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作者:流星香,榊空也
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-10-15(Enterbrain)
价格:¥620 原版
文库:Bs-Log文库
丛书:お庭番望月蒼司朗参る!(24)
代购:lumagic.taobao.com
お庭番望月蒼司朗参る!24 夏越祓と明日の約束 お庭番望月蒼司朗参る! 夏越祓と明日の約束 流星香 電子版 ビーズログ文庫アリス 本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信したり、ホームページ上に転載したりすることを禁止します。また、 本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。 この作品はフィクションです。実在の人物、団体名等とはいっさい関係ありません。   目次  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  ようこそ帝都へ  プロフィール  首都帝都、華やかなる中心地、帝都城は二重の堀に囲まれた、強固な結界領域である。  内堀と外堀の間にある帝都城公園は、連日大勢の帝都民が訪れる賑やかな憩いの場だが、北部は裁判所や学校、図書館などのある、物静かで落ちついた区画となっている。日中の来園者が主のこの区画では、夕方以降に遊歩道で見かける人影はかなり少ない。  帝都城公園は堀にかかる橋を渡らなければ入れず、東西南北それぞれの橋には門がある。門に常駐する警備員が厳しく目を光らせ、チェックしているので、怪しい者は帝都城公園に入ることはできない。  園内は警備員が巡回しているし、あちこちにある売店や休憩所、施設の職員も常に来園者の行動に気を配っている。  帝都城公園勤務の者たちは、不穏な気配を敏感に察知し、ちょっと変わった物音がしたり怪しい声が聞こえたりすると、速やかに確認のために駆けつける。滅多なことでは大事にはならない。  帝都でもっとも安全な場所、それがこの帝都城公園だ。 「遅くなっちゃった……!」  自習室での勉強を終えて、帝都図書館を出た白百合女学院中等部の一年生は、外灯の光に照らされた遊歩道を、一人急ぎ足で進む。 (明るいうちに帰るつもりだったのに)  昼間でも静かな北の区画は、遠くまで見通せて、音がよく響くように整備されている。植え込みや樹木の陰などの、外灯の光が届かない暗がりに怪しい者が身を潜めていても、遊歩道へ出てこようとすれば、物音ですぐにわかる。 (怪しい人が近づいてきたら、大きな声を出す、売店へ走る……!)  白百合女学院では、SHRシヨートホームルームで生徒に注意を促している。日暮れてから寮へ帰るときは、特に用心しなければならない。この遊歩道は帝都大学の学生の通学路でもあるので、たまたまばったりと出くわした見知らぬ人すべてが怪しいわけではないだろうが、自衛のための警戒は必要だ。 (誰もいないのなら、安全なんだけど……)  暗がりから誰かが出てきて、襲われるのは怖い。しかし、暗くて寂しい場所で、周りに誰もいないのも怖い。 (学校の近くに行けば、誰か、帰る人がいるかも)  白百合女学院と帝都学園の通学路となっている遊歩道なら、下校する生徒を見かけるかもしれない。知人や同じ学校の生徒でなくても、制服姿の人がいれば、少し心強い。  白百合女学院は完全下校の時間を過ぎていて、職員室以外は真っ暗だった。帝都学園の校舎も同じようだが、グラウンドと体育館には、照明が点いていて物音が聞こえた。下校する生徒は遊歩道にいなくても、帝都学園ではまだクラブ活動をしている生徒がいるとわかって、少しだけほっとした気分になった。  一人歩きであることは同じだが、足取りが軽くなった女子生徒は、いくらか進んでから、ぎくりとする。 (……後ろから、音……)  聞こえる────。  ────ビ、ビビ、ビビ……。 (気のせいじゃ、ない……?)  ────ビ、ビビ、ビビ……。  足音ではなく、羽が震えるような音。しかし、昆虫が近くにいるのではない。 (背後に『何か』……)  いる────!  存在を感じるからこそ、女子生徒は怖くて振り返れない。足を止められない。 (でも……)  勘違いかもしれない。ここまで存在を感じさせるほど大きな昆虫なんているはずがない。  振り返って確かめれば、はっきりわかる。だが、それはとても怖い。 (どうしよう!?)  走って逃げきれるものなのだろうか。大声を出したら、どうなるのだろう────。 「そこを動かないで!」  進行方向から聞こえた清しい少年の声に、びくりと女子生徒は身体を震わせた。 「すぐにやっつける!」  遊歩道の角から現れた小柄な少年が、女子生徒の横を物凄い速さで駆け抜けた。擦れ違い様の一瞬の風が、萌え出ずる若葉の薫りを運ぶ。 (今の)  驚いたのと速かったのとで、よく見えなかったが、少年は帝都学園高等部の制服を着ていたように思う。 (まさか、あの……!)  擦れ違った少年の姿を追って、女子生徒は振り返る。  女子生徒の四メートルほど後ろにいたのは、体長一メートルはあるだろう巨大な蛾だ。小柄な少年は、まっすぐにそれへと向かっていく。 「────お庭番、望月蒼司朗、参る!」  一人歩きの女子生徒を狙って現れた魔物『モスマン』をひたと見据え、帝都城奥庭の四神を連れた蒼司朗は、愛用の枝打ち斧の刃にかけていた袋を取り去った。よく手入れされた鋭い刃が、きらり、涼やかな光を放つ。 (一撃で、決める!)  魔物と対峙するのは、お庭番というお役目であっても怖いし、気持ちが悪い。だが恐れたり嫌がったりしていては、何も守ることができない。だから蒼司朗は逃げない。 「ミギャギャ!」 「キュイッ!」 「ピ!」 「「(しゃー!)」」  蒼司朗が強固な意志を持っているから、奥庭の四神はピヨピヨの赤ちゃんの姿であっても、成獣と同じ確固たる力で蒼司朗を守る。帝都を守ろうとしている蒼司朗を助ける。 「成敗!」  女子生徒の血を狙って現れた蛾の魔物を、蒼司朗の枝打ち斧が鮮やかに薙ぎ払った。 「キイィッ!」  真っ二つに分断されたモスマンは、真っ黒な塵と化して散った。 「もう大丈夫だよ。怖いモノは、いなくなったから」  くるりと枝打ち斧を回して刃に残った穢れを祓い、振り向いた蒼司朗は、女子生徒に微笑みかけた。 「ミギャ」  蒼司朗のシャツの胸ポケットから顔を出したチビ白虎が、女子生徒へ愛想を振りまく。 「キュイキュイ」 「ピピチュン」 「「(しゅー)」」  蒼司朗の襟足にくっついているチビ青龍、頭に載っているチビ朱雀、肩にいるチビ玄武も、きょろんと顔を見せて、モスマンに追われて怖い思いをしただろう女子生徒を、円らな瞳で見つめた。 (あ、可愛いっ……!)  帝都城奥庭の四神様と、そのお世話係だというお庭番様は、噂に違わぬ癒し系だ。見ているだけで、ほわほわっとした温かで幸せな気持ちになる。  思わず頰が緩みそうになった女子生徒は、しまりのない顔を見せるような状況ではないことを思い出し、ぐっと堪えた。 (こ、高校生の男子の先輩相手に、可愛いって、失礼よね!)  ちっちゃな四神様に懐かれている姿は、可愛いとしか表現のしようがないのだが、助けてくれた相手に対して、これはきっと言ってはいけない言葉だ。 「……あ、ありがとうございました!」  へらりと笑ってしまいそうになる顔を隠すように、女子生徒は蒼司朗へ礼をする。 「はい! 速やかに浄化しましょう~」  旅行会社の添乗員が持つ旗のように玉串を掲げて、帝都神社の小此木神官長が植え込みの陰から姿を現した。  距離を取ってモスマンを結界内に捕らえていた十名の神官が、結界を狭めながら遊歩道へと出てきた。 「小此木神官長……」 「ミギャ?」  こんなに大勢の神官が近くで身を潜めていたことに、まったく気づかなかった蒼司朗と女子生徒は、びっくりして彼らを見つめる。  遊歩道に魔物の穢れを残さないよう、神官に浄化の指示を出した小此木神官長は、女子生徒のほうを向いて注意する。 「暗くなってから、一人で帰るのは危ないですよ。お勉強は大切ですが、これからは明るいうちに帰るようにしましょうね」 「────はい」  呆然としながらも素直に頷いた女子生徒へ微笑み、視線を逸らして小此木神官長は言う。 「真純くん、送ってあげてください」 「承知いたしました」  どこからか、まるで瞬間移動したかのように小此木神官長の斜め後ろへと現れた『くのいち』、忍び装束を着た公儀隠密の少女は、一瞬の早着替えで制服姿へと変わった。 (えっ!? えっ!? えぇっ!?)  白百合女学院高等部の制服を着た少女を見て、女子生徒は目を丸くする。 (まさか、この先輩が……!)  高等部に現役の公儀隠密が在籍していることは、白百合女学院の生徒なら皆知っている。  驚いている下級生に公儀隠密の少女は、にこりと微笑んだ。 「高等部二年生の柳生真純です」 (ほ、本物、キター!)  女子生徒は声も出ないほど緊張しながら、勢いよく柳生真純へお辞儀をした。  元気のあるお辞儀を見て、柳生真純は女子生徒に精神的な負担はなかったと判断して安堵する。 (寮監の先生に報告しておくだけでよさそうね)  小此木神官長たちが魔物を追っていて、蒼司朗がそれを退治したので、女子生徒に実害はなかったが、報告は必要だ。保健医のカウンセリングや診察は、寮監の判断に委ねればいいだろう。  柳生真純は小此木神官長と神官へ一礼し、ピヨ四神を連れている蒼司朗へも一礼する。 「奥庭の四神様、蒼司朗様、どうもありがとうございました」 「あ、ありがとうございました!」  柳生真純に続いて、女子生徒も蒼司朗に一礼する。  噂に聞く先輩と肩を並べ、女子生徒は緊張しながら寮へ帰っていった。  柳生真純が一緒なら、心配はない。  ほっと一息ついてから、蒼司朗は小此木神官長と帝都神社の神官に向かって、勢いよく頭を下げる。 「もうしわけありませんでした!」  霊力のない者には、結界の中でなければ、奥庭の四神の姿は見えない。 (あの子には、ビャクたちが見えてたし!)  モスマンは警戒心が強く、賑やかな場所を避け、少人数で行動する者を狙う、こそこそとした魔物だ。普通なら、蒼司朗が駆けつけた時点で、逃げていただろう。  退治できたのは、神官が結界でモスマンを捕らえ、逃がさないようにしてくれていたからだ。 (作戦行動中だったのに……!)  帝都に出没する魔物、モスマンの討伐のため、帝都神社の神官を率いて小此木神官長が行動していたところに、蒼司朗は出しゃばった。  蒼司朗が駆けつけなくても、神官の結界によって魔物は女子生徒と引き離され、気づかれぬままに退治されていただろう。  身体を二つ折りにする勢いで頭を下げている蒼司朗の前で、小此木神官長は苦笑する。 「頭を上げなさい、蒼司朗くん。こちらの作戦に割りこんだのは本当ですが、奥庭の四神様が君にそうさせたのでしょう?」  蒼司朗にくっついているピヨ四神は、気配を敏感に察知する。チビ朱雀が警告を発したので、蒼司朗は女子生徒を危機から救うために駆けつけた。それはこの場にいる神官の誰にでもわかる。 「誰も、蒼司朗くんが余計なことをしたとか、思っていませんよ」  神官たちは身を隠していて見えなかったのだし、あの場で女子生徒の背後に迫る魔物を見つけたなら、退治して然るべきだ。 「ほら、奥庭の四神様が、何事かと不思議がっておられます」  ピヨ四神に目をやった小此木神官長は、くすくすと笑う。 「ミギュ」 「キュウ」 「ピピ」 「「(しゅー)」」 (うわわ……!)  円らな瞳で、きょろきょろと周りを見ているピヨ四神に気づいて、蒼司朗は慌てて姿勢を正す。 「はい、よろしい」  小此木神官長は、起立した蒼司朗を満足そうに見つめた。  帝都城と帝の守護神である奥庭の四神様を連れているのに、蒼司朗がいつまでも神官長と神官へ頭を下げているのはよろしくない。  ピヨ四神を気にする誠実な蒼司朗の姿は、神官たちの目にも、とても微笑ましく見える。  浄化を終えて結界を解除した錦野神官は、枝打ち斧の袋を拾い、蒼司朗へ差しだした。 「お帰りの途中だったのでしょう?」 「はい」  蒼司朗は会釈して、錦野神官から袋を受け取った。すっかり恐縮している蒼司朗に、反町神官は笑う。 「蒼司朗様には連絡してませんから、こういうことがあっても仕方ないですよ」  帝都の神官が憧れる、名誉ある『帝都城奥庭のお庭番』だが、蒼司朗は神官候補生であり高校生だ。神官修行や奥庭の作業も大切だが、未成年者の学業や生活を疎かにさせるわけにはいかない。蒼司朗にとって時間外の魔物討伐作戦は、伝えられなくても当然だ。  そして、神官としての能力が足りず、普通なら介入できないはずの結界が張られた場所にも、ピヨ四神の加護を受けている蒼司朗は、苦もなく入りこめてしまう。  ピヨ四神に機嫌よく見つめられながら、枝打ち斧の刃に袋を被せている蒼司朗へ、小此木神官長は微笑む。 「蒼司朗くんは、まだまだへっぽこですからねぇ。早く一人前に結界が扱えるようになりましょうね」 「はい、がんばります!」 「ミギャギャ」 「キュイキュイ」 「ピピチュン」 「「(しゅー)」」  人間の言葉は通じないので、何を言っているのかはわかっていないが、蒼司朗の元気がいいと、ピヨ四神は嬉しい。  奥庭の四神様のお世話係を、面と向かって『へっぽこ』呼ばわりできるのは、帝都最高位の神官である小此木神官長だからだ。  晴れやかに返事をする蒼司朗と、無邪気にはしゃぐピヨ四神の鳴き声を聞き、そっと錦野神官たちは視線を逸らす。 (嫌味言われてるんだよ、蒼司朗くん) (わかってないよな)  いたいけな者たちの純粋さが、どうにもいたたまれない。  魔物が出没するようになった帝都では、モスマンによる被害者を出さないため、警戒を促している。若い女性の夜間の一人歩きは、要注意だ。  名家の子女が多く通う、名門で由緒ある白百合女学院の生徒は、モスマンの標的になりやすい。帝都神社では、同じく帝都城公園にある、白百合女学院の生徒のことを気にしていた。  今日、帝都図書館を利用している白百合女学院の女子生徒が、日暮れてから一人で寮に帰るだろうことは、速やかに帝都神社へと伝えられた。女子生徒に被害が及ばないよう、帝都神社の神官が警護したと言えば、とても聞こえがいいのだが。 (魔物を誘きだす、囮に使われたんですよね……)  たとえば、女性の警察官や公儀隠密を囮に使えば、モスマンは簡単に誘いだせるのだろうが、何か予期しない危険があるかもしれない。そうわかっていて、上司権限で命令するのは、いろいろと問題がある。  だが、個人の事情で、たまたま偶然、モスマンに狙われそうな状態になってしまったのなら、それは仕方のないことだ。  魔物退治の経験値を稼ぎ、魔物の数を減らすのに、ちょうど具合がいい。誰も大きな声では言わないが、小此木神官長の考えそうなことなんて、神官たちにはまるわかりだ。 (だけど、それでも────) (さっきのは、ちょっと、得した気分じゃないか?)  神官たちは、柳生真純が連れて帰った女子生徒へ、ちらりと視線を送る。  ちょうど遊歩道の角を曲がるところだった女子生徒は、頰を上気させ、とても楽しそうに微笑んでいる。  女子生徒は、魔物に襲われそうになったところを、帝都で評判になっているお庭番様に助けられた。赤ちゃん返りした、愛らしい帝都城奥庭の四神様の姿は、霊力のない一般人には滅多に見られないものだ。さらに、現役高校生で公儀隠密という、白百合女学院の誇りである生徒の柳生真純と一緒に寮へ帰るのだ。  しばらくは、白百合女学院の生徒たちから羨望の的だろう。  袋の口を紐で縛り、いつものように枝打ち斧を持つ蒼司朗を眺め、小此木神官長は首を傾げる。荷物が足りないのではないだろうか。 「蒼司朗くん、鞄はどうしました?」 「あ、えーっと……」  訊ねられた蒼司朗は、視線を泳がせる。 「蒼司朗様」  帝都城公園の巡回警備を行っていた、公儀隠密候補生・柳生蘭丸が、木立の間から遊歩道へと姿を現した。 「こちら、向こうの遊歩道の端に落ちていたのですが……」  柳生蘭丸の持っている帝都学園高等部指定の鞄を見て、小此木神官長は目を丸くし、蒼司朗は慌てる。 「すみませんっ! ちょっと置いてただけですっ!」  チビ朱雀が警告を発したので、蒼司朗は鞄を遊歩道の端に投げ捨て、枝打ち斧だけを持って現場に急行したのだ。鞄は全生徒同じでも、ノートや教科書に名前が書いてあるので、誰の持ちものなのかはすぐにわかる。 (ちょっとって感じじゃあ、なかったけど)  柳生蘭丸は、状況から事情を推測する。  道端に鞄を放りだし、ピヨ四神を連れた蒼司朗が、ここにいる。  少し離れた遊歩道で、妹の柳生真純が中等部の女子生徒を一人送っていき、蒼司朗の側には小此木神官長と帝都神社の神官が十人もいる。  帝都には魔物が出没するので、十分に警戒せよとの命令が出ている。  そして帝都城奥庭のお庭番である蒼司朗は、名誉ある役職に相応しいよう、優れた素行も求められる。緊急事態であれ、鞄を投げ捨てていくというのはよろしくない。 (……あぁ、なるほど)  すっかり理解し、柳生蘭丸は微笑む。 「そうですか。すみません、余計なことをしまして」