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作者:楠瀬蘭,すがはら竜
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-10-21(讲谈社)
价格:¥324 原版
文库:讲谈社X文库White Heart

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鬼憑き姫あやかし奇譚 ~式神の恋、陰陽師の求婚~ ご利用になるブラウザまたはビューワにより、表示が異なることがあります。 電子書籍オリジナル 鬼憑き姫あやかし奇譚 ~式神の恋、陰陽師の求婚~ 楠瀬 蘭 鬼憑き姫あやかし奇譚 ~式神の恋・陰陽師の求婚~ 一  卯月の終わり、桜が散った頃、柊は父に呼び出された。  場所は父の部屋ではなく、お客様を迎える寝殿だ。女房伝いに、簾中に控えているよう告げられたが、父は姿を見せない。  御簾から出るなと言われたことで、客人が来ると予測できるが、なぜ柊が呼ばれたのだろう。あまりに唐突で、不安になった。  まさか、婿の候補と引き合わされるのだろうか。  柊も今年で十六。裳着は済んでいるし、結婚していてもおかしくない歳だ。 (でも、私が好きなのは忠晃様なのに……)  賀茂忠晃。  柊が幼い頃から世話になっていた賀茂光栄の三男で、少し前、賀茂家に身を寄せた折には、世話役になってくれた人だ。口は悪いし、厳しいし、初めは接しづらい印象だったが、最後まで柊を見捨てず、己の身の危険も顧みずに守ってくれた。 「柊様」  忠晃との出会いを思い返していると、女房が側についた。夕星という名の女房は、仕えて長い。 「柊様、あまり緊張なさいませんよう」 「……どなたがいらっしゃるの?」  おそるおそる夕星に訊く。 「中納言、藤原隆家様です」  藤原隆家といえば、よく父が口に上らせる名前だ。確か、お亡くなりになった定子皇后の弟君ではなかったか。十年ほど前に左遷されたが、その後、都に戻ったとか。  宮中の政など知りもしないが、重要な人物であるとは聞いていた。 「でも、なぜ私まで?」 「柊様も、ご挨拶をしていただきたいとのことでございます」  困った。本当に婿がねとして紹介されるのかもしれない。  どうしよう。柊は忠晃が好きで、他の人との結婚など考えられない。  しかし、当の忠晃からは、文の一通も送られていなかった。  本人の口から、柊が好きだと聞いたはずなのに。  やはり愛されてはいないのか。それとも、心変わりをしてしまったのだろうか。  不安に陥った心が、さらに沈んだ。  柊が出口の見えない自問自答に囚われていると、父である中納言と、弟の南天が連れ立って部屋にやって来た。  二人は御簾の外、用意された座具に腰を下ろす。それから間を置かず、車口のほうから声が聞こえてきた。 「藤原隆家様がいらっしゃいました」  家人が一息に告げる。父は鷹揚にうなずいた。  柊はじっとりと汗ばむ手の平を膝の上に置いて、袴を握った。やはり人と会うのは緊張する。もともと人見知りなのだ。  簾中にいるのをいいことに、胸に手を当てて深く息を吸った。 「二条殿」  自信に満ちた声が聞こえて、柊は顔を上げた。  御簾越しに藤原隆家の姿を見つめ、何やら様子がおかしいと眉を寄せる。  黒い靄が隆家を取り巻いているのだ。靄は墨の濃淡が混ざるような色合いで流動し、形を変える。  柊は、人には視えない、あやかしや物の怪を視ることができる。  この靄もそういった類だと思うが、何だろうか。  幽鬼とは違うようだが、一見しただけでは正体まではわからない。それほど強いものではなさそうだが、放っておいてよいとも思えない。  隆家自身には視えていないようで、大股に歩く様は豪胆で、堂々としていた。 「おお、隆家殿。ささ、こちらへどうぞ」  座具を示して上機嫌で招く父を見やってから、隆家に視線を戻す。  どう伝えるべきか。以前、左近衛少将に女の幽鬼が視えると告げた時には、たいそう怒らせてしまった。隆家にはどう言うのが一番だろうと考えていると、隆家に続いて入って来た人がいた。  きびきびとした所作。自然体でぴんと伸びた背中に、整った顔立ちと、いっそ冷たくも見える眼差し。見慣れた狩衣姿に、柊は驚いて声を上げる。 「えっ!?」 「柊様?」  慌てる夕星にしまったと思い、咳をして誤魔化した。 「姫君? 幼い頃にお会いして以来だが、息災のご様子だな」  誤魔化しきれなかったようだが、隆家は柊の無作法を咎めず、笑ってくれた。女房伝いに挨拶をするが、頭は別のことでいっぱいだ。  もう一度、御簾越しにその姿を確かめる。間違いなく、彼だった。  ──どうして忠晃様がいるの。  柊が文を待ち望んで、ずっと会いたかった人。何度も思い返した姿がそこにある。  でも、喜んでばかりはいられなかった。  忠晃にも、隆家と同じ靄が視える。しかも、忠晃にまとわりついているほうが濃く、恐ろしく感じられた。  何があったの。  ときめいた胸が、焦燥に早鐘を打つ。  隆家ほどの公卿と共に中納言家を訪ねたというのに、着ているのが狩衣というのも、柊を不安にさせた。私事で、こちらが賀茂家を頼る場合ならともかく、彼は今、隆家に伴われているのだ。  何か、よほど急いた事態なのではないだろうか。 「忠晃殿も、久方ぶりじゃな。娘が世話になった」 「は。その節は、二条中納言様にもお骨折りいただきまして」  忠晃は相変わらず冷たく見える表情で、涼しげに頭を下げた。  黒い靄に、気付いているのかいないのか。彼の姿が記憶にあるそのままで、余計に恐ろしくなった。 「──そうか。二条殿は、賀茂光栄を頼っておいでだったな。こちらの陰陽師のこともご存じか」 「そうです。もう何年世話になっているか……」  はっとする。御簾の向こうでは話が進んでいたようだ。隆家の豪快な笑い声が響く。 「謹慎を申しつけられた男を連れて来るので、厭われるかと案じておったが。ははは、杞憂でありましたな」  嬲るような物言いに、ひやりとする。  忠晃が謹慎処分を受けたのは、柊を守ってのことだ。