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作者:こる,朝日川日和
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-10-20(一迅社)
价格:¥540 原版
文库:一迅社文库Iris

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双剣の乙女 待ってて、わたしの旦那様! 目次 序 章 乙女の主張 第一章 夢への旅立ち 第二章 意地っ張りと意地悪 第三章 道を外れた者達 第四章 追う乙女 第五章 囚われる者 第六章 それぞれの道 終 章 初仕事 あとがき イラストレーション ◆ 朝日川日和 双剣の乙女 待ってて、わたしの旦那様! 序章 乙女の主張 「わたしは、可愛いお嫁さんになるのよっ! だから剣なんて必要ないわっ! こんなこと、もうやめるって言ってるでしょっ!」  そう言い切った途端、右上から剣先が狙って来るのを、わたしは右手に持った細身の長剣を肩にあてがうように立て、咄嗟に受け流した。  ガリガリと固い音と共に、わたしの剣を削るように滑る剣。  綺麗に流したと思ったのに、手がびりびりと痺れる。 「母さん、やめてよ! 当たったら怪我するじゃない! 自分の馬鹿力、自覚してよっ!」  素早く後ろへ飛ぶ。  紺色のスカートの裾がひらりと浮くけれど、下に細身のズボンを穿いているから気にせずに裾を捌き。実用性と可愛さを備えた、踵の低い編み上げのブーツでもう一度地面を蹴って更に間合いを取る。 「はいはい、可愛いウィルラちゃん。あたしに勝ったら、いくらでもこの手合わせをやめてあげるわよ」  大剣を片手でくるりと回して肩に担いだ母が、にっこり笑う。  ひっつめた髪の毛にふくよかな体型、その上腰に巻いている白いエプロンがとっても『おかあさん』らしいのに、それを裏切る俊敏さと腕力。  そして、手に持っているのはお料理をするための包丁ではなく、身の丈程の大剣。それを笑顔のまま片手で軽々と振り回す母は、普通人の倍の身体能力を誇る獣人と呼ばれる希少な人種なんだけれど。獣とは言っても、身体能力がずば抜けて高い以外は普通人と同じだから。ふくよかな母が俊敏に動くその姿は、子供が思わず目を擦って見直す程、非現実的な光景だ。 「勝ったらって言うけど。現役の冒険者を相手にどうやって勝てって言うのよ! この前の依頼で、銅から銀の徽章バッジにランクが上がったの、父さんに聞いたんだからねっ!」  ギルドにはランクに応じて徽章があり、銅から始まり、次に銀、そして一番上は金。そして実績に応じて彫金が少しずつ彫られてゆく。全て埋まると次のランクに行ける仕組みで、徽章自体は買い取り制でそれなりに値が張る。ランクが上がる時に徽章の下取りはされるけれど、結構な金額を支払わなければならない、腕だけじゃなく懐具合でも篩いに掛けられる。それ故にギルドに所属しているというのは、それだけで箔が付くらしい。 「おっほっほ! やっとよ! 要人警護なんて、なかなか彫金が増えない仕事が主体で、ここまで上げるのは楽じゃないんだから」  母は、弓使いの武人である父と一緒に、冒険者なんてことを生業にしている。  ギルドから斡旋される仕事には商隊なんかの護衛や、動植物の採取に、傭兵と類される仕事等と、多岐に渡る仕事がある。  うちの両親はその無害そうな外見から、要人警護の仕事を多く受けているらしいけれど。秘密厳守の仕事なので、どんな人達の護衛をしているのか、いまだに知らない。  そして、こうしてたまに仕事から帰ってくると、必ずやらされる手合わせ。母は親子の絆を確認する作業、なんて言っているけど。会話で十分でしょうがっ!  剣を合わせるわたし達を、村の大人達はいつものことかと気にも留めず。  娯楽に飢えている子供達や手の空いている若い男子は、とばっちりを食わないように遠巻きにしつつも、村の小高い丘の上で行われる恒例行事を見物しに来る。 「もうっ。いい加減にしてよっ!」  次々と放たれる母の剣を避けながら怒鳴っていると、大剣の先がわたしの髪の毛を掠めてゆき、はらりとわたしの目の前に髪の毛が舞い散った。 「ひゃあぁっ!」  腰まである甘栗色の髪は、毎朝丁寧に櫛で梳いて、大切に大切に伸ばしているのに! 「髪の毛は切らないで、って言ってるでしょぉっ!」 「髪の毛なんて、いくらでも伸びるでしょ。ほらほらほら。そんな細っこい長剣だけじゃ、あたしの剣は捌けないわよぉ? そろそろ、本気を出しなさいな」  余裕綽々の母が、お玉でも振るように重い剣を軽々と振るってわたしを追い詰め、わたしは必死に母の剣を逸らしたり受けたり防戦する。  母の剣の動きが少しずつ速くなり、どんどん追い込まれてゆく。 「もうっ! わかったわよっ!」  一本の剣だけで捌くのは諦めた。  大きく後方に下がって左手を前に出し、大剣を出現させる。右手に長剣、左手に大剣を持って母に対峙する。  この剣は武人であるわたしの一部だから、手に掛かる重さはない。その重さのない、二本の剣を両手に構え、キッと母を見据える。 「やっと、やる気になったわね」  両手に剣を持ったわたしを見て、母がにこにこしながら口を開く。 「そういえば、ウィルラ。母さん達が仕事に行ってる間、ちゃんと修行はしていたの?」 「勿論してたわよ。お嫁さん修業をね! ナーナ義姉さんに野ウサギのスープの作り方を伝授してもらったわ。父さんがウサギ捕まえてきたら、美味しいスープを作ってあげるわね」  胸を張って軽口を叩けば、母の笑顔に凄みが増した。――さ、流石は、銀の徽章の冒険者よね。悔しいけれど、殺気を向けられると体が勝手に逃げそうになるわ。  意地で作った笑顔のまま、奥歯を噛みしめて目を見返す。 「是非、作って欲しいものね。うふふふ、作るだけの力が残っていればの話だけれど」  そう言って繰り出された母の剣は、先刻よりも鋭さを増していた。わたしは会話する余裕もなく、必死になって両手に持った二本の剣で母の剣を捌く。  ガンッ! 「あっ!」  鈍い音と共に右手が痺れ、母に剣を弾かれたことを知る。  右手の中から長剣が消えたことに怯んだ瞬間、左側から聞こえてきた風を切る音に、咄嗟に左手に持った大剣を盾にしながら、反対側へと地面を蹴った――  見事に吹っ飛ばされて、仰向けに倒れたわたしに突きつけられていた母の剣先がゆっくりと引かれる。 「本当に、甘いわねぇ。折角二本も剣を出せるのに、使い方が勿体ないのよ。あんたの武器は長剣と大剣なんていう、釣り合いの悪さだけどね。重さがないんだから、いくらだってやりようがあるでしょう? 馬鹿正直に、剣を出してから挑みかかるなんて、本番でそんな甘いことしてたらやられるわよ? それに、ちゃんと素振りはしているようだけれど、あの程度で剣から手を離しちゃうなんて、握力が足りない証拠よ。いくら剣の重さはなくても、相手の剣の重さはかかるんだから、ちゃんと握り込む訓練もしなきゃ駄目よー」  地面の上に転がり、脇腹を抱えて痛みにのたうつわたしに、呆れ混じりの母の声が掛かる。 「ウィルラのスープ、今回は無理そうね。うふふふふ。ナーナちゃんに作ってもらおっ」  笑いながら背を向けた母を睨んだけれど。体格に見合わない軽やかな足取りは、止まることなく家へ向かって遠ざかっていく。 「うぅ……っ。く、や、し、いっ!」  さっきまで見物をしていた村の人達が、わたしの怪我を治すために祈り人を連れて来てくれるのを遠くに見ながら、痛む脇腹を我慢して草原の上を転がって俯せになる。 「戦うのなんてもう、うんざりっ! わたしの夢は、お嫁さんになることなんだからっ! もう手合わせなんかするもんかーっ!」  悔しさを地面に向けて吐き出し、目の前に生えている草をブチブチと引きちぎった。 第一章 夢への旅立ち  今朝方、両親がまた仕事で家を出た。昨日帰ってきたのも、ギルドの依頼のついでにちょっと村に寄っただけみたい。  冒険者である両親は、仕事の内容を一切漏らさないから、いまどこに居るのか次にどこに行くのかわからない。どうしてもって時は、ギルドを通して連絡は取れるけれど。結構なお金を取られるので、日常的に使うことはできない。  昔はそれが寂しくて、悲しくて。仕事から両親が帰ってきた時には、まるで居ない間の寂しさを埋めるようにまとわりついていた。一緒に居てくれる時間が……それが剣の稽古だったとしても、凄く嬉しくて。両親の喜ぶ顔見たさに、「おとうさんとおかあさんみたいなぼうけんしゃになるのー」なんて無邪気に宣言していたけれど。  それはもう、幼いころの話なのよ。  いまの目標は「堅実な男性と、幸せな家庭を作ること」よ。それを最終目標に「可愛いお嫁さん計画」だって、進めてるんだから。  ナーナ義姉さんのお使いで、夕飯に使うミルクをもらいに、ミルクと交換してもらうための一塊の鹿肉を持って、幼馴染みであるターグの家に向かった。 「こんにちわー、おばちゃーん、ミルクもらいに来たんだけどあるー?」  少し遠くで牛の餌を運んでいたおばちゃんに、大きな声を掛ける。 「あら、ウィルラちゃん。ミルクなら売る程あるわよー、あっはっは」  明るいおばちゃんの声が返ってくる。  村一番の牛飼いで、村中のミルクを一手に引き受けているおばちゃんの定番の返しに、一緒に笑い声を上げてから、今日はいつもの量じゃなかったんだと、慌てて付け足す。 「そうだ! 今日はミルクのスープ作るから、いつもより多目に欲しいのー」  まだ遠くに居るおばちゃんにそうお願いすると、わたしよりも大きな声が返ってくる。 「はいよー。ターグ! ウィルラちゃんにミルク分けてあげてー。いつもより多くねー」  おばちゃんの大きな声に、牛小屋の中からターグの、「あー」だか「うー」という曖昧な声が返ってくる。 「おばちゃん、はいこれ。この前仕留めた鹿肉よ、食べ頃だから早めに食べてね」  近くに来たおばちゃんに、持ってきたお肉の塊を渡すと笑顔になった。 「あらあら、こんなにありがとうね。そうそう、ウィルラちゃんはもう会ったかい? 今日村に泊まる冒険者。まだなら、見てみなさいよ。名うてのギルド冒険者らしいわよ?」  そう言って意味ありげに片目を瞑って見せたおばちゃんが、お肉を持って家に向かう背中を内心首を捻りながら見送る。  名うての冒険者が、一見の価値ありなのかしら? でも、いいことを聞いたわ。ギルドに登録している、真っ当な冒険者がこの村に泊まるなんて年に一回、あるかないかだもの。  いまこそ計画を実行する時よね! でも……。一抹の不安が胸に湧き、迷いが生まれる。  大好きなこの村、この景色、できればずっとここに居たいけれど……。  柵に凭れ、中に放されている牛達をぼんやりと眺めていると、草原を流れてきた風がスカートを巻き上げふわりと大きく舞い上がり、慌てて裾を押さえた。  どうせ誰にも見られていないだろうと思いながら顔を上げれば、ミルク缶を持ってこっちに歩いて来るターグと目が合う。  い、いま、スカートの下、み、見られっ。  かぁっと顔が熱くなるわたしを、近づいてきたターグが片頬を上げて笑う。 「はんっ、なに照れてんだよ。誰も、お前のパンツなんか見ねぇって。ほら、持って来てやったぞ。ちょっと重いけど、まぁお前なら大丈夫だろ」  そう言って、左右に持ち手が付いた缶を渡してくる。  口を尖らせながら、ずっしりとくるそれを両腕で抱えて受け取る。 「わたしなら大丈夫って、どういうことよ!」 「だって、ウィルラじゃねぇか。ナーナさんや、カバックの姉ちゃんあたりなら、運んでやるけど。お前はなぁ」  意地悪な顔で笑ってそう言う彼の足を、思い切り踏みつけようとしたけれど。ひらりと逃げられてしまった。  すばしっこさだけは一人前よねっ。 「怖ぇ、怖ぇ。そうだ、昨日のお袋さんとの手合わせも凄かったな。あの剣の流し方とか、絶対下手な冒険者よりうまいよ。お前本当に年々腕上げてくよなあ、いつかは冒険者になるんだろう? お前の夢だったもんなぁ。武人だし、簡単に銀に行けるんじゃねぇの?」  気軽にそんなことを言う彼に、胸の奥から溢れる怒り。 「冒険者になんてならないわよっ! いっつも言ってるでしょ。武人っていうのは、剣が出せるだけで、それ以外は、普通人となにも違わないって!」  何度も口を酸っぱくして言っているのに。彼は今日も、鼻で笑って取り合わない。 「冒険者を目指さねぇって。お前、そりゃ宝の持ち腐れって奴だぞ? それに、冒険者やってるおばさんとあれだけやり合えて、普通人と一緒なんて、そんなわけねぇだろう」 「一緒なのよ! 母さんに無理矢理練習させられて、ちょっとうまくなっただけだもの!」 「あはははっ、おばさん、お前に期待しまくりだからなぁ」  必死に言い募っているのに、笑って返されて。泣きそうな気分で、唇を噛みしめる。  どうしてみんな、わたしの剣ばかりを見るの? どうしてわたしを見てくれないのよ。 「なぁ、今度久しぶりに手合わせしてくれよ。これでも、毎日訓練はしてるんだぜ? あ、剣は一本で頼むぜ、流石に二本剣なんて無理だからよ。あっ、おい? ウィルラ?」 「…………」  わたしが唇を噛んで泣きたいのを我慢しているのに気付かず、好き勝手に言っているターグに背を向けて、――わたしは決心を固めた。 ◆・◇・◆・◇・◆  家に一度戻って重いミルク缶を置いてから、村で宿屋の代わりとなっている集会所へと走った。ターグのおばさんが言っていた冒険者が泊まるなら、場所はここしかない。  集会所のドアの前で立ち止まり、手早く身嗜みと息を整える。  どんな人達なんだろう? 名うてと言うぐらいだから、銅ではないわよね。じゃぁ最低でも銀の徽章バッジ、もしかしたら金の徽章の冒険者かも知れない。だとすれば、父さん達と同じぐらいの年齢かしら? きっと筋肉が凄くて、熊のような大男よね。  怯んだりびっくりしたりしたら失礼だもの、どんな大男が出てきても、動揺しないようにしなきゃ。そして、なんとしても、私の依頼を受けてもらうのよ!  一つ深呼吸してから、覚悟を決めてドアをノックする。 「どなたですか?」  ドアの向こう側から聞こえた声に戸惑う。思ったよりもずっと若いその声に、急に緊張してきた胸を押さえ、声を返す。 「突然、申し訳ありません。お願いがあって参りました」  大きめの声をドアに掛ければ。部屋の中でなにかやり取りがあったあと、ゆっくりとドアが開けられた。  そしてわたしはドアから現れた人物に、息をするのも忘れた。  わたしよりも頭一つ分くらい高い長身。暗色の動きやすそうな細身の旅服にきっちりと身を包んだ体躯は太くも細くもなく、体に一本芯が通っているように真っ直ぐ美しい立ち姿。  そして顔は、切れ長の目に墨を刷いたような眉、すっきりと高い鼻梁に、少し情の薄そうな唇は少しだけ口角が上がり笑みを作っている、シミもホクロの一つもない顔。硬そうな黒髪は短く刈り込まれていて、その髪型が男らし過ぎて勿体なく感じる。  ――こんな綺麗な男の人……はじめて見た。  意識した途端、胸がドキドキと強く脈打つ。  目の前に立つ彼を見上げたまま、すっかり固まってしまったわたしを見下ろす彼の眉間に軽くしわが寄ったが、それは一瞬で消えた。 「どうしました? なにか、用があるのではなかったのですか? お嬢さん」  仄かに笑みを浮かべ、丁寧な口調でそう聞かれて、ハッと我に返った。 「は、はいっ。え、ええと、あのっ」  彼の顔に見惚れて、なにを言うつもりだったのか飛んでしまい、しどろもどろに口を開いた時。彼の後ろからのっそりと、これぞ冒険者という体格の男の人が出てきた。  一部だけ明るく染めた濃い茶色の髪が特徴的な、男らしく凜々しい顔立ちの偉丈夫で。上着を脱いで、薄着になったシャツの筋肉が盛り上がっていて、とっても雄々しい。  そうよ、冒険者といえば、こうでなくっちゃ!  態度や風体からして顔の綺麗な彼よりも年上で、多分この人が話を決める人だと直感して彼に向き合う。 「嬢ちゃん、なんか用かい」  外見に反して穏やかな口調で声を掛けてくれた彼に、浮ついてしまった心持ちを気取られないように表情を改めて口を開く。 「はい。お願いがあって参りました。どうか、わたしをお二人の旅に同行させてくださいっ。お願いします!」  一息にそう言って、二人に向かって頭を下げる。 「同行? ――随分と不躾な願いを出してきましたね」  さっきまでは笑顔だった綺麗な顔の彼が発した冷たい声に戸惑う。わたし、なにか怒らせること言ったかしら? でも、ここで引くわけにはいかないのよ。 「あなた達が、ギルド登録の冒険者だと見込んでのお願い――いえ、依頼をさせてください。どうか、大きな町まで、あなた達の移動にわたしも一緒に連れて行ってください。ちゃんと報酬はお支払いしますからっ」  言い切って、もう一度頭を下げたわたしに、沈黙が落ちる。  あの綺麗な顔に面食らったのは失敗だった、きっとあれが不審を招いたのよ。どうしてあんなに動揺しちゃったのかしら。引き受けてもらえなかったらどうしよう……。  いいえ! 弱気になってどうするの。村を出て、お嫁さんになるという夢を、なんとしてもこの手に掴み取るのよ!  そのためには、なんとしても二人に了承してもらわなくては!  頭を下げたまま、体の前で決意を込めて握りしめた手が、緊張で冷たくなる。  どきどきと張り詰めた時間を破ったのは、ドアに背を凭れた格好で聞いてくる大柄な男性の声だった。 「まぁ、頭を上げな。それで具体的には、大きな町というのはどこだ?」  彼の言葉に、まだ駄目になったワケじゃないことを感じ、ホッとして頭を上げた。  その瞬間刺さってきた、お綺麗な彼の鋭い視線に一瞬気圧されたけれど、すぐに気を取り直した。  ここが、勝負よっ。 「あなた達の仕事の邪魔をするつもりも、目的地を詮索したりもいたしません。お二人が移動する途中にある、大きな町でいいんです。人がたくさん居る町まで、一緒に連れて行っていただきたいんです」  本音を言えば、いっそのこと王都まで行きたいんだけれど。彼等の目的地と違う場合、拒絶される可能性が高いと思ってそう願い出れば、お綺麗な顔に鼻で笑われた。 「曖昧ですね。なんという町まで行くつもりなのですか? それとも、それは口実で、我々と行動を共にしたいというだけではないのですか」  綺麗な顔の彼が詰問口調で聞いてきた内容を、内心ムッとしながら否定する。 「グラン兄さ……いえ、兄が納得してくれれば、本当は一人で行ったっていいんですけど、一人旅は兄が許してくれません。だけど、ギルド冒険者であるお二人となら……ですから、どうか一緒に行かせてくださいっ」  内情を訴えて、なんとか首を縦に振ってもらえるようにお願いする。 「兄か。まあ、女の一人旅を許すような身内は、普通居ないな」  大柄な偉丈夫が、目を細め納得するように頷いてくれたことに勇気づけられる。 「ギルドに登録されている冒険者のお二人に受けていただければ、兄を説得できます。お願いです、わたし、この村から出たいんです。本当は王都を目指したいんですけれど。そちらに向かわないのでしたら、どの町でも、お二人が通りかかる場所でかまわないんです。報酬もお支払いしますから、同行させてくださいっ」  必死に言い募るわたしの前で、彼らは互いに顔を見合わせ、大柄な男性が口を開いた。 「そこまでして、村を出たいってのは。なにか理由でもあるのか?」  優しい口調で聞いてくれる彼に、ホッとしつつ力強く答える。 「わたし、どうしても、村の外で結婚相手を見つけたいんです」  そう言い切ったわたしに、二人は一瞬黙り込む。 「村の外で結婚相手、ねぇ」  大柄な彼が首を傾げるのは当然で、普通は生まれた村の中で結婚するものなんだもの。  村以外だとしても、せいぜい遠くて隣の村や町の人が相手。結婚相手を探しに旅に出るなんていうのも、女の人だと珍しい。  だから、わたしは彼等を説得するために、言葉を重ねる。 「わたしは、理想が高いんです。だから、なるべく人が大勢居る大きな町で、理想に合う素敵な男性を自分の足で探したいんですっ」  自分が武人であることは隠して、そう熱く語ると、大柄な彼が笑い出した。 「ぶあっはっは。そうか、理想が高いのか。ほら、ここにこんなのも居るが、どうだ?」  そう言って彼が隣の彼を指させば、彼はなにか言いたそうに綺麗な顔を歪めた。  からかうように言われたその言葉を不快に感じながらも、正直に答える。 「ごめんなさい、冒険者の方は駄目です。わたしの理想に、敵わないので」  わたしが即座に断れば、大柄な彼は更に楽しそうになる。 「へぇ! これだけいい顔なんざ、王都でもそうは居ないんだぞ? それでも駄目か?」  ちゃんと断ったのに、隣で綺麗な顔を憮然とさせている彼を更に売り込んでくる思惑はわからないけれど、もう一度きっぱりと断る。 「駄目です。だって、冒険者をしていたら、なかなか家に帰ってこないでしょう? そんなの寂しいもの。わたしの理想は、ちゃんと毎日家に帰ってきて、一緒に居てくれる人なんです。だから、冒険者は、絶対に駄目です」  当の冒険者相手に言い過ぎかなと思ったけれど、彼は怒ることなく頷いてくれた。 「そうか、そうか。まぁ、理由はわかった。だが、俺達を雇うのは安くはねぇぞ?」  そう言って、にやりと笑った彼に、ゴクリと唾を飲み込む。 「お……おいくらですか?」 「そうだなぁ、俺達がギルド経由で護衛の依頼を受けるなら、最低でも一日につき銀貨二十ってところだ。勿論、宿代なんかの経費は別だ」  貯めた金額を思い出しながらおずおずと聞けば、途方もない金額を言われて、一瞬だけ怖じ気づいた。一日で銀貨二十ってどんなぼったくりよ! 思わず怒りそうになったけれど。ダメダメ落ち着いて! この機会を逃したら、どんどんお嫁さんになる夢が遠くなる! 「そこをなんとか! 全部込みで金貨一枚! お願いします!」  両手をきつく握りしめ、わたしは必死で値切る。 「しかし、こっちも仕事だしな。――なぁ? どうする、アンフィル」  渋る大柄な彼が、組んでいた腕を指でトントンと叩きながら、もう一人の彼に声を掛ける。  アンフィルと呼ばれた綺麗な男の人は、彼を見てほんのわずかに顔を顰めてから。小さくため息を一つ吐き、険しい顔をわたしに向けた。 「条件を決めればいいでしょう。自分の荷は自分で持つこと、こちらの日程にあわせて歩くこと。あとは、そうですね。目的地に着くまでは、男に色目を使わないこと。こんなところでどうですか、ボルッツ」  わたしのことをよく思ってなさそうだった彼から出た、助け船のような発言に驚いて、彼を凝視すれば、ちらりとわたしを見た彼が視線を逸らした。  彼に話を振られたボルッツさんは、厳つい顎を撫でながら頷いた。 「そうだなぁ。まぁ、それだけの条件が呑めるなら、いいだろう」 「大丈夫ですっ! 荷物と、そちらの日程で歩くのと、色目を使わないこと、それだけでいいんですよねっ」  勢い込んで確認すれば、アンフィルさんが小馬鹿にした様子で小さく鼻を鳴らした。 「もし、どれか条件を破れば、その時点で契約を終了とします。一番近くの集落にあなたを置いて行きますからそのつもりで」  たった三つの約束を守るだけだもの、簡単よ! 「はいっ、わかりましたっ。あ、申し遅れましたが、わたし、ウィルラと申します。どうぞよろしくお願い致します」  深々と頭を下げてから、ハッと気付いて勢いよく下げていた頭を上げる。 「ところで、出発はいつになりますか? あのっ、早くても大丈夫です、もう荷造りはしてありますからっ」  嬉しくて急かすようにそう言えば、二人から呆れるような視線が落ちてきて、自分が浮かれていたのに気付き、思わず顔が熱くなる。  そんなわたしを見てボルッツさんは軽く吹き出し、アンフィルさんが軽く咳払いして答えてくれた。 「明日の朝、朝食を食べてから