后退 返回首页
作者:ぷにちゃん,成瀬あけの
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-10-15(Enterbrain)
价格:¥600 原版
文库:Bs-Log文库

代购:lumagic.taobao.com
悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される 悪役令嬢は隣国の王太子に溺愛される ぷにちゃん 電子版 ビーズログ文庫 本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信したり、ホームページ上に転載したりすることを禁止します。また、 本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。  目次 序章 秘めた想い 第一章 前世の記憶と乙女ゲーム 第二章 続編の王子様 第三章 それぞれの思惑 第四章 蜜より甘いプロポーズ 第五章 聖なる祈り 終章 ハッピーエンドの悪役令嬢 あとがき 番外編 スイーツよりも甘い王太子 プロフィール  ……小さな体と、小刻みに震える肩。  ふわりと後ろへ靡く花のようなハニーピンクの髪は、彼女の存在を主張する。水色の瞳は儚げに揺れて、庇護欲を搔き立てた。  今日は、王立ラピスラズリ学園の卒業パーティー。  卒業生を祝福し、幸せな未来を願いながら送り出すこの良き日。しかし、それとは正反対の出来事がアクアスティードの眼前で繰り広げられようとしていた。  渦中で追いつめられている彼女本人が、本来の意味を知る催し。  ──悪役令嬢の、断罪イベント。  王立ラピスラズリ学園。  ここは十二歳から十六歳の王族、貴族、魔力を持った一部の平民が通う学び場だ。  暖色の落ち着いた色合いの校舎は、ステンドグラスの窓が大きく正面に設置されている。  陽の光に反射しながらきらきら輝くその様は、生徒の気持ちを高揚させる。  学業と社交を学び、卒業後は一年間、それぞれが進む道の見習いとなる。騎士になる者、侍女になる者、それぞれが先輩に教えを請い一人前に成長していく。  嫁ぐことが決まっている令嬢は、婚家へ通い花嫁修業をする。  しかし今、その伝統ある学び舎の卒業パーティーは、アクアスティードをひどく不快な気分にさせた。  この国の第一王子ハルトナイツと、彼を慕っているアカリという生徒が、一人の少女に罰を与えようとしているのだ。  ハニーピンクの可愛らしい花の名前は、ティアラローズ。侯爵家の令嬢であり、罰しようとしているハルトナイツ本人の婚約者でもある。  彼女は今、ハルトナイツが大切にしている女性をいじめたとして、断罪されようとしているのだ。  そんなことはありえないと、パーティー会場にいる誰もが思ったであろう。しかし、ハルトナイツはこの国の王太子でもある。口を挟める者は、そういない。  ましてや、この場には国王が来賓として来ているのだ。その判断がないままに、誰も動こうとはしないだろう。  しかし、その中で唯一動きを見せたのがアクアスティードだ。  アクアスティード・マリンフォレスト。  大国である隣国マリンフォレストの王太子であり、国民からの支持も厚い。もちろん数多くの令嬢からも慕われており、こっそりとファンクラブが出来ているほど。  この学園には一年間の留学として来ているため、本日の主役の一人でもある。  目の前で繰り広げられているいざこざは正直に不快であるが、アクアスティードにとってはまたとない好機でもあった。どうしようかと思考を巡らせ、すぐに結論付ける。  静かに移動し、来賓として卒業パーティーに参加している国王の下へと足を運ぶ。  この催しを自分に任せて欲しいと、進言するために──。  会場の一番奥、上座に国王は座っていた。豪華な椅子には金細工が施されており、国王の着ている漆黒の礼服を際立たせる。  まさかこのようなことを、自分の息子がしでかすとは思ってもいなかったのだろう。今にも怒鳴りそうな形相で、ハルトナイツを睨んでいる。  しかし、国王はすぐにアクアスティードの存在に気付く。真っ先に口から出たのは、パーティーに似合わない催しへの謝罪。 「アクアスティード王子か、すまないな。祝いの席だというのに、愚息が迷惑をかけてしまっているようだ」 「いいえ。むしろ、私にとっては僥倖です」 「……?」  にこりと微笑んで見せたアクアスティードに、国王は訝しそうな視線を向ける。しかし、アクアスティードはそれを気にかけることもなく続ける。 「ティアラローズ嬢へ、この場で求婚することをお許しいただきたい」 「アクアスティード王子!? 何を言っているか、理解しているのか?」  あまりにも唐突な告白に、国王は目を見開いた。他国の王太子であるアクアスティードが、自国の王太子の婚約者に求婚するなど前代未聞だ。  しかし、自分の息子でもあるハルトナイツが婚約者を断罪しようとしていることも事実である。  彼女は礼儀に厳しく、そして誰にも平等で優しい令嬢だ。誰が見ても、非はハルトナイツにあるのは一目瞭然。  それを理解しているがために、国王もアクアスティードを強く制止することが出来ない。  国王が口を噤んでいると、代わりにといわんばかりに横にいた人物から言葉が発せられる。 「私が許可をしよう」 「お前、何を勝手に!」 「何を仰しゃいますか、陛下。ティアラは私の娘ですから、父親である私が許可を出すのに問題などありません」  宰相として、国王の隣にいた男性が口を開く。その言葉通り、彼はクラメンティール侯爵であり、ティアラローズの実父だ。  主従関係である二人だが、幼い頃から行動を共にし、この国を盛り上げてきた立役者である。そのため、自身の意見を述べることに遠慮というものがない。  厳しい口調で言うクラメンティール侯爵は、重度の親バカであった。先ほどから繰り広げられている断罪のやりとりを、心の底から怒りをもって見ているのだ。  だからこそ、アクアスティードの求婚をしたいという申し出に対してすぐ許可をした。早くあの場から、断罪されようとしている娘を助けてきてくれと。 「お許しいただき、ありがとうございます。彼女からいい返事をもらえた暁には、改めてご挨拶に伺います」 「マリンフォレストの王太子であるアクアスティード殿下にそう言っていただけるとは、娘もきっと喜ぶでしょう。ただ──私は娘の望まない結婚には了承出来かねますが」 「わかりました、覚えておきましょう」  侯爵はアクアスティードに感謝の言葉を伝えるが、それと同時に嫁がせるわけではないと釘をさす。  しかし、彼にとってはそれだけで十分。彼女を蔑ろにするハルトナイツの下に、これ以上ティアラローズをいさせたくはなかった。  国王と侯爵に、「では、この場は私が預からせていただきます」と告げて──アクアスティードは会場の中央へと歩みを進めていく。  思い返すのは、彼と彼女の出会い。  しん、と。静かな図書館に、くすりと笑う低い声が響く。  数多の蔵書を収めるこの場所には、知識を得るために貴族たちが多く通っている。天井まで届く機能的な本棚に、内容ごとに分類された書籍。  天井からは珊瑚を加工したシャンデリアが淡く室内を照らし、読書の手助けをする。 「アクアスティード様、また見てるんですか?」 「……ああ。くるくる表情が変わるから、見ていて飽きない」  あきれたような声をかけられた男は、マリンフォレストの王太子。  声をかけた男は、アクアスティードがもっとも信頼している側近のエリオット。  図書館の一番奥の席が、彼らの特等席だ。一年間の留学中という彼は、様々な知識を得るために図書館へと毎日のように通っている。  しかしいつしか、その目的は本を読むことではなく、図書館の窓からそっと見ることの出来る綺麗な花のためになっていた。  アクアスティードの視線の先にあるのは、綺麗なハニーピンクの花。  可愛らしく表情を変えて、それは楽しそうに本を読んでいる。大きな木に背中を預け、紅茶とお菓子を楽しみながら読書をする。  貴族の令嬢であれば、本を借りて自分の屋敷で読むのが通常だろう。けれど彼女はそれをよしとせず、図書館の裏庭でゆっくりと過ごしているのだ。  まさか隣国の王太子に観察されているとは、露ほどにも思っていない。  アクアスティードが見ているハニーピンクの花は、このラピスラズリ王国の令嬢だ。そして──王太子であるハルトナイツの婚約者でもある。  叶わぬ恋だということは、一番にアクアスティードがわかっている。夜会に行けば直接言葉を交わし、ダンスをすることも出来るだろう。  しかし、そんなことをしてしまえば離したくなくなってしまう。この腕の中に閉じ込めてしまえたのならば、どんなにいいか。  そんな想いを胸に抱えながら、今日も楽しそうに本を読む令嬢へと視線を向ける。  本当は話しかけたい。隣で本を読みたい。一緒にお菓子を食べたい。しかし、アクアスティードはどれも実行しようとはしない。  ──淡い初恋は叶わぬものだと、昔から決まっている。  しかしその想いは、打ち破られようと動きだす。  しんと、静まり返った会場に、低く甘い──アクアスティードの声が響く。  断罪されようとされている、彼女のために。 「そこまでですよ、ハルトナイツ王子。彼女よりも、貴方の言葉の方がよほど酷いではありませんか。──ねぇ、ティアラローズ嬢?」  ──現在は午後の授業中ではあったのだが、生徒の一人である少女が音を鳴らして立ち上がった。  カタンと軽い音がしたのは、上等な細工で作られた椅子。柔らかい羽を詰められたクッションは、そのはずみで床へと落下する。  大きな窓から見える太陽は沈みかけ、辺りをオレンジ色へと染めていく。広い造りの教室に在籍する生徒は、王族と貴族が合わせて三十人。  突然の出来事に、授業を受けていた生徒の視線が一斉に彼女へと集まった。  彼女はティアラローズ・ラピス・クラメンティール。この国の侯爵家の令嬢であり、王太子の婚約者でもある。  ティアラローズは無言のまま息を荒くし、苦しそうに顔を歪めた。淑女としていかなる時も優雅であれ、という教えを実行出来ないほどの衝撃が、彼女を襲っているのだ。 「……うぅっ」  苦しそうな様子を見て、同じクラスに在籍している婚約者のハルトナイツが戸惑いの声をあげる。しかしそれよりも早く行動に移したのは、教室の奥に席を取っていたアクアスティードだった。  ティアラローズの体が、その場でふらりと揺れる。倒れそうなほどの眩暈を必死に抑え、気を強く持たなければと自分に言い聞かせる。  しかし、彼女のそんな努力を神は嘲笑う。ハニーピンクのふわりとした髪が舞い、綺麗な瞳はきつく閉じられてしまった。  すぐさまあがった悲鳴は、どの令嬢のものだったろうか。  けれど、ティアラローズの体が床に崩れ落ちることはなかった。駆けつけたアクアスティードによって、抱きとめられたからだ。  その大きな手はティアラローズを優しく支え、大切な宝石を扱うように、彼女を横抱きにする。  心配する声に、苦しむ彼女は返事が出来ない。抱きとめられたことも、気付かない。  それでも、かすかな意識は言葉を紡がせる。 「やだ……。わたくし、悪役……っ」  誰にもわからない呟きを残して、ティアラローズは意識を手放した──……。 『やった、新しいスチルだ! これでハルトナイツのルートは完全攻略!!』  うきうきした声で、少女が乙女ゲームをしている光景がティアラローズの脳内に浮かんだ。  何事かと思ったが、そのゲームの舞台はここ、ラピスラズリ王国だった。  思わず「え?」と、彼女は声をあげる。しかし、その疑問は一瞬にして解かれる。なぜなら、ティアラローズの脳内に大量の情報が入ってきたからだ。  ──これは、私の前世の記憶だ。  人気だった乙女ゲーム、『ラピスラズリの指輪』の世界に転生したということを瞬時に理解した。  ティアラローズという人間は、ゲームのキャラクターなのだ。  まさかと、この短い間に何度もそう思ったけれど──どう考えてもこの世界はゲーム『ラピスラズリの指輪』だった。  中世を思わせる、魔法ありの大人気ファンタジー乙女ゲーム。とても綺麗なイラストが話題になり、発売前から予約が殺到したのだ。  彼女も、そんなファンの一人。発売日にしっかりと手に入れ、夢中でプレイをした記憶が蘇った。  大好きな乙女ゲームのキャラクターになれたのは、正直に言って嬉しいとすら思う。どのキャラクターも愛してやまないのだから、お近づきになりたい。  攻略対象者は、王子、ヒロインの義弟、騎士、魔術師、学園の治癒師。  どのキャラクターも素敵で、学園以外に出かけなければ攻略できないというのもポイントだろう。  けれど、転生したキャラクターに問題があった。ティアラローズ・ラピス・クラメンティールとは────ヒロインではなく、悪役令嬢なのだ。  つまり、ティアラローズは誰かと結ばれるというハッピーエンドを迎えることが出来ない。  ──ヒロインだったら幸せだったんだろうけど……。  悪役令嬢ポジションの自分では、今後の人生が楽しく過ごせるかわからない。  この乙女ゲームのヒロインは、辺境伯爵の養女だ。強力な魔力を持っていた彼女は、平民から貴族の養女になり……王都にあるこの学園へ、編入生としてやってくる。  ……というのが、このゲームのストーリーだ。 「まずは、状況を確認しないと……」  ティアラローズは、現在自分の置かれている状況を整理する。  記憶を手繰り寄せて、今とゲームの時系列を比べてみるのだ。  そして問題は、ヒロインが本当に存在しているのかという点。ゲームのキャラクターとは違い、ヒロインはプレイヤーになるのだ。  もしかしたら、存在自体がない、という可能性があった。けれどすぐに、ティアラローズは彼女の存在を思い出した。  綺麗な黒髪に、ゲームの設定と同じ身の上。加えて、ハルトナイツの傍にいつもいる。彼女がヒロインであることは、明確だった。 「確か、ヒロインが編入してきたのは二年前だったはず」  日付を計算して、ゲームのエンディングまでをカウントしていく。そしてすぐに、もう手遅れだということを知る。  なぜならば、今日はエンディングである卒業パーティーの前日だからだ。  明日のパーティーで、ティアラローズは婚約者であるハルトナイツに婚約破棄を突きつけられるのだ。  ハルトナイツ・ラピスラズリ・ラクトムート。  この乙女ゲームのメイン攻略キャラクターであり、ラピスラズリ王国の第一王子だ。  ヒロインと結ばれるまでは、悪役令嬢である自分の婚約者でもある。 「…………最悪」  ゆっくりと目を開き、ぽつりと寂しげに呟いたティアラローズの声は──空中に消えるはずだった。  けれど、その声に返答があった。 「起きたか。……まだ、寝ていればいい。今、馬車の手配をしているからな」 「え? ……ハルトナイツ様。わたくし、ええと」  声の主は、ゲームのメイン攻略対象キャラクターであり、ティアラローズの婚約者であるハルトナイツだった。  さらさらの金髪に、澄んだ青い瞳。まるで硝子ガラス細工のようなそれは、見つめられただけでため息が漏れてしまいそうだ。整った顔立ちはハルトナイツの存在感を際立たせ、けれど無邪気さを残しているためどこか優しい。  ずっとプレイをしてきたゲームの攻略対象キャラクターが、目の前にいる。それはティアラローズをとても不思議な気分にさせた。  少しだけ胸がどきどきするのを感じたけれど、それも次の瞬間には儚く砕け散ってしまう。  現実では、ゲームのような甘い言葉をもらうことは出来ないのだ。 「君が倒れるなんて、初めてだな。……俺がアカリにばかり構うから、気でも引こうと思ったのか?」 「…………」  ハルトナイツの言葉に声をあげそうになるのを、ティアラローズはぐっと飲み込み耐える。酷いことを言われたように思うが、仮にもハルトナイツはこの国の王太子だ。  ──ゲームのハルトナイツと、全然違う。  なんだか、絶望したような感覚に襲われた。もちろん、プレイをしていた自分はヒロインだったのだから、ハルトナイツがプレイヤーだった自分に優しかったのは当たり前だ。  それでも、淡い期待をしてしまうのが乙女ゲームプレイヤーではないだろうか。  ──婚約者だったはずなのに、一緒に出かけたりしたことがなかったなぁ。  単にハルトナイツがヘタレだったのか、それともティアラローズが嫌われていたのかは定かではないけれど。大好きだったゲームだけに、ショックは大きかった。  しっかりとヒロインに攻略されている彼がどういう行動にでるか、ティアラローズには予想不可能だった。何か気に障ることを言えば、不敬だとでも言われてしまうのではないか。  目の前にいる彼が、ゲームで優しかったハルトナイツと同じだとは、どうしても思えないのだ。怖いとすら、感じてしまうほどに。 「……いいえ。あまり体調がよくないようで、ご迷惑をおかけいたしました」 「一応、俺はティアラの婚約者だからな」  ──一応。  その言葉に、ティアラローズは俯く。  仕方がない。なにせ、今のハルトナイツはヒロインであるアカリに攻略されてしまっているのだから。  ──珍しい名前。まるで、日本人みたい。 『ラピスラズリの指輪』は、プレイヤーが主人公であるヒロインの名前を入力する。そのため、公式設定の名前がない。  もしかして、ヒロインも自分と同じような存在ではないだろうか。そんな不安がティアラローズの胸をよぎる。  しかし今、それを考えていても仕方がない。  乗り切らなければならないのは、悪役令嬢としての課題は、もっと別のところにあるのだから。  こほん、と。ハルトナイツがわざとらしく咳をして、ティアラローズを見た。 「……明日は卒業パーティーだが、少し所用があるんだ。すまないが、入場のエスコートが出来そうにない」  まったく申し訳なさそうにせず、ハルトナイツがベッドで横になったままのティアラローズへ伝える。  金髪碧眼という誰が見ても絶賛するその容姿だが、今はひどく冷たい目を見せていた。  何の返事もしないティアラローズに、しかしハルトナイツは何も言わない。 「…………承知いたしました。明日は、一人で会場へ向かいます」  重い沈黙の後、口を開いたのはティアラローズだ。  婚約者にエスコートをされないパーティーは、どれほど屈辱的だろうか。  ……けれど、彼女は知っているのだ。一人で入場したパーティー会場に、ハルトナイツとヒロインが待ち構えており、自分の断罪イベントを始めることを。  ゲームで何度もプレイしたのだ。どのような展開になるかも、もちろんティアラローズは把握している。  現在のプレイルートは、ラピスラズリ王国の第一王子である王太子のハルトナイツ。  一番人気だった彼は、それはもう、ひたすらに……ヒロインを溺愛する。優しい笑顔で甘い台詞を囁き、エンディングの後は王族のみが使用出来る大聖堂で盛大な結婚式を挙げる。  元々の婚約者であるティアラローズは、ハルトナイツを奪われないためにきつい言葉をヒロインにぶつける役どころ。  ストレートに言えば、ヒロインをねちねちいじめる悪役令嬢。  それを断罪されるのが、明日の卒業パーティー。  ──でも、いったいどう断罪する気なのかしら。  ティアラローズが転生した魂を持っていたからだろうか。記憶しているゲームほどには、酷いことをしていないように思えるのだ。  確かに、夜会の時は「婚約者でもない男性と、二回以上ダンスをするものではありません」と注意をした。  婚約者のいる男性にボディータッチをした際は、「その方には婚約者がいらっしゃいますよ」と伝えた。  きつい口調になってしまったかもしれないが、それは常識であり、男性の婚約者であった令嬢は不安に瞳を揺らしていたのだ。  ラピスを賜る侯爵家の令嬢であるティアラローズが、伯爵家の令嬢に注意をすることに、何の問題があるのだろうか。  もちろん、これが逆の立場であったならば話は別である。  ラピスの称号。王家のために多大なる功績を残した家は、家名にラピスラズリ王国のラピスを加えるという名誉が許される。  これは大変に誉れ高いことで、そうそう得られるものではない。そのため、王家の次に権力を持つのがラピスを賜った貴族だ。  その次に、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵と続く。  ゆえに、ティアラローズは王族の次に位の高い貴族の令嬢なのだ。 「……随分、素直に頷くのだな」  返答を聞き、驚きに目を見開いたハルトナイツの顔が彼女の視界に入る。  ティアラローズは、今まで婚約者としてしっかりと振る舞ってきた。  きついところがあったことは認めるが、それは、小さな頃から王妃となるための教育を受けてきたからだ。  身分の低い者に、軽く見られることはあってはならない。また、王太子であるハルトナイツが軽はずみな行動を取ることもあってはならないのだ。  宰相である父に、主人が間違った方向に進みそうな場合は必ず正すようにと言われ育ってきた。  その言葉通り、ティアラローズは完璧に社交をこなし、ハルトナイツの行動をしっかりと見ていた。そうでなければ、ハルトナイツは「社会勉強だ」と、街へお忍びで出かけるようなこともしたから。  ゲーム内では悪役令嬢とされたティアラローズ。しかし、その辛辣な言葉の中には、王太子であるハルトナイツへの愛情がたくさん籠められていたのだ。  そのことに気付けたのは、日本人だった前世から軽生し、彼女自身がティアラローズとなったからだろう。  ──でも、それはちゃんとハルトナイツ様に伝わっていなかったみたい。  大好きなキャラクターだったのにな……と、ティアラローズは寂しく微笑む。 「ハルトナイツ様に我儘を言い、困らせるわけにはまいりませんから」 「いつもならば、婚約者を伴わないなど非常識だと。そう、言うであろう?」 「…………」  ──何を、当たり前のことを言っているのだろうか。この王子は。  それがわかっているのに、それでも一人で入場しろというのか。  思わず、ハルトナイツに対して悪態をついてしまう。本当にゲームのキャラクターと同一人物なのかと、疑問すら浮かぶほどだ。  今までであれば、もちろん注意をした。婚約者として、王太子として、決して恥ずかしい行いをしてはいけないと。  けれど、今は違う。前世の記憶を取り戻したティアラローズは、すでにあきらめてしまっているのだ。  明日のエンディングを迎えるのは、決定事項。そして、ハルトナイツの態度を見てもティアラローズを重要視していないことがわかる。  今、ハルトナイツに彼女の声が届くことはないだろう。 「まぁ、いい。こちらとしても納得してくれた方が助かるからな」 「はい」 「では、俺は戻る。この後、外せない約束があるからな」 「お気遣いいただき、ありがとうございます」  医務室の扉を、外に控えていた従者が開く。ハルトナイツはそのまま出て行き、室内にはティアラローズ一人が残された。 「……わざわざ、人払いをしていたのね。そうよね、そうでなければ、わたくしに嫌みのひとつも言えないものね」  しんとした室内で、ティアラローズの声はよく響く。ため息をついて、これからどうしようかと頭を悩ませる。  いっそ、明日の卒業パーティーを欠席してしまおうか? そんな考えが脳裏をよぎるが、すぐに打ち消す。  ラピスを賜る侯爵家の令嬢が出席しないのは、外聞がよろしくない。  両親に迷惑をかけるのだけは、嫌なのだ。  前世の記憶を思い出しはしたが、今の自分のことだってちゃんとわかっている。優しい家族に、心配をさせたくはない。 「断罪された悪役令嬢は、どうなるのだったかしら。……そうだ、確か国外追放だった!」  ゲーム内では、断罪後のティアラローズに関する詳細な記述はない。しかし、エンディングロールで国外追放をされたという一文があったことを思い出す。