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作者:貴嶋啓,くまの柚子
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-10-30(讲谈社)
价格:¥594 原版
文库:讲谈社X文库White Heart

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禁忌の花嫁 法官と宿命の皇女 ご利用になるブラウザまたはビューワにより、表示が異なることがあります。 禁忌の花嫁 法官と宿命の皇女 貴嶋 啓 目 次 禁忌の花嫁 法官と宿命の皇女 あとがき 電子書籍特典スペシャルショートストーリー 「素直になれなくて」 イラストレーション/くまの柚子 禁忌の花嫁  法官と宿命の皇女  カミツレ、ヒソップ、ギンバイカ──。  ハディージェは、施療院に満ちている薬草の匂いをひとつひとつ数えながら、その空気を胸いっぱいに吸い込んだ。  この施療院は、薬草以外にも蛇の皮や特殊な黄土、蝙蝠の羽など、めずらしい薬材が棚に整然と並べられ、それぞれが独特の香りを放っている。  ハディージェにとってそれらはすべて、子供のときから慣れ親しんできたものだ。囲まれていると不思議と心が落ち着く。  幼い頃の彼女は、それらを薬研で煎じる父の傍らに座り、瞳を輝かせてその作業に見入っていたものである。  尊敬する養父イルハンは、エルトゥールル帝国の東方にある田舎町スルサライで施療院を開いていた医師だった。  その父が亡くなり、医術を学ぶために帝都イストへ来て、はや一週間。  この日ようやくハディージェは、師となる女医師トゥグバを紹介してもらうことができた。これからは、彼女の施療院を手伝いながら医師として独り立ちできるよう努力する日々がはじまるのだ。 (きっと、父さまのような立派な医師になってみせる……!)  ハディージェはそんな決意とともに、これからの新生活に心を躍らせるのだった。 1 「とうとう降ってきちゃったわね」  屋敷の外門に到着したハディージェは、丈長外衣チャルシャフについた玉のような雫を手で払いながらつぶやいた。  慌てて走ってきたため、ひどく呼吸が乱れている。目元以外を覆っている濃紺の外衣の奥で深く息を吸い込むと、凜と冷えた空気が心地よい。  意志の強さを表すような少し太めの眉の下で、睫毛に縁どられた夜空色の瞳が曇天を見上げる。すべてを覆いつくすような雲は厚く、先ほどから降り出した雨は次第に強くなっているようだ。  エルトゥールル帝国では日一日と秋が深まっている。それにともない帝都イストは、雨の多い季節になるという。 (この分じゃ、また薬草が乾くまで時間がかかってしまうわね)  施療院を出る前に、天日干ししていた薬草を取り込んでおいて正解だった。咲きはじめの薔薇を思わせる唇を引きむすび、ハディージェはほっと胸を撫で下ろす。  そうしているうちに鉄で鋳られた扉は開かれ、門番が丁重な態度でハディージェを屋敷のなかへと通してくれた。門から入ると目の前はすぐに石段となっていて、それを上った奥に、二階建ての重厚な建物がそびえている。  エルトゥールル帝国建国時からの法律家ウレマーの名門、カラハリル家の屋敷である。 (やっぱり、まだ慣れないわね)  気後れするのを抑えられないままハディージェは、大理石で造られた白い石段を上りはじめる。カラハリル家の伝統と格式を思わせる邸宅は、帝都イストのなかでも権門の住宅が建ち並ぶこの街区でも、特に立派な建物だからだ。  屋敷の主であるアラエッティンは、老齢ですでに引退したとはいえ、かつてはエルトゥールル帝国における法律家の最高位──法律家の長シェイフル・ウレマーの地位にあった人物である。  故郷であるスルサライの田舎町から帝都イストにやって来たハディージェが、この屋敷にやっかいになってから、そろそろ半月になる。しかし彼女は、こうして外から屋敷に戻ってくるたびに、いまだに場違いなところにいる自分に戸惑うばかりだ。 「でも雨脚がひどくなる前に帰ってくることができて、ようございましたね」  彼女と一緒に屋敷まで駆けてきた侍女のミネが、ハディージェの後ろから声をかけてくる。  医師見習いであるハディージェは、週に四日ほど、近所の施療院を手伝いながら医療を学びはじめていた。そんな彼女をいつも施療院まで送り迎えしてくれているのが、このミネだった。  侍女をつけられるなんて経験したことがなかったので、はじめハディージェは、付き人など必要ないと訴えた。しかしアラエッティンに言い含められ、いつのまにかミネは、彼女が施療院にいるとき以外ほとんどの時間を一緒にいて、彼女の世話をしてくれるようになっていた。