても好評だったので、またちょっと作ってみました。今日はレンさんがいらっしゃる日でもありましたし」 「ふふ。じゃあ、レンさんのおかげでご相伴に与れるってわけね」 「そういったわけでは。……ご希望でしたら、いつでも作りますが?」 「あら、催促したわけじゃないのよ? でも、まさか『期待のホープ』の槇くんが、これほどお菓子作りが得意だったと知ったときはびっくりしたわね」  意外すぎて……と続けた恭子に、槇は小さく笑いつつも「どうぞ」と慣れた所作で切り分けたそれを差し出す。  受け取った恭子が早速一口、口にして顔を綻ばせたそのとき、仕立ての良いスーツを着こなした長身の男性がしなやかな身ごなしで談話室に入ってきた。特殊班メンバーの一人、坂城桂だ。日本人男性の平均身長よりもわずかに高い槇よりも、さらに十センチ以上は高いだろう漣と同じくらいだろうか。 「チーフ、そろそろ時間です。──漣さん、いらっしゃってたんですね」 「あぁ、邪魔してる」 「あら、もうそんな時間?」 「ん? 時間、って?」 「これから相談に来られる方がいらっしゃるんですよ」  時計を見つつ、槇が答える。漣を誘った時点では、もう少し余裕があると思っていたのだが、存外時間を取られていたようだ。 「そうか。なら、俺はすぐに仕事を終わらせて帰るな」  槇の説明に、既に食べ終えていた漣が作業に戻るからと席を立とうとした。 「レンさん、逃げちゃダメですよ」 『森羅殿』を訪れる人の相談事は正直厄介なものが多く──だからこそ、独立した事務所となっているのだが、この場にいればもれなく巻き込まれると知って逃げの一手に出た漣の行動はすっかりお見通しで、槇がしっかりと釘を刺す。すかさず恭子も参戦。 「ちょっと待って! レンさんにも一緒に話を聞いてもらえると助かるんだけど」 「はぁ? 俺は完全に部外者だろうが。さっさと自分の仕事を終わらせて帰るよ」  そもそも、花屋である俺がどうして同席しなければならないんだ、と漣がわずかに凄む。しかし恭子は怯む様子もなく、拗ねた口調で言い募った。