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作者:さき,双葉はづき
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-11-02(角川书店)
价格:¥600 原版
文库:角川Beans文库
丛书:アルバート家の令嬢は没落をご所望です(3)
代购:lumagic.taobao.com
アルバート家の令嬢は没落をご所望です 3 アルバート家の令嬢は没落をご所望です 3 【電子特典付き】 さき 角川ビーンズ文庫 本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信したり、ホームページ上に転載したりすることを禁止します。また、 本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。  目次 お茶会 野心家な令嬢は特上の獲物王子様をご所望です 春の訪れ 泣き虫な令嬢は一輪の花と愛の言葉をご所望です メロメロになる秘策 冷徹な令嬢は新たなる趣味をご所望です シャッフルダンス アルバート家の令嬢は愛情をご所望です 出会い 田舎娘な王女様は友情をご所望です アルバート家の令嬢は繁盛をご所望です  あとがき 電子書籍特典ショートストーリー アルバート家の小さな令嬢は友情をご所望です  温かな紅茶を飲みつつ、令嬢達がテーブルを囲んで談笑をする。  その光景は傍から見ればさぞや麗しく輝いて映ることだろう。とりわけ、集う令嬢達がみな愛らしさと気品を纏っているのだから尚の事。女であれば誰もがあんな令嬢になりたいと憧れを抱き、そして男であれば見惚れつつも高嶺の花かと嘆くに違いない。  なにせそれほどまでに優雅なのだ。そしてここエレシアナ大学において、彼女達は優雅であり英雄でもあった。  そんなテーブルを囲む女性達の中、メアリが穏やかに微笑んだ。 「二人とも元気そうで何よりだわ」  と、そう告げれば久方ぶりに会った友人達が頷いて返してくる。といっても、片や微笑みつつ、片や泣きながらメアリのドレスの裾を摑んでと反応は真逆だ。後者に至っては、この茶会が始まってから、それどころかメアリと顔を合わせてから終始この調子なのだ。  そんな相変わらずさに、見かねたメアリが溜息と共に裾を摑んでくる彼女の手を取った。一度擦ってから握ってやれば、潤んでいた瞳が一瞬にして輝きだす。 「メアリ様ぁ……!」 「パルフェットさん、久しぶりに会えたからって泣かないでちょうだい」  まったくもう、とメアリが溜息交じりに告げれば、パルフェットが涙目で頷く。  メアリ依存度の高い彼女は、メアリがカレリア大学に戻って以降なにかと寂しさで泣いていたというが、会えたら会えたで嬉しくて泣くのだ。最早泣き虫だのという話ではない、泣いている状態がデフォルトである。だがそれが分かっていても放っておけないのがメアリであり、そんなメアリだからこそパルフェットに懐かれたのかもしれない。  だがパルフェットを甘やかすだけではメアリは終わらない。彼女が涙目ながらに笑みを浮かべる余裕を見せると、今度は悪戯心が胸に湧くのだ。  そうしてチラと背後を振り返り、少し離れた先で一人本を読む青年に視線をやった。彼は令嬢達の会話が聞こえない距離で、それでも離れることなくジッと待っている。 「誰かさん、随分と待ってくれているようね」 「誰かさんなんて知りません!」  泣いたと思えば今度はぷくと頰を膨らませて訴えるパルフェットに、思わずメアリが笑みを零す。誰かさんとはもちろんパルフェットの元婚約者のガイナスのことであり、そんな彼に対してこの可愛い令嬢はまだ意地を張っているようだ。  それを茶化すのが楽しいと悪戯気な笑みを浮かべるメアリに対して、クスクスと笑うのは同席のカリーナ。彼女が笑うたびに黒い髪が揺れ、形の良い唇が弧を描く。 「あら、カリーナさんもパルフェットさんを冷やかしたいのかしら?」 「メアリ様ってば! カリーナ様はそんなことなさいません!」 「パルフェットさんの言う通りですよ。パルフェットさんを冷やかしたりなんかしません。私が何か仕掛けるとしたら、それはもうここで言うには憚られるくらい苦しい目に、彼を……」  最後の言葉を濁しつつカリーナがジッと視線を向けるのは、もちろんガイナスである。こちらの声が聞こえていないはずの彼は、それでも何かを察したのかフルリと体を震わせた。  そんなガイナスを庇うのは、先程まで「誰かさんなんか知りません」と訴えていたパルフェット。慌ててカリーナの腕を取る。まるで子猫が必死になってしがみつくようではないか。 「だ、駄目ですカリーナ様!」 「あら、パルフェットさんってば彼を庇うの?」 「そ、そんなことはありません……」 「そう、なら良いのね。ちょっと試したい事が色々とあるの、彼なら頑丈そうだし」 「ひゃあ、ガイナス様、逃げてぇ……!」  弱々しく悲鳴じみた声をパルフェットがあげれば、それすらも聞こえていないはずなのにガイナスがより一層体を震わせた。腕を擦り周囲を見回すあたりよっぽどの寒気なのだろう。  そんなガイナスをパルフェットが案じるように見つめ、次の瞬間彼女がはたと我に返った。穏やかにかつ楽し気に笑うメアリとカリーナを見て、このやりとりを含めて自分が冷やかされていたと察したからだ。  酷いです……! とパルフェットが頰を膨らませる。だがそれすらもメアリが宥めるように手を握れば直ぐさま上機嫌に戻ってしまった。コロコロと表情が変わるその愛らしさにメアリの笑みが強まる。 「なんだか小型犬に懐かれた気分だわ」 「確かに、パルフェットさんは小型犬みたいですね」 「飛びついてきたり肩を叩いてこないだけマシよっ」  マシよね、と言いかけたメアリの言葉が止まる。  もちろん、背後からアリシアが抱きついてきたからだ。その勢いの良さと言ったらなく、思わずメアリが「はしたない!」と声を荒らげると共に立ち上がった。  もっともそれでアリシアがめげるわけがない。カリーナとパルフェットに対して優雅にスカートの裾を摘まんで挨拶し、「さて」と改めてメアリの腰に抱きついてきた。仕切り直しとでも言いたげな抱擁に、思わずメアリが悲鳴をあげる。 「メアリ様、こんにちは!」 「なんで一回普通に挨拶したのよ! 私にもその挨拶をしなさいよ!」 「今日はお招き頂きありがとうございます! 私エレシアナ大学に一度来てみたかったんです!」 「ねぇ話を聞いて……なんで締め付けたり緩めたりを繰り返すのよ!」 「あ、そういえばメアリ様のお兄様から手紙を預かっているんですよ」  そう告げてアリシアが鞄を漁りだす。  ようやく解放されたとメアリが深く息をつき、兄からの手紙を受け取ろうとし……ガッ! と背後から肩を摑まれた。言わずもがな野心家令嬢である。今日も今日とてその瞳に野心がみなぎっている。  思わずメアリが引きつった笑みを浮かべ、ゆっくりと、それこそギシギシと音がしそうなほどにゆっくりと背後を振り返った。  後ろに構えるのは麗しい令嬢。優雅に笑むその表情は美しい……はずなのに、その後ろに炎が見えるのは気のせいだろうか? 野心か、彼女の胸に宿り今もなお燃え盛る野心が幻覚を見せているというのか。 「ご、ごきげんようマーガレットさん……」 「ごきげんよう、メアリ様。ところで先程『今が狙い目アルバート家の跡継ぎ』という気になる言葉が聞こえたんですが」 「そんな言葉は誰も口にしてないわよ」  そうメアリが引きつった表情ながらに言い切り、クスクスと笑う令嬢達に溜息をついた。  なんて騒がしいのだろうか……自分も含めて。  マーガレット・ブラウニー、旧名マーガレット・リアドラは、貴族と言えどあまり高い地位の生まれではなかった。といってもリアドラ家は下級というわけではなく、あくまで中の中レベル。卑屈になるほど弱小貴族というわけでもない。  かといって胸を張って社交界に君臨出来るほどかといえば、そこまで誇れるものではない。まずまず平凡な中流貴族、社交界ではありふれたレベルの家系といったところである。  マーガレットはそれを不幸とは思わなかった。  何不自由なく、それどころか贅沢の出来る家に生まれたのだ。これを不幸と嘆くほど彼女は親不孝者ではない。自分の生まれが恵まれていることは理解している。  もっとも、ならば満足しているのかと問われれば、彼女は恥じることなく首を横に振った。その瞳に野心を宿らせながら。  平凡な貴族の家に生まれた彼女は「自分の授かったものより少しプラスしたものを子供に託せれば良い」と考える欲の薄い両親と違い、幼い頃から抑え切れぬ野心を胸に抱いていたのだ。まだ貴族の格差など知らぬ幼少時からこの世界の仕組みと格差を感じ取り、それと同時に上に登りたいと考えていた。  そんな彼女に転機が訪れた。リグ・ブラウニーとの婚約である。  ブラウニー家といえば上流の家系、親同士がエレシアナ大学時代に学友だったことから舞い込んできたこの縁談に、マーガレットは歓喜し二つ返事で了承した。  ブラウニー家に嫁げる! といっても、そこにいっさい愛などない。そもそも、リグとは一度も顔を合わせたこともなく、それどころか悪い噂ばかり聞いていた。心証はあまり良くない。そんな相手だが、マーガレットはさして気にもとめなかった。  どんな相手であろうが、夫を支え、子を授かり家庭を守る。社交界では夫が誇れる女であり、子供達には無償の愛を注ぐ母である……それこそが名家に嫁ぐ女の役目であり、ブラウニー家を名乗れるのであればどんなことでもやり遂げよう。そんな覚悟と決意を胸に、マーガレットは日々自らを高めていった。  ここで話をブラウニー家に移す。  ブラウニー家は代々続く名家であり上の中レベル、社交界では誰もが我先にと挨拶に向かうような家柄である。  そんな家なのだから、本来であれば縁談は選り取り見取り。いくら親が昔馴染みと言えど、中の中レベルであるリアドラ家の娘を娶る理由がない。  とりわけ、リグはブラウニー家の唯一の子供なのだ。家を継ぐ息子には家柄に見合った女性を、そう考えるのが普通である。上流の家の娘を貰えば家名にも箔が付く。  だがその一人息子リグこそ、ブラウニー家の抱える問題であった。  なにせ我が儘、それでいて横暴。貴族のくせに貴族を嫌う、親には理解し難い反抗期を酷く拗らせていたのだ。寄ってくる令嬢は全てブラウニー家の家名目的と決めつけ冷たくあしらい、貴族間の交友すらも「興味がない」の一言で悉く断る。それどころか時には名前を偽り市街地に赴き、職人に交ざって仕立ての真似ごとまでしだすのだ。  甘やかしすぎたとブラウニー夫婦が後悔するほどであり、後悔した時には既に手遅れに近い状態だった。  だからこそ夫婦は昔馴染みを頼り、マーガレットに婚約話を持ち掛けたのだ。  貴族の令嬢を毛嫌いする一人息子が、その反抗心から他所の女を、それも貴族以外の女を孕ませるなんてことが起こらないうちに……。  そういうわけで、双方の利害が一致してマーガレットは婚約した。  ちなみにマーガレットとリグの初めての会話は、 「お前もどうせうちの家柄が目当てなんだろ」 「えぇ、そうですよ」  である。そこにいっさい愛などなく、今後も愛が生まれなさそうな会話である。だが社交界の政略結婚などこんなものだ。  そんな二人でも大学部まで婚約関係を続けられたのは、貴族を毛嫌いしていてもリグがブラウニー家の名と恩恵を捨てられないのと、婚約破棄をされたら堪ったものではないと落ち度を作らないよう努めたマーガレットの努力故である。  そんなマーガレットに二度目の、そして望ましくない転機が訪れたのは大学部。リリアンヌの転入である。  彼女は転入早々リグに声を掛け、それ以降も何かと理由をつけては彼に付きまとっていた。  そんな光景を眺めつつ、マーガレットはリリアンヌもどうせ他の令嬢と同じ、リグに冷たくあしらわれ去っていくのだろうと考えていた。『前世でプレイしたゲームの記憶』なんてものを持ち合わせていないのだから仕方あるまい。  ところがどういうわけか、最初こそリリアンヌに冷たく接していたリグが次第に彼女に柔らかな笑顔を向けだしたのだ。それどころか自ら彼女に声を掛け、果てには彼女を囲む男達の一人と化しているではないか。  ゲームの知識を活かし、リグの貴族ゆえのコンプレックスをリリアンヌが解いていったのだ。とりわけ彼は家柄に拘らぬ愛や優しさに飢えていたので、リリアンヌにとっては楽な攻略であっただろう。相変わらず、そこには愛などないのだが。  もっとも、そんなこと思いもよらぬマーガレットはリグの変わり様に目を疑い……そして同時に不味いと表情を渋らせた。  せっかくブラウニー家との縁を作れたのに、それをあんな女に奪われてしまうのか……と。  そう危惧するマーガレットが動き出したのは、実を言うとどの令嬢よりも早かった。全てを知って慎重に動いていたカリーナですら気付きも、それどころか考えもしない早さである。──後に彼女はこう語る。「狩りは初速が大事ですのよ」と──  まずマーガレットは、リリアンヌの逆ハーレムに加わったリグの姿をブラウニー夫妻に見せつけた。息子の哀れな姿に、夫妻が表情を暗くさせる。もとよりリグに手を焼いていた彼等からしてみれば「とうとう息子が」というところだろうか。なにより危惧していたことだ。  そうして夫妻が養子縁組みを考え始めたのを見計らい、マーガレットはこう告げた。 「婿を取り、必ず立派な男児を産むとお約束いたします!」  と。それはなんとも無茶な話であったが、マーガレットは見事彼等の首を縦に振らせ、ブラウニー家の養女として迎え入れられた。  夫妻が彼女の野心を買ってくれたのだ。それをマーガレットはこれ以上ないほどに喜び、ブラウニー家はもちろん、自分の野心を咎めることなく送り出してくれたリアドラ家にも報いろうと、そう心に決めた。  そんなマーガレットの三度目の転機が……今この時、アルバート家で開かれたメアリの結婚披露パーティーである。  この度晴れて最愛の人と結ばれた彼女は幸せオーラを纏い、そして他の令嬢達を煽っていた。  自ら行動をしなくては最愛の人を横から奪われてしまう、そんな彼女の話にマーガレットは内心で大いに頷いていた。やはり行動あるのみである。  そうしてメアリの話を聞いた令嬢達が意中の王子様のもとへと向かっていく。  あいにくと特定の相手がいないマーガレットは周囲の動きを見届け、そしてメアリの背後に回るとその肩を優しく叩いた。メアリがビクリと肩を震わせる。 「メアリ様、私もちょっと行ってきます」 「どうしてかしら、貴女の『行ってきます』が『狩ってきます』にしか聞こえないの。というか、先陣きって行くかと思ってたわ」 「私、人の獲物はとらない主義なんです。他の方々の動きを見てからにしようと思いまして」 「良識のある狩人だわね。何か困ったことがあったら言いなさい、協力してあげる。私、実は貴女のガツガツしたところ嫌いじゃないの」 「お義姉様と呼んで頂いても構いませんが」 「恐ろしいこと言わないでちょうだい」  そうメアリに言われ、マーガレットはクスクスと笑いながら会場へと向かった。  令嬢達が意中の相手に声をかけている。とりわけパトリック・ダイスの人気といったらなく、複数の令嬢が焦がれるように彼を待っている。そんな視線の向かう先、パトリックに手を取られて踊るカリーナは普段の冷静な彼女らしくなく、うっとりと頰を染めているではないか。  そんな会場をマーガレットはゆっくりと見渡し、その壮観さに深く溜息をついた。  流石はアルバート家の屋敷である。どこもかしこも格調高く、それでいて成金めいた嫌らしさを感じさせないセンスの良さ。細部まで手が行き届き、仕える者達も疲労の色一つ見せず品よく客達をもてなしている。  何もかもが一級品。王家と並ぶ権威と、そして長く続く歴史と威厳をこの屋敷全てが物語っているのだ。  羨ましい……とマーガレットが窓からメアリを見つめた。パルフェットとなにやら話をする彼女は流石アルバート家令嬢といった美しさと佇まいである。彼女はこの屋敷の豪華さを当然として育ち、見惚れることなく日々扉をくぐっているのだ。  そんな光景を想像しつつ、やはりアルバート家の子息を……と考えたマーガレットが庭へと戻ろうとし、その途中でぼんやりと佇む少年を見つけて足を止めた。  マーガレットが彼を気にかけ、近付いて声をかけたのは全くの偶然である。彼を知っていたわけでもなければ、目が合ったわけでもない。もちろん呼ばれたわけでもない。  ただなぜかその少年が気になり、話しかけてみようと思ったのだ。そしてこれがマーガレットの運命を大きく変えるのだから、この偶然は彼女の野心が引き寄せたのかもしれない。 「せっかくのパーティーなのに、浮かない顔ね」  そう穏やかに声をかければ、少年がはたと我に返ったようにこちらを向いた。  柔らかな髪が揺れ、深い色合いの瞳がマーガレットをとらえる。幼いながらに精悍さを感じさせる美しい少年だ。だがその顔はどこか暗く、マーガレットが「どうなさったの?」と声をかけると視線から逃れるように俯いてしまった。  綺麗な顔が台無しだわ……と心の中で呟きつつ、少年を刺激しないようゆっくりとその隣に並ぶ。先程までの彼の視線を思い出して辿るように顔を上げれば、目の前にはアルバート家の屋敷が佇んでいた。  その豪華さたるや、格の違いを見せつけられているような錯覚にすら陥りかねない。だがそれと同時に、同じレベルに立ちたいと、この屋敷の扉を堂々とくぐり、そして同格の屋敷にメアリ・アルバートを招きたいと、そう思えてくるのだ。  我ながら呆れてしまうほどの野心ではないか。そう心の中で己を小さく笑えば、隣に立つ少年が「僕は……」と呟いた。  年の頃なら十か十一あたりだろうか。美しい外見と声変わり前のよく通る声が似合っており、芸術品を眺めているような気分にさせる。だがその表情はどことなく暗く、声色も落ち込んでいるように聞こえる。笑ってくれればさぞや美しいだろうに。 「どうなさったの?」 「こんな立派な家に堂々と通える人が羨ましいんです」 「あら、どうして?」 「僕、兄が二人いて……兄達はとても立派で常に堂々としていて、それなのに僕はこういった場でも緊張しちゃって、どう振る舞えばいいのか分からないんです」  情けないと俯く少年に、マーガレットが穏やかに微笑んだ。  なんて可愛らしいのだろう……と、胸に湧き上がる感情に思わず口角が上がる。だがそれと同時に「三男か」と冷静な考えも浮かぶあたり、流石はマーガレット・ブラウニーである。  ブラウニー家の名は伊達ではない。家柄的にも、名乗るまでの過程においても。 「本当は一番上の兄が家を継ぐはずだったんです。でも理由があって、今は二番目の兄が継ぐことになったんです。二人共大変そうだけど、自分の役割を全うしようとしている。そんな二人を見ていたら、僕は何もしないでいいのかなって……」 「お兄様にかわって家を継ぎたいの?」 「まさか、そんな」  マーガレットに問われ慌てたように首を横に振るあたり、少年に兄を蹴落とし跡継ぎになるような野心はないのだろう。優しい子なのね、そう感心してしまう。──仮にここにメアリがいれば「誰もがみんな貴女のような野心家じゃないのよ」と冷ややかに言っただろう──  だが、それでも彼は顔を上げ、深い色合いの瞳でアルバート家の屋敷を見上げた。風が彼の藍色の髪を揺らせば、愛らしさと精悍さを混ぜ合わせた少年特有の魅力を漂わせる。 「兄に取って代わろうとか、そんなことは思っていません。でも、それでも……僕も兄達のように何かを背負い、煌びやかなこの社交界で臆することなく堂々と胸を張っていたいんです」  そう言い切る少年の姿は幼いながらにも『男』を感じさせ、マーガレットが小さく息を吞んだ。少年のような愛らしさと、そして瞳に宿る強い意志、臆してしまうほどに熱い。  だが直ぐさま彼は表情を気弱なものへと変え、溜息と共に俯いてしまった。  純粋に兄達への憧れを募らせ、そして募らせるあまり幼い自分への憤りを感じているのだろうか。先程の一瞬だけ灯った炎は見逃してしまいそうなほど小さく、不安げに視線をそらす彼の藍色の瞳の中には既に面影は見られない。  だけどあの炎は確かに少年の瞳に宿った。だからこそマーガレットは、その炎が燃え続ける糧になりたいと、彼が何かを成し遂げ背負っていくのを支えたいと、そう心から思ったのだ。  だがそれと同時にマーガレットの中で制止がかかるのは、野心を買ってくれたブラウニー家と自分を送り出してくれたリアドラ家に報いると決めたからである。あまり低い家の息子を婿入りさせるのは両家に申し訳が立たない。  そんなことを考えるぐらいには、マーガレットは野心家でありながらも義理堅い女であった。両家のため、両家に恩を返すため、両家が納得するような婿を探すのが自分の責務だと考えていた。  望ましいのは、ブラウニー家と同格、もしくはそれより上の家系の息子。それこそが恩返しに、そして自分よりリリアンヌを選んだリグへのあてつけにもなる。  だがそんな男がそうそういるわけがなく、マーガレットが小さく溜息をついて目の前の少年を見つめた。  王子様が迎えに来てくれる、などという夢を見たことはない。  王子様がいさえしてくれれば、こちらから迎えに行くのに……。  そんなことを考え、マーガレットがふると首を横に振った。今は目の前の少年の悩みを聞いてあげなくては。自分の野心を否定する気はないが、それで他者の相談を蔑ろにするのをマーガレットは良しとしない。  だからこそ改めて少年に向き直り、彼の瞳をじっと見据えた。吸い込まれそうな藍色の瞳は悩みの色を映しつつ、言葉を待つようにマーガレットを見つめ返してくる。 「確かに貴方はお兄様方に比べたら未熟かもしれないわ」 「そうですよね……」 「でもね、それは貴方が幼いから。だから当然なのよ。むしろ貴方はその年の差を当然とせず『今のお兄様』を見上げている、だからその未熟さは素敵なことなのよ」 「素敵……?」  少年の瞳が丸くなる。まさか未熟さを素敵と褒められるとは思わなかったのだろう。  予想外だと言いたげなその表情は愛らしく、マーガレットがクスリと笑った。 「自分を未熟だと思い、お兄様達との差を見つめ続けている限り、それは貴方の伸びしろよ」 「伸びしろですか?」 「えぇ、変わらず理想を追いかけていけば、貴方は今よりもっと、今のお兄様達の年齢になる頃には比べられないほど素敵になれる。私が保証するわ」  だから自信を持ちなさい、と自分のことのように胸を張って宣言するマーガレットに、少年が圧倒されるように啞然とした表情を浮かべ……次の瞬間ポッと頰を赤くさせた。  その反応に、「あら可愛い」とマーガレットが口元を押さえた。彼の反応と表情はマーガレットへの特別な好意を分かりやすく訴えており、その胸に真っ直ぐに向かう感情がどうしようもなく愛らしいのだ。  それと同時に彼を支えたいと、時に力になり、時に見守り、誰より近くで彼の成長を見届けたいと思える。相手の家柄も知らずにこんなことを思うのは、マーガレットの人生では初めての事であった。  そうしてふとマーガレットは、この少年の家名はおろか名前すら聞いていないことを思い出し、チラと彼に視線を向けた。もしも彼がブラウニー家と並ぶような、負けず劣らずな家系であったとしたら、その時は私……と、そこまで思いを馳せ、さも「名前を呼びたいけれど分からない」と言いたげに口を開いた。  その仕草で少年は察してくれたようで、「申し訳ありません」と慌てて頭を下げる。名乗る前に己の話をしてしまった、それを失礼なことと考えたのだろう。そんな様子もまた愛らしくマーガレットが微笑んで返した。 「名乗らずに自分の話ばかりして申し訳ありませんでした。僕はバーナード、バーナード・ダイスといいます」 「バーナード……ダイス?」  聞き覚えのある家名に、マーガレットがオウム返しで尋ねた。  といっても聞き損ねたわけではない、彼の澄んだ声は心地好いほど