后退 返回首页
作者:藤谷燈子,ヤマコ , Honeyworks
类型:乙女向 书籍样本 日文
出版:2016-10-02(角川书店)
价格:¥580 原版
文库:角川Beans文库
丛书:告白预演系列(6)
代购:lumagic.taobao.com
告白予行練習 金曜日のおはよう 告白予行練習 金曜日のおはよう 原案/HoneyWorks 著/藤谷燈子 角川ビーンズ文庫 本作品の全部または一部を無断で複製、転載、配信、送信したり、ホームページ上に転載したりすることを禁止します。また、 本作品の内容は、底本発行時の取材・執筆内容に基づきます。  Contents introduction ~イントロ~ audition1 ~オーディション1~ audition2 ~オーディション2~ audition3 ~オーディション3~ audition4 ~オーディション4~ audition5 ~オーディション5~ audition6 ~オーディション6~ 終章 ~終章~ コメント 《7:00》  週明け、月曜日。  今朝は目覚まし時計のアラームが鳴る前に、ベッドから抜けだした。  念入りに「おはよう」のオーディションをして、髪型もバッチリ決まった。  大丈夫。今日こそ言える、はず。 《8:00》  二車両目、お気に入りの特等席は空いていたけれど、あえて座らなかった。  彼女が乗ってきたら、すぐに声をかけられるように。 《8:03》  ちらりと腕時計を確認した途端、心臓がバクバクしてきた。  やばい、やっぱ無理かも。  思わず逃げ腰になりかけたとき、シャランと綺麗な音が聞こえた。  手元に視線を落とすと、傘の柄で小さな星が揺れていた。  先週の金曜日に、彼女が貸してくれたやつ。 『傘をどうぞ……』  あのとき君は少しはずかしそうに下を向きながら、そう言った。  まともに話したことないやつに話しかけるのって、めちゃくちゃ緊張すると思う。  そのうえ、傘まで貸してくれるなんて……。  今度は、今度こそ、俺が声をあげる番だ。そうだろう? 《8:07》  電車が駅のホームに入っていく。  乗車位置に並ぶ列の一番前に彼女がいた。  向かいのドアが、開く。  彼女が俺を見つけて、「あっ」と小さくつぶやいた気がした。  動け、俺の足。さしだせ、傘を。 「これ! ありが、とう」 「う、うん」 「それと、その……」  なさけないな、声が震えてる。  けど、ここで逃げたりなんてしない。絶対に。  何度も何度も、バカみたいに練習してきたのは、このときのためだ。  うるさい心臓を抑えるように、シャツをにぎりしめる。  深呼吸しろ。  もう一度息を吸ったら、口を開け。  そうして、震えるのどから声をしぼりだすんだ。  せーの! 「おはよう」 《7:00》  枕元で、目覚まし時計のアラームが鳴っている。  濱中翠はのそりと起きあがり、ベッドサイドの時計に手をのばす。  ツッコミを入れる要領でアラームを止め、ボサボサの髪を乱暴にかきあげた。 「誰や、セットしたやつは……しかもこんな朝早くに、ありえへんやろ……」  ぶつくさ言いながら、枕元に置きっぱなしのスマホを手にとる。  白く丸いホームボタンを押すと、時刻とともに今日の日付が表示された。 「四月七日ぁ? 七日っちゅーたら……ぎゃっ、始業式!」  翠はベッドから転がるようにおり、わたわたと洗面所へ駆けこむ。  のんびりと過ごせた高二の春休みは昨日まで。  今日からは、いよいよ高三だ。 「なんでも最初が肝心っちゅうからな。バシッと髪型も決めていかな!」  気合いを入れ、まずは洗顔からだと勢いよく蛇口をひねる。  窓からは、春のやわらかな光が射しこんでいた。 《8:00》  二車両目、お気に入りの特等席に座る。  端っこだから手すりにもたれかかれるし、ドアに近いから降りるときも楽なのだ。  高校の最寄り駅まで、あと四駅。  翠はあくびをしながら通学鞄をひざの上に載せ、そっと目を閉じた。 《8:07》  電車が速度を落としていく。そろそろ次の駅に止まるらしい。  ふっと目を開けると、ちょうど向かいのドアが開くところだった。  一番前には、いつもの女子二人組が並んでいた。  腰までありそうな金髪をふたつ結びにしているのが、成海聖奈。  となりで笑っている黒髪ストレートが、早坂あかりだ。  翠と同じく桜丘高校の生徒だが、まともに話したことはなかったりする。  あかりは女子と固まっていることが多く、話しかけるのは決まった男子ばかり。彼女と仲のいい榎本夏樹の幼なじみである、瀬戸口優や芹沢春輝たちだ。  一方の聖奈は人気の読者モデルで、そもそもあまり校内で見かけなかった。 (ほーん、さすがに始業式には顔をだすんか)  ふたりはこちらに背を向けるようにして、正面の吊り革につかまっている。  だが時折、たのしそうに笑いあう横顔が見え、翠は「テレビのまんまや」とつぶやく。  中学生のときに街中で雑誌のスタッフに声をかけられたという聖奈は、その後、階段を駆け上るように一気に有名人になったらしい。 (そういや今朝も、ハニワ堂のプリンのCM流れとったな) 「ねえねえ。あそこにいるのって、聖奈ちゃんだよね」 「えっ、あの『Honey』の読モの?」 「絶対そうだよ。すごーい、同じ路線使ってるんだ」 「実物やばいね。顔小さいし、足も細くて長いし……うらやましいなあ」  となりに座るセーラー服の女子高生たちが、ひそひそと話す声が聞こえてくる。  ボリュームは抑え気味だったけれど、まさかの遭遇に興奮しているのが伝わってきた。  制服が真新しいのを見ると、きっとどこかの新入生だろう。 (そういえば一昨年も、去年のいまごろも、あっちこっちざわついとったなあ)  かくいう翠も、はじめて聖奈に会ったときはテンションが上がった。  あれは二年前、高校の入学式が終わった直後のことだ。  体育館から教室へ移動するように言われたのに、なかなか列が動かなかった。不思議に思って背伸びすると、なぜか出入り口が詰まっているのが見えた。 『何、有名人でもいるの?』 『一組に成海聖奈ちゃんがいるんだって!』 『ウソ、ホントに? 一緒に写真撮りたーい』 『私、サインほしいかも』  近くにいた女子たちのはしゃぐ声に、翠は驚きを隠せなかった。  東京の高校には芸能人がおるんか!  その衝撃といったら、ハンパなかった。  もちろん、中学卒業まで住んでいた大阪にだって、読者モデルはわんさかいたはずだ。  たぶん翠が知らなかっただけで。  ともかく、遠目にも聖奈のオーラはすさまじかった。  キラキラと星のように輝くから「スター」と呼ぶのだと、納得してしまうくらいに。 (今年の新入生も、ピーチクパーチクうるさいんやろなあ)  もっとも翠が知る限り、聖奈をめぐって大きな騒動になったケースは一度もない。  当の本人が、上手いことその場を納めているからだろう。 (いくら人気商売っていったって、ファンサービスも大変やな)  そんな翠の心の声が聞こえたのだろうか。  何かに気づいたように、聖奈がこちらをふり返った。 「!」  突然のことに、翠は息をのむ。  不意打ちすぎて、きっと目は大きく見開かれているに違いない。 (や、やってもうたあああ!)  慌てて視線を外したけれど、それはそれで逆効果だっただろうか。  聖奈にしてみれば、目があった途端、勢いよく顔をそらされたことになる。  感じの悪いやつだと、そう思われてもおかしくない状況だ。 (つっても、ここでフォロー入れたりしたら、ますます変に思われるんちゃう!?)  翠は内心、頭を抱えながら、ちらりと聖奈の様子をうかがった。  すると彼女はすでにこちらに背を向け、あかりと話すのに夢中になっていた。 (セーフ? セーフなんかな、これ……)  気まずさは残るものの、あまりじっと見つめていては、またいつ聖奈がふり向かないとも限らない。目があいながら二度も視線をそらすなんて、さすがにやったらダメだろう。  電車に揺られながら、翠はまぶたを閉じる。 (これで同じクラスになったら笑えるわー、なんてな)  約二週間ぶりの高校には、朝からにぎやかな声が響いていた。  とくにクラス替え表が貼りだされた掲示板の前は、ひときわ盛り上がっている。  そのなかになじみのある後ろ姿を見つけ、翠は背中をぽんっと叩く。 「春輝! 何組やった? もう名前見つけたんか?」 「おー……」 「なんやねん、朝っぱらからテンション低いなあ。まーた徹夜したんか」 「ん? あー、まあ、うん」  いやだから、どっちやねんて。  翠がツッコミを入れようとした瞬間、春輝が「ふああ」と気の抜けたあくびをする。  徹夜かどうかはともかく、寝不足なのはたしかなようだ。 (どうせ映画のDVD観とったり、新作の構想でも練ったりしてたんやろ)  春輝は観るだけでなく、自分でも撮るタイプの「映画バカ」だ。  幼なじみの優や望月蒼太と映画研究部を立ち上げ、毎年文化祭で作品を上映している。  そのうえ個人でも映画を撮っていて、インターネットで公開したり、各種コンクールに応募しては賞をかっさらったりしているらしい。  翠も何本か観たことがあるのだが、そのことを本人に伝えたことはなかった。 (褒め言葉しかでてこんし、そんなんこっぱずかしくて言えんわ)  翠は首の後ろをかきながら、表から自分の名前を探す。  思わず「おっ」と声がもれたのは、同じクラスに春輝の名前も並んでいたからだ。 「やったな、一緒のクラスやん!」 「いや、別々だろ」 「はあ? 俺とおまえ、一組やん」  よく見てみろと表を指さすと、春輝があっけにとられたような表情になった。  目を丸くし、ぽかんと口を開けて、まるでコントみたいだ。  おまけに赤い顔で「違う、いまのなし」などとつぶやく様子に、翠はピンとくる。  これはもしかして、もしかするのではないだろうか。 「ははーん、読めたで。誰かとクラスが違うて落ちこんどったんやろ?」 「……まさか。ガキじゃないんだし」 「あー、優ともちたは二組やったんか。残念やったな」  翠はからかい半分、励まし半分で背中を叩く。  だが勢いがつきすぎたらしく、春輝はその場でよろけ、じろりとにらんでくる。 「おまえなあ、ひとの話を聞けって」 「けど一組と二組なら、体育は一緒やん。よかったな」 「だーかーらー、俺は別に優たちとクラスが分かれたからって落ちこんでないっての!」 「いやいやいや、そないムキになるとか怪しいやろ」 「勝手に言ってろ」  ふいっと顔をそらした春輝は、立ち去るでもなく無言でクラス表を見上げている。 (なんや、やっぱ気にしとるんかい……)  翠は苦笑しながら、同じように表を見上げる。  二組には優と蒼太だけでなく、夏樹たち女子も固まっていた。 (おーおー、合田と早坂もおるやん)  合田美桜は、夏樹とあかりと同じ美術部だ。  本人はおとなしそうな性格であまり目立たないけれど、やたら絵が上手いらしく、あかりとふたりで何かと表彰されている。校内に彼女たちの作品が飾られることも少なくなく、聖奈とはまた違った意味で有名人だ。  ムダにコミュニケーション能力の高い春輝と、人見知りの美桜。  まるで正反対にも思えるふたりだが気があうらしく、たのしそうに話しこんだり、一緒に帰っていくのを何度となく見かけている。  そのうち、芹沢春輝と合田美桜で「春カップル」と呼ばれるようになった。  けれどそんなふうに盛り上がっているのは、周りだけだ。  いつまで経っても、本人たちはつきあっていると明言しない。 (少なくとも春輝のほうは意識しとると思うんやけどなあ) 『春輝ぃ、合田といい雰囲気やん』 『そうか? 別にふつうだろ』  あれは高二のときだ。  体育の授業で得点係をしながら、翠はふたりの関係に探りを入れたことがある。  春輝はとくに動揺することもなく、ただ小さく笑っただけだった。  あの空気が「ふつう」とか、それもうつきあってるやろ!  そう言い返してやりたかったが、実際には押し黙るしかなかった。  美桜がいるテニスコートを見つめる春輝の瞳が、キラキラと輝いていたからだ。 (ん? もしかして、春輝が落ちこんどったのって……)  優や蒼太たち幼なじみとクラスが分かれたことが原因ではないのかもしれない。  それこそ春輝本人が言うように「ガキじゃない」のだから。  だが、気になる女子と同じクラスになれなかったことに凹んでいたとしたらどうだろう。  それなら充分ありえる話だ。 (ま、部外者の俺が、やいのやいの言うことじゃないな)  かくいう翠自身、これまで誰かに告白した経験はない。  小学生のときは、仲間と遊ぶのに夢中だった。  中学生になって気になる子ができたものの、もっと夢中になるものに出会ってしまった。  ギターだ。  物置で発見したそれは、父が学生のころに使っていたものだった。  翠はその日から時間を忘れて練習に励んだ。はじめは満足にコードを押さえることすらできなくて、指がつりそうになっていたのも、いまではいい思い出だ。 (それでも高校に入ったら、自然に彼女とかできるやろ! って思っとったけど……)  少なくとも翠に関しては、何も起こらなかった。  毎朝、電車のなかで、なんとなく探してしまう後ろ姿はあったけれど。 「あーっ! 見て見て、同じクラスだよ」  背後から、底抜けに明るい声が聞こえてきた。 (いまの、夏樹か?)  ちらりとふりかえると、案の定、夏樹がクラス替え表を指さしていた。  となりには、あたりまえのように優が立っている。 「やったね、優!」 「……なつきは俺と同じクラスだと、うれしいんだ?」 (い、いまの、どういう意味やねん!)  優としては、見たまま、思ったままを言ったのかもしれない。  だが聞きようによってはドキリとする内容で、居合わせた翠のほうが緊張してしまう。  実際に質問された夏樹はといえば、ぽかんとした顔で優を見上げていた。 「? そりゃそうだよ」 「えっ」  あっさりとうなずかれ、優が言葉を失う。  対する夏樹は腰に手をあて、なぜか得意げな顔で言った。 「同じクラスなら授業の進み具合も一緒だし、課題だって見せてもらえるじゃん!」  そのとき、ぴしりと音を立てて空気が凍った気がした。  翠は怖いもの見たさで、優の様子をうかがう。  空気を凍らせた張本人は、なんともいえない笑顔のまま固まっていた。 「……ああ、そういう……」 「うん! これでテストも怖くないし、部活がんばるぞー」 「「優、どんまい」」  打ち合わせたわけでもないのに、翠と春輝の声が重なった。  おまけに同じタイミングで優の肩を叩いていた。 「ほっとけ」 「あ、春輝! 翠くんも! おはよう」  苦々しげな表情でつぶやいた優とは違い、夏樹は相変わらず笑顔を見せている。  翠と春輝も笑って応えつつ、左右から優の顔をのぞきこむ。 「優、夏樹になんて言ってほしかったん? なあ?」 「はい? なんのお話ですか?」  すっとぼけた返事をする優に、春輝がやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。 「つか、いまのは質問した時点で優の負けだからな?」 「そうかあ?」  つい翠が聞き返してしまったが、優も不思議そうな表情を浮かべている。  春輝はわざとらしく咳払いをすると、やけにいい声で言った。 「俺もおまえと同じクラスになれてうれしいよ、でよくね?」 「うまい! 座布団、一枚!」