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作者:後藤リウ
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-10-30(讲谈社)
价格:¥594 原版
文库:讲谈社X文库White Heart

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夢守りの姫巫女 君の目に映る世界は青色 ご利用になるブラウザまたはビューワにより、表示が異なることがあります。 夢守りの姫巫女 君の目に映る世界は青色 後藤リウ 目 次 序章 1 最古の学舎 2 ふたたび聖都へ 3 東のカラム 4 神々の峰 終章 あとがき イラストレーション/かわく 夢守りの姫巫女 君の目に映る世界は青色 序章  まずはじめに世界を創りしは偉大なるバラク。  ウピは火と祭りを司り、生命の源をもたらす者。  テウは戦と嵐を司り、破壊と再生をもたらす者。  アティは美と愛を惜しみなく与える麗しのきみ。  ネネムは死の母。死と大地の豊穣を司る。  その子らのうちパダムは兄、目覚めと正義を守り、  セテは弟、夢と虚偽を弄ぶ。  そしてすべてを維持する偉大なる神はハルキ。  その眠りを覚ますことなかれ。 1 最古の学舎 「南のセダ、フキからも昨日報せが届きました。夢見ができぬと、死者の夢に入れぬと」 「東山脈の北方はどうだ? 報せはまだか?」 「おそらく戦の影響で、こちらの便りがまだ届いておらぬのかも……」 「東南ララムからの報せも、やはり同様。みな混乱し、対応策を求めております」 「そのようなこと……我々にもわかるはずがないだろう?」  青白い薄闇のなかで、人々の声が慌ただしく響く。  ここはサバ・リシ。殯衆の最古の学舎といわれる場所だ。この土地で採れる青灰色の石で築かれた討議場は、円形の広間に、尖った屋根が載り、窓には青い薄布の帳が下りている。そのため、なかにいる者たちの顔も、床や壁もすべてがほのかに青く、どこか夢のなかのように実体を欠いて見える。  もしかして私は夢を見ているのではないかしら──キアルはふと思う。  あろうことなら、これが夢であればいいのに。 ◇  キアルが王宮を離れなければならないことを告げたとき、ラトマは目に見えて落胆した。 「なぜ? こんなに急に……そなたの師にも、しばらくここに滞在してもらうわけにはいかぬのか?」  そう言われると、キアルも少しためらいをおぼえた。本来なら、その要請に逆らうことのできる相手ではない。黒に一筋銀の交じった特徴的な髪、鷹のような金の目をし、少女のように美しい少年は、キアルと同じ十六歳にして、この国で最高の地位にあった。彼、ラトマこそが、この聖王国を統べる王なのだ。  もっとも、出合ったときはまだ王ではなかった。それどころか、キアルは彼が王族であることも知らなかったのだ。そのときの自分の態度を思い返すと、あまりの畏れ多さに心臓が縮み上がる。もし不敬罪が適用されるなら、たぶん十回くらいは死刑になっているのではないかと思う。  だが、そのためにキアルたちのあいだには、身分を超えた心の繫がりが生まれ、いまにいたるまでその関係は揺るがない。  だからキアルは、率直に言った。 「ごめんなさい。いますぐ行かなければいけない用事ができたの」 「……なにかあったのか?」 「ええ……いまは話せないけど、重要なことなの」 「なにか、そなたの師に咎められたのではないだろうな? 修行を放り出して私と同行したことで。もしそうなら、私が……」 「いいえ、それは……もしかしたらられるかもしれないけど、そのことじゃないわ」  ラトマはほっとしたようだったが、ここで声を落とした。 「それで……返事はまだもらえぬのか? それとも……」  彼は不安げに、ちらりとキアルの顔を覗く。 「……もしかして、それが返事か?」 「そうじゃない……けど、ごめんなさい。いまはあなたの……その、申し出について、ゆっくり考えていられなくなったの」  それどころではない──と答えるのは、はばかりがある。ラトマの〝申し出〟というのが、キアルへの求婚である以上は。  畏れ多くも聖王陛下に求婚されて、その想いを軽んじるようなことができるだろうか。  いや、相手が聖王でなくとも、同じことかもしれない。  だがこれは間違いなく、キアルにとって聖王の求婚より重大な事件だ。  夢見が夢を見られなくなった──ということは。  殯モガリノ夢ユメ見ミは死者の夢を見る。そしてその内容を遺族に伝え、どのように弔えばよいかなどを指示する。それが仕事だ。  その一点で外界と接している彼らにとって、生得のわざを失うことは、すなわち破滅に直結する。殯衆だけの里でほぼ自給自足の生活をしているとはいえ、夢見の謝礼は彼らの豊かさを保証するものだし、夢見をするからこそ、よそ人は彼らを畏れ敬うのだ。よそ人との交流がほとんどないからといって、全き孤立ではない。殯衆が暮らしているのは、よそ人の生活圏からさほど離れていない場所ばかりだ。これまでは殯衆に対する不可侵の掟と、彼らに対する畏怖の念が、よそ人から彼らを守ってきた。だが彼らに夢見ができないとわかったらどうなるだろう?  それゆえに、絶対に外部の者には知られてはならない。  いま、ラトマにはっきり理由を告げられないのもそのためだ。 「もしこんな不実な私を許せないと思ったら、どうか申し出を取り下げて」  中途半端な状態で去るのは申し訳ないと思って、キアルが遠慮がちに切り出すと、ラトマは落ち着いてかぶりを振る。 「いいや、言っただろう? 私はいつまでも待つ。そなたの気持ちが決まるまで」 「ラトマ……」 「それに……私にもだんだんわかってきたのだ。そなたを愛するということは、そなたに振り回されるのに慣れることだとな」 「そんなこと……」  むっとして反論しかけたキアルだったが、これまでの自分の行動を顧みて勢いをなくす。 「…………も、もしかしてそうかも……ごめんなさい」 「いいのだ。そんなそなたが好きになったのだから」  一瞬、胸がきゅんとする。 「ラトマ、あなたっていいひとね」  ラトマが、にやっと笑った。 「いまごろ気づいたのか?」  そしてもうひとり、別れを告げなければならない相手があった。こちらの方が、もしかしたら聖王との別れよりも辛いかもしれない。 「そう……帰るんだね」  ティファトは驚きも見せずに、静かに言った。すでに覚悟していたようだった。  責めるようすもなく、やさしく微笑む彼を前に、キアルは胸が締めつけられるように苦しくなる。 「ああ、ティファト……ごめんなさい」  彼女はティファトとかたく抱きあった。  金の髪、みどりの目、白い肌──キアルとティファトはまるできょうだいのように似ている。まったく違う場所で生まれ育ち、まったく違う境遇にあるのに。  キアルは西の果てから来た殯ノ夢見、ティファトは東の山地から来たまじない師。  キアルが追っていた〝夢魔〟がティファトに取り憑き、その体を乗っ取ってこの国に混乱をもたらそうとしたとき、キアルとティファトは力を合わせて〝夢魔〟を滅ぼした。それ以来、ふたりはずっと一緒だった。意志が強く、考えるよりまえに行動してしまうようなキアルと、おっとりしてやさしいティファトだったが、ともに過ごすうちに、いつの間にか相手が本当のきょうだいのように──いや、むしろ自分の半身のように感じられるようになっていた。  じっさいに、彼らは互いに互いをおぎなうように生まれたのかもしれない。彼らふたりは聖王家の宝珠〝竜の聲〟を、初代聖王以来はじめて使いこなし、数百年ぶりに竜を呼び出したのだ。  どうしてそんな力が自分たちに備わったかはわからない。だがその答えを探るまえに、彼らは別れなければならなかった。  ──殯衆はまじない師とよしみを通じてはならない。  それが殯衆の戒律だ。  本来キアルは、まじない師であるティファトとつき合ってはいけなかったのだ。はじめから。  なのに戒律に反して、ずるずるとここまで行動をともにしてしまった。 「じゃあ……これで、お別れだね?」  ティファトが静かにささやく。キアルは涙が湧き上がるのを感じた。 「たぶん……きっと、いちどはここへ戻ってこられるかも……この……問題が解決したら、きっと……」  ティファトは答えず、身を離して悲しげに微笑んだ。キアル自身にも、その言葉になんの意味もないことがわかっていた。  一瞬、ラトマの申し出を受けさえすれば、ティファトと一緒にいられるという考えが浮かび、キアルははっとしてその考えを振り払う。  たしかに申し出を受け、ラトマの室となれば、キアルは殯衆ではなくなる。だがそれも戒律を破ることにほかならない。なにより、そんな理由で心を決めるなんて、ラトマに対して失礼だ。  なんにせよ、この問題が片づかない限り、ほかのことは考えられない。危機に瀕した同胞を捨てて、自分だけ勝手に幸せになることなどとてもできない。